契約の森 精霊の瞳を持つ者
10.
「悲しいなんて……そんなものじゃないだろ!!」
グリフがそう小さく呟く声がコダに聞こえる。
今よりもっと幼くて、全然しゃべらず、笑いもしない。王子が突然連れてきた、傷だらけの少年のグリフ。弱々しくて、グレイスとは正反対の少年だった。
「だったら、お前だって家族だろ!お前以外はみんなそう思ってたんだ!王子だって……お前だけは家族だって思ってただろ」
そう言うコダは、最後の声は消え入りそうだった。グリフもコダに掴みかかろうとするのをやめる。
「グレイス。王子は俺を気に入ってたわけじゃない。お前だって知ってるはずだ。俺は……ただの、」
グリフが心底嫌そうな顔でそう言いかけた時、足下から情けない声が聞こえた。
「ぉおーい……!ケンカなんかしてるヒマがあったら、いいかげん助けてくれぇーーー……!」
空気の読めないタカオの声が足下から聞こえると、2人はどこかのスイッチが入ったように怒りの矛先が変わった。くるりと向きを変えると、タカオの落ちた穴へ顔を覗かせた。
やっと現れた2人に安心したのか、タカオは力なく笑顔をみせ、手を上げた。まるで、
ーーケガはしてないよ。大丈夫。
そう言いたそうに。そのタカオに、2人が同時に声をかけた。それは、全ての怒りをぶつけるような怒号だった。
「「 うるせえ!  お前はそこで頭でも冷やしてろ! 」」
一字一句、次の言葉を言うタイミングさえも同時だった。怒鳴られたタカオは驚いて、それ以降は何も言わず、落とし穴の下で、小さくなって隅のほうで大人しくしている。
グリフとコダは、顔を上げると深く息を吸い込んだ。グリフはレッドキャップを見渡して、短く言う。
「グレイス、話は後だ。忘れるなよ」
「分かってる」
不機嫌そうなコダの声が、騒音の中に響いた。辺りはアルの風が竜巻のように廃墟の中を流れていた。その風に土や石、グリフのコートまでも風と一体になって飛んでいる。
あの風に巻き込まれたら、2人でさえも危険だった。けれど、そんなことは少しも問題ではない。お互いに知っている。アルの風は、いつでも自分達の追い風だ。
グリフは走りだし、レッドキャップに向かっていく。コダも他のレッドキャップ達に突っ込んでいく。
「なんだよ……忘れてるのはお前のくせに。思い出せよ。お前はもっと強い……」
コダのその声が、グリフに聞こえていたかは分からない。
「思い出せ……!」
悔しそうなその声は、床に落ちて、落とし穴のタカオにだけは聞こえていた。
グリフがそう小さく呟く声がコダに聞こえる。
今よりもっと幼くて、全然しゃべらず、笑いもしない。王子が突然連れてきた、傷だらけの少年のグリフ。弱々しくて、グレイスとは正反対の少年だった。
「だったら、お前だって家族だろ!お前以外はみんなそう思ってたんだ!王子だって……お前だけは家族だって思ってただろ」
そう言うコダは、最後の声は消え入りそうだった。グリフもコダに掴みかかろうとするのをやめる。
「グレイス。王子は俺を気に入ってたわけじゃない。お前だって知ってるはずだ。俺は……ただの、」
グリフが心底嫌そうな顔でそう言いかけた時、足下から情けない声が聞こえた。
「ぉおーい……!ケンカなんかしてるヒマがあったら、いいかげん助けてくれぇーーー……!」
空気の読めないタカオの声が足下から聞こえると、2人はどこかのスイッチが入ったように怒りの矛先が変わった。くるりと向きを変えると、タカオの落ちた穴へ顔を覗かせた。
やっと現れた2人に安心したのか、タカオは力なく笑顔をみせ、手を上げた。まるで、
ーーケガはしてないよ。大丈夫。
そう言いたそうに。そのタカオに、2人が同時に声をかけた。それは、全ての怒りをぶつけるような怒号だった。
「「 うるせえ!  お前はそこで頭でも冷やしてろ! 」」
一字一句、次の言葉を言うタイミングさえも同時だった。怒鳴られたタカオは驚いて、それ以降は何も言わず、落とし穴の下で、小さくなって隅のほうで大人しくしている。
グリフとコダは、顔を上げると深く息を吸い込んだ。グリフはレッドキャップを見渡して、短く言う。
「グレイス、話は後だ。忘れるなよ」
「分かってる」
不機嫌そうなコダの声が、騒音の中に響いた。辺りはアルの風が竜巻のように廃墟の中を流れていた。その風に土や石、グリフのコートまでも風と一体になって飛んでいる。
あの風に巻き込まれたら、2人でさえも危険だった。けれど、そんなことは少しも問題ではない。お互いに知っている。アルの風は、いつでも自分達の追い風だ。
グリフは走りだし、レッドキャップに向かっていく。コダも他のレッドキャップ達に突っ込んでいく。
「なんだよ……忘れてるのはお前のくせに。思い出せよ。お前はもっと強い……」
コダのその声が、グリフに聞こえていたかは分からない。
「思い出せ……!」
悔しそうなその声は、床に落ちて、落とし穴のタカオにだけは聞こえていた。
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