契約の森 精霊の瞳を持つ者

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32.

 タカオはレッドキャップが攻撃した場所を確認しながら、次に逃げる場所を探す。円を描くようにずれて床を攻撃させれば、あの大きさだ。きっと床は重さに耐え切れずに抜け落ちてしまうだろう。


 何十メートルも下に落ちれば、さすがのレッドキャップも無事ではすまない。けれど、攻撃が1度でもタカオに当たれば命はない。次に攻撃させる場所を決めて、ギリギリのところで避けるだなんて、タカオにしてみれば全てが賭けだ。


「いつまでも、避けていられると思っているのか」


 レッドキャップの唸り声とともに攻撃は繰り出され、床に直撃する。もう何度目かも分からない攻撃を避けて、タカオはあと2回で充分だと計算していた。それまでに気がつかれたら、もうこれ以上の策なんてありはしない。


ーーあいつの気を逸らさないと。


 タカオの体は徐々に重くなっていくように、最初の攻撃を避けた時ほど、足に力が入らなくなっていた。それでも、表情は崩さない。


「避けられるよ。あんたの攻撃は単純だし、なにより遅いからね」


 レッドキャップの足元の砂が動く音がする。タカオが逃げる経路も計算して、攻撃する場所を変えるつもりだろう。


「ほう、そう強がっていられるのはいつまでだろうな」


「あんたは他のレッドキャップと違うと思ってたけど、そう変わらないな。大きいだけのただのレッド……」


 タカオが言い終わる前にレッドキャップは攻撃を仕掛けていた。それは予測できないほどの速さでタカオを襲う。


 逃げる場所を決めていなければ、避けることは無理だっただろう。避けたところで、今回の攻撃はレッドキャップの全力だった。もしくはそれに近い力だった。


 避けたはずの攻撃は、床に直撃するとその衝撃波がタカオを襲った。地面にくらいつくように背を低くしていなければ、吹き飛ばされてもおかしくないほどだ。衝撃音は建物の中で反響する。その中で、レッドキャップはこれまでとは違う様子だった。


 床を殴りつけたままの状態で止まり、静かに息を吐き出している。


ーー空気が変わった。


 レッドキャップの地雷を踏んでしまったことにタカオが気がつくまで、そう時間はかからなかった。レッドキャップの声は床を這うようにタカオに向かった。


「俺が、レッドキャップだと……言いやがったのか?」


 静かな怒りがあたりに満ちている。触れれば、もう後戻りはできそうにない。


「この俺が、あの腐ったネズミどもと同じだと」


 目の前のレッドキャップが何に怒っているのか、タカオは分からずにいた。けれど、レッドキャップと呼んだ時から様子がおかしいことはたしかだ。


 タカオは、仲間をあんな風に痛めつけることができる、底知れぬ残忍さを持っているこの化物が恐ろしかった。けれど、違うのだ。


ーーこいつは、レッドキャップとは別の何かなんだ。レッドキャップを仲間だとは思っていない。


 指示をする、制裁を加える。それに間違えられたことにこれだけ怒りを感じるほど、レッドキャップを軽蔑している。



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