契約の森 精霊の瞳を持つ者
30.
タカオがレッドキャップの最初の攻撃を避けた時、シアとルースは思わず叫びそうになるのをやっとのことで押し殺した。
他の子供達は皆、その場から動かず、大きな音に驚いたようにぎくりとした。けれど、誰1人として泣くものやその場から逃げようとする者はいなかった。魔法はまだ持続している。シアとルースは胸を撫で下ろした。
シアには、子供達には別の魔法もかかっているような気がしてならない。それには自分もかけられているように思うからだ。暗闇で月の光を浴びてより輝く、タカオの黄金の瞳のせいだった。
ここにいる多くの子供達は、精霊に出会ったことがなかった。話には聞くものの、それはどこかおとぎ話のように現実味がない。けれどタカオの瞳は、ずっと聞かされ続けていた精霊の瞳そのものだった。あの瞳を見たのなら、思わずにはいられなかった。
「お兄ちゃんにはきっと、精霊様のご加護があるよ」
シアは自分でも気がつかないうちに、そう呟いていた。ルースはシアの言葉を聞き逃さなかった。シアにしか聞こえないように囁くように言う。
「そっか、あの瞳は精霊の瞳……ってことは、まさか精霊が復活したってことか?」
シアはタカオの動きを目で追いながら頷く。
「昨日の朝、村の泉に水が戻って、そこで倒れてたお兄ちゃんをパパが家に連れてきたの。精霊様がやっと戻ってきた。きっとお兄ちゃんに力を与えてくれるよ」
ルースもシアと同じようにタカオを見つめる。
「あれは、水の精霊の目……」
ルースの言葉は途切れてしまった。タカオは次の攻撃もかわしたものの、それはギリギリのところで、少しの余裕も見えない。それどころか、先ほどよりも動きが遅いようですらあった。
「動きが変だ」
ルースはそう言って身を乗り出すように床と板の隙間に近づく。シアも強張った顔を近づける。タカオは再びレッドキャップの攻撃を交わしている。けれどまるで、次の逃げ道でも探しているように周りの様子を伺っている。そのせいで、次の攻撃を避けるタイミングが遅れてしまうのだ。
「何してんだよ」
ルースはタカオの考えが読めず、苛ついた声を出す。シアの心配はルースとは別のことだった。
「どうして……精霊様は助けてくれないの?私達、見捨てられたの?」
シアは自分の言った言葉に自分自身でも驚き、そして言葉にしてしまうと、なぜか余計にその思いが強くなってしまった。シアは自分の口に手を当てて、涙が流れるのを止めることができなかった。
他の子供達は皆、その場から動かず、大きな音に驚いたようにぎくりとした。けれど、誰1人として泣くものやその場から逃げようとする者はいなかった。魔法はまだ持続している。シアとルースは胸を撫で下ろした。
シアには、子供達には別の魔法もかかっているような気がしてならない。それには自分もかけられているように思うからだ。暗闇で月の光を浴びてより輝く、タカオの黄金の瞳のせいだった。
ここにいる多くの子供達は、精霊に出会ったことがなかった。話には聞くものの、それはどこかおとぎ話のように現実味がない。けれどタカオの瞳は、ずっと聞かされ続けていた精霊の瞳そのものだった。あの瞳を見たのなら、思わずにはいられなかった。
「お兄ちゃんにはきっと、精霊様のご加護があるよ」
シアは自分でも気がつかないうちに、そう呟いていた。ルースはシアの言葉を聞き逃さなかった。シアにしか聞こえないように囁くように言う。
「そっか、あの瞳は精霊の瞳……ってことは、まさか精霊が復活したってことか?」
シアはタカオの動きを目で追いながら頷く。
「昨日の朝、村の泉に水が戻って、そこで倒れてたお兄ちゃんをパパが家に連れてきたの。精霊様がやっと戻ってきた。きっとお兄ちゃんに力を与えてくれるよ」
ルースもシアと同じようにタカオを見つめる。
「あれは、水の精霊の目……」
ルースの言葉は途切れてしまった。タカオは次の攻撃もかわしたものの、それはギリギリのところで、少しの余裕も見えない。それどころか、先ほどよりも動きが遅いようですらあった。
「動きが変だ」
ルースはそう言って身を乗り出すように床と板の隙間に近づく。シアも強張った顔を近づける。タカオは再びレッドキャップの攻撃を交わしている。けれどまるで、次の逃げ道でも探しているように周りの様子を伺っている。そのせいで、次の攻撃を避けるタイミングが遅れてしまうのだ。
「何してんだよ」
ルースはタカオの考えが読めず、苛ついた声を出す。シアの心配はルースとは別のことだった。
「どうして……精霊様は助けてくれないの?私達、見捨てられたの?」
シアは自分の言った言葉に自分自身でも驚き、そして言葉にしてしまうと、なぜか余計にその思いが強くなってしまった。シアは自分の口に手を当てて、涙が流れるのを止めることができなかった。
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