契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

19.

 ルースは少しためらうように言う。


「ここのサーカスのことはよく分からないんだ。ずっと昔から変な噂があるだけで、実際は誰も本当のことを知らないままだ」


 2人が階段を上がる小さな音が微かに響き、頭上ではコダとグリフが暴れている音がする。


「でも昔、大きな何かが飛び立つのを見たって、父ちゃんが言ってた。それからしばらくして、ここは王家によって閉鎖されたけど、詳しい説明は誰も聞いてないんだ」


まるで嵐のような風が唸りをあげている。


「噂っていうのがさ、霊獣とか、妖精とか、とにかく珍しいものや奴隷を売買してる集団がいるって。サーカスっていうのは表向きで、たぶんだけど、その集団がここをアジトにしてたんだと思う」


 階段はそろそろ、上の階へ着きそうだった。


「酷い話だ。……でも、やけにここの事に詳しいな」


 グリフとコダも詳しそうだったけれど、これはみんな知っていることなのかと、タカオは疑問に思った。ルースは得意げな顔でタカオを見上げる。


「俺のとーちゃん、王家で働いてたんだ。それで色々と話してくれたんだ。昔の話だけどね」


 言い終わる時にはどこか寂しそうにその言葉は響く。タカオはそんなことに気が付きもせずに、声を少し大きくした。


「王家で?たしか、ライルも護衛の仕事だったはずだ。あの村には、王家に関係する人が多いのかな」


 タカオの言葉にルースは頷きながら、階段を上がる。軽快にリズミカルに。タカオは重たい足を無理やり上げて、息も上がっていた。


「そうだよ!あの村は王都から逃げてきたエルフ達を受け入れた村なんだ。ユミルはライルと父ちゃんのボスだったし、トッシュはユミルのボスだった。あの村に逃げられたのは、運よく王家の城に逃げてきた王都のエルフと、それを護衛した護衛団だけだけど」


 タカオは肩で息をして、ルースの話に相づちすら打てず、話も半分も理解してはいなかった。


「あんなにここのサーカスのことを話してたのになぁ。とーちゃんもライルも、王家がサーカスを閉鎖する時には、何も教えてくれなかった。あれ以来ここの話題をみんな避けてるみたいだ」


 ルースは考え込むように自分の足元に視線を落とす。タカオは振り返って、ルースの頭に手を置く。


「もう解決したから、話すことがなくなったんじゃないのかな」


 ルースはタカオを見上げて、真剣な眼差しを向けた。


「違うよ。酷い話だったんだ。今でも言えないくらい、きっと酷いことが起こったんだ。だってそのあとすぐだ、闇の者が攻めてきたのは」


 ルースはシアよりも年上だ。その時代を生きたウッドエルフの1人。たった少しの違いで、ジェフやシアのように、その時代にいなかった者がいる。けれどルースのように、その時代を生き抜いた者もいる。



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