契約の森 精霊の瞳を持つ者
56.
「レノ?シア?シアン?どこに……」
ライルは人ごみを見渡し、まるでその中に隠れているに決まっていると思っているように目を凝らす。そして、1歩、2歩、その人混みに向かっていた。そんなライルをグリフが抱きつくようにして止める。
うつむいたグリフの表情は見えなかった。けれどタカオには、グリフはいつもの冷静な表情ではないような気がした。
「グリフ?どうした……」
ライルはそう言ってグリフの肩に手を置こうとして、自分の手が血だらけだと知った。それが誰の血かを、一瞬で思い出していた。
「ああ、こんなのは嘘だ。何かの間違いだ。俺は、レノを家の中に、俺が、レノをシアを、シアンを殺したんだ……」
ライルの途切れ途切れの声が、苦痛に歪み、泣き声か、叫び声か分からなくなった。
ライルはもう自分の足では立つこともできずにいた。グリフはライルを支えきれずに、その場に2人とも膝をつく。
コダもジェフも、心配そうにライルを見つめる以外は何もできなかった。
タカオはそんなライルを見て、心に決めていた。昔の友人だと勘違いした時、ライルの顔は希望に満ちていたのを思い出していたのだ。
タカオは一歩、ライルに近づく。すると、コダの後ろから男が叫ぶ。
「ライルに近づくな!レッドキャップにこの村を襲わせたのは、お前だ!ライルをこんな風にしたのもお前なんだ!」
その男はそう言うと、コダが止めるのも気にもせず、タカオに向かっていた。ライルの家の門を通り過ぎ、低い階段の下に向かう。他の者達も同じように向かっていく。
それでもタカオはひるむこともなく、ライルとグリフに近づいた。男達が低い階段に足を置いたとき、タカオはライルとグリフの傍らにいて、階段下にいる者達からみれば、見上げるような状態だった。
タカオはライルとグリフに体を向け、向かってくる男には、手の平を男の顔の前に突き出して、無言で「止まれ」の仕草をした。男を見下ろす黄金の瞳は、酷く悲しげだった。
男が思わず、タカオの無言の指示に従ってしまったのも、それが原因だった。けれど、一瞬の瞬きの後、その瞳からは悲しさのようなものは消え去った。
ーーこの場は、その友人になりきろう。
一瞬の瞬きの間、タカオはその決意をさらに強めていた。向かってくる男の話はひとつも耳に入らなかった。それはただの雑音でしかない。タカオは男が来ようとするのを手で止めたあと、その手を下ろす。
そしてライルの肩を掴むと、息をついてふっと笑う。ライルとグリフは、タカオを見上げていた。2人にはタカオのその笑みが、どこか不敵な笑みに見えていた。
ーーその友人がどんな奴かは知らない。考えても仕方がない。
タカオが息を吸い込む音が微かに聞こえる。そして、芯のある声が放たれた。
「ライル。シアは必ず連れ戻す。俺を信じろ」
ライルはタカオの堂々とした言葉に目を見開いた。迷いのない言葉。簡単に成し遂げてみせると言わんばかりの不敵の笑みに、ライルはその言葉を心から信じることができた。
「あなたを信じなかった日は……ありませんよ」
ライルは呆然と、まるで口癖のようにその言葉を言った自分に驚いているようでもあった。タカオはグリフを見ると、優しく笑いかける。
「グリフ、手伝ってくれ。お前の力が必要なんだ」
その言葉にグリフは少し躊躇したように見えた。
「あんたが望む力は、俺には、もう……」
グリフはそう言いかけて、眉間に皺を寄せてうつむいた。ライルは何度も、今と昔の間を彷徨いながら、やっと自分を取り戻したのか、グリフから離れた。
「私が、私が行きます」
ライルはそう言って、腕で顔を拭った。
ライルは人ごみを見渡し、まるでその中に隠れているに決まっていると思っているように目を凝らす。そして、1歩、2歩、その人混みに向かっていた。そんなライルをグリフが抱きつくようにして止める。
うつむいたグリフの表情は見えなかった。けれどタカオには、グリフはいつもの冷静な表情ではないような気がした。
「グリフ?どうした……」
ライルはそう言ってグリフの肩に手を置こうとして、自分の手が血だらけだと知った。それが誰の血かを、一瞬で思い出していた。
「ああ、こんなのは嘘だ。何かの間違いだ。俺は、レノを家の中に、俺が、レノをシアを、シアンを殺したんだ……」
ライルの途切れ途切れの声が、苦痛に歪み、泣き声か、叫び声か分からなくなった。
ライルはもう自分の足では立つこともできずにいた。グリフはライルを支えきれずに、その場に2人とも膝をつく。
コダもジェフも、心配そうにライルを見つめる以外は何もできなかった。
タカオはそんなライルを見て、心に決めていた。昔の友人だと勘違いした時、ライルの顔は希望に満ちていたのを思い出していたのだ。
タカオは一歩、ライルに近づく。すると、コダの後ろから男が叫ぶ。
「ライルに近づくな!レッドキャップにこの村を襲わせたのは、お前だ!ライルをこんな風にしたのもお前なんだ!」
その男はそう言うと、コダが止めるのも気にもせず、タカオに向かっていた。ライルの家の門を通り過ぎ、低い階段の下に向かう。他の者達も同じように向かっていく。
それでもタカオはひるむこともなく、ライルとグリフに近づいた。男達が低い階段に足を置いたとき、タカオはライルとグリフの傍らにいて、階段下にいる者達からみれば、見上げるような状態だった。
タカオはライルとグリフに体を向け、向かってくる男には、手の平を男の顔の前に突き出して、無言で「止まれ」の仕草をした。男を見下ろす黄金の瞳は、酷く悲しげだった。
男が思わず、タカオの無言の指示に従ってしまったのも、それが原因だった。けれど、一瞬の瞬きの後、その瞳からは悲しさのようなものは消え去った。
ーーこの場は、その友人になりきろう。
一瞬の瞬きの間、タカオはその決意をさらに強めていた。向かってくる男の話はひとつも耳に入らなかった。それはただの雑音でしかない。タカオは男が来ようとするのを手で止めたあと、その手を下ろす。
そしてライルの肩を掴むと、息をついてふっと笑う。ライルとグリフは、タカオを見上げていた。2人にはタカオのその笑みが、どこか不敵な笑みに見えていた。
ーーその友人がどんな奴かは知らない。考えても仕方がない。
タカオが息を吸い込む音が微かに聞こえる。そして、芯のある声が放たれた。
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