契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

4.

 廃墟はまるで小さな城のようなシルエットを浮き上がらせていた。その廃墟を見た時、2人の動きはぴたりと止まった。


「グリフ」


「グレイス」


 2人はお互いの名前を同時に呼んだ。


「こんな所にまた来るとはな」


 グリフはそう言って、足音を立てずにタカオの後を追う。コダも馬から降りると、キャシーの横に連れていく。


「まったくだ……俺はあれから、一体何をやってたんだ」


 そう呟いてコダは2人の後を追った。 






 タカオはコダとグリフが追いかけてくる足音を聞いていた。グリフの足音はほとんど聞こえなかった。それに比べて、コダは一足一足が力強い。隠そうともしない気配が近づいてくる。


 彼らの気配は感じていたものの、タカオには、グリフもコダのことも頭に入らなかった。今はただ、あの廃墟にいるレッドキャップ達のことしか考えられない。


 シアを連れ去り、レノを切りつけ、村をあんな風に絶望に変えてしまった奴らのことが、許せなかった。体の中心が熱くなるような、そんな怒りが湧き起こる。その度に、頭はやけに冷静でいようとして、感情と頭がちぐはぐに動いていた。銀の剣を強く握り締める。


ーー今なら、あのレッドキャップに負ける気がしない。


 ライルに裏庭で徹底的に殴られ、蹴られ、あの鋭い矢が放たれた時から、タカオの体は変化していた。


 タカオが冷静でいようとするのは、感情が高まり、心臓の音がやけにうるさいからだった。先ほどまで聞こえていた遠くの音も、冷静さをかくとなにも聞こえない。せいぜい近くの物音がよく聞こえるくらいが限界だった。


ーー冷静になれ。


 そう自分に言い聞かせて、どこかで聞いた言葉な気がするけれど、それすらも思い出せない。思考はどうにも追いつきそうになかった。今あるのは、黒く燃えるような怒りだ。


ーー冷静になれ。


「グリフ、コダ」


 タカオは静かに彼らの名前を呼ぶ。


「ウッドエルフって、どういう意味なんだ?」


 タカオは正面を見たまま、振り向きもしない。その質問になんの意味があるのかも分からず、コダとグリフが顔を見合わせる。


 コダはタカオの背中に向かって、その質問に答える。


「ウッドエルフは、エルフの種族のことだ。エルフのなかでも彼らは珍しい。寿命が長いことが特徴だが……ジェフとか、ライルとレノもウッドエルフだな」


 タカオは相変わらず振り向かずに聞く。


「シアと、シアンもってことだよな」


「……ああ、もちろん」


 タカオはそれを聞いて、ますます分からなかった。


「レッドキャップが言ってた。ウッドエルフを捕まえたって。あいつらは手当たり次第にさらっているわけじゃない」


 最初からウッドエルフを狙っていた。寿命の長いウッドエルフを何故狙うのか、タカオにはその理由が分からなかった。


 けれど、最初からシアを狙いに来たのだとしたら、ライルの家の前で起こったことも説明できる。まるで注意を引くようにライルとユミルを襲い、レノが家に入ろうとした瞬間を狙い奪い去ったのだ。

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