契約の森 精霊の瞳を持つ者
57.
ライルは完全に目を覚ましていた。鋭い目をしたライルが戻ってきていた。
「私達は心まで、闇の者に支配されていたんだ……」
ライルは立ち上がると、タカオをその目で見つめた。
「行きましょう」
ライルはそう言うと、うつむいたままのグリフを置き去りにして、コダが待つ家の門へと歩き出す。
階段の下では、村人を先導していた男がまだそこにいた。
「ライル……あんた、自分1人の娘の為に、この村の全員を殺す気か」
男は歯を食いしばってライルを睨む。レッドキャップは冷酷な集団だということは、100年も前から有名だった。歯向かえば、その報復は目に見えている。
皆殺し。そうやって消えた村や街は数多い。男の後ろの村人達はざわついていた。男に賛同する者もいた。けれど……。
「うちの子もさらわれたのよ!」
ライルとレノのように、子供をさらわれた者のほうが多かった。次第に、それは男への批判に変わりつつあった。
「あんたは自分さえ助かれば、それでいいと思ってるんだろう!そうやってこの間も、子供達を助けに行けなかった!」
その声は次第に大きくなり、波のように押し寄せてきた。男は急に押し寄せてきた敵意に驚いていた。いつもは自分が誰かに向けていたその狂気が、自分に跳ね返ってきたのだから無理もなかった。
けれど、1人だけ、敵意を持たずに向かってくる者がいた。ライルは男の肩を掴むと、静かに言った。
「トッシュ、あなたが1番、村のことを考えている。村が100年も無事でいられたのは、あなたがこの村にいてくれたからです」
トッシュと呼ばれた男はうろたえながら、ライルを見て、今にも暴動が起きそうな人だかりを見つめた。
「お前のせいだ!!」
先ほど自分がタカオに言った言葉が、今はトッシュ自身に向かっていた。
「俺は……ただ……」
トッシュは後ずさりながら、ますますうろたえた。ライルはトッシュの肩を掴んだままだ。
「トッシュ、みんな分かっています。あなたが村を守りたいこと。ただ、今はみんな、子供達を助けたいだけなんです。どうか……分かってくれ」
ライルはトッシュの目を見つめて離さなかった。けれどトッシュは、ライルを見ようとはせず、恐ろしい顔をした村人達を見つめているばかりだった。
「でも、これ以上、村を危険にさらすわけにはいかない。この村は……」
そう言うと、トッシュは何かを思い出したように言葉を止める。トッシュは、ようやくライルを見つめ返した。
「……この村は、王子から託された、水の精霊を守る為の村だ」
その言葉にライルも頷く。けれどそれは、先ほどトッシュ自身が言った言葉とは真逆のことだった。水の精霊がレッドキャップをけしかけている。トッシュはそう信じ込んでいた。
いや、違う。トッシュは眉間に皺を寄せていた。
「ああ、ライル。俺も闇に心を支配されていたんだ。不安だった。理不尽に襲われることの、理由が知りたかった……そしたら、あんな風にしか考えられなくなった。違うと、分かっているのに」
トッシュは、信じ込んでいたわけではなかった。違うと知りながら、それでも誰かのせいにすれば、これが原因だと決めつければ、心の不安は少しでも軽くなる。
ひと時の間は。トッシュは自分に潜む闇をやっと自覚した。
「私達は心まで、闇の者に支配されていたんだ……」
ライルは立ち上がると、タカオをその目で見つめた。
「行きましょう」
ライルはそう言うと、うつむいたままのグリフを置き去りにして、コダが待つ家の門へと歩き出す。
階段の下では、村人を先導していた男がまだそこにいた。
「ライル……あんた、自分1人の娘の為に、この村の全員を殺す気か」
男は歯を食いしばってライルを睨む。レッドキャップは冷酷な集団だということは、100年も前から有名だった。歯向かえば、その報復は目に見えている。
皆殺し。そうやって消えた村や街は数多い。男の後ろの村人達はざわついていた。男に賛同する者もいた。けれど……。
「うちの子もさらわれたのよ!」
ライルとレノのように、子供をさらわれた者のほうが多かった。次第に、それは男への批判に変わりつつあった。
「あんたは自分さえ助かれば、それでいいと思ってるんだろう!そうやってこの間も、子供達を助けに行けなかった!」
その声は次第に大きくなり、波のように押し寄せてきた。男は急に押し寄せてきた敵意に驚いていた。いつもは自分が誰かに向けていたその狂気が、自分に跳ね返ってきたのだから無理もなかった。
けれど、1人だけ、敵意を持たずに向かってくる者がいた。ライルは男の肩を掴むと、静かに言った。
「トッシュ、あなたが1番、村のことを考えている。村が100年も無事でいられたのは、あなたがこの村にいてくれたからです」
トッシュと呼ばれた男はうろたえながら、ライルを見て、今にも暴動が起きそうな人だかりを見つめた。
「お前のせいだ!!」
先ほど自分がタカオに言った言葉が、今はトッシュ自身に向かっていた。
「俺は……ただ……」
トッシュは後ずさりながら、ますますうろたえた。ライルはトッシュの肩を掴んだままだ。
「トッシュ、みんな分かっています。あなたが村を守りたいこと。ただ、今はみんな、子供達を助けたいだけなんです。どうか……分かってくれ」
ライルはトッシュの目を見つめて離さなかった。けれどトッシュは、ライルを見ようとはせず、恐ろしい顔をした村人達を見つめているばかりだった。
「でも、これ以上、村を危険にさらすわけにはいかない。この村は……」
そう言うと、トッシュは何かを思い出したように言葉を止める。トッシュは、ようやくライルを見つめ返した。
「……この村は、王子から託された、水の精霊を守る為の村だ」
その言葉にライルも頷く。けれどそれは、先ほどトッシュ自身が言った言葉とは真逆のことだった。水の精霊がレッドキャップをけしかけている。トッシュはそう信じ込んでいた。
いや、違う。トッシュは眉間に皺を寄せていた。
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トッシュは、信じ込んでいたわけではなかった。違うと知りながら、それでも誰かのせいにすれば、これが原因だと決めつければ、心の不安は少しでも軽くなる。
ひと時の間は。トッシュは自分に潜む闇をやっと自覚した。
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