53.

　タカオが屋根裏にいる頃、ライルの家の前では村の者達が集まりつつあった。


　レノはユミルの家に運ばれていた。イズナとユミルがレノに付き添い、ライルは先ほどと同じ場所に座り込んだままだった。その目はどこかを彷徨っているように虚ろだった。


　グリフとジェフがライルに付き添い、もう何も見ないライルの傍に立ち尽くす。そこへ、村の男がライルに近づいてきた。その男は、まるでそこにいる全員に聞こえるような大声でライルに話しかける。


「ライル、こんなことは言いたくないが……。これは、あの男のせいじゃないのか？お前が世話してる、精霊の瞳を持つ男のせいだ」


　ライルはその言葉に微かに反応した。けれどそれはほんの一瞬のことで、ライルはすぐにまた虚ろに視線を漂わせるだけだった。そんなライルを見てもなお、男は喋ることをやめなかった。


「村のほとんどの者達は精霊を信頼している……俺だってそうだ。だが……もし、他の奴らが言うように、精霊が闇の者だとしたら？今回のレッドキャップの襲撃は納得できる」


　その男の言葉に、ライルではなく、ジェフがとっさに食らいついた。その声は怒りで震えていた。


「ウェンディーネが、レッドキャップをけしかけたって言いたいの？」


　ジェフの言葉に、男はさらに声を大きくし、胸を張る。


「ウェンディーネは以前にも他の街を襲っている。他の村の奴が言ってたんだ！俺たちは今まで、それは違うと思っていた！でもどうだ！ウェンディーネは復活したはずなのに、なぜ！どうしてレッドキャップを止めない？！どうして何もしないんだ！」


　男はその声を村中に響かせるように、ジェフではなく、後ろにいた者達を振り返り、大声で問いかけた。その声を聞いた者達は、その疑惑が伝染したようにざわついた。


　ジェフは子供の姿だったウェンディーネを思い出していた。レノの傷を完全に治せない、タカオを思い出していた。


「それは……！！」


　ジェフがそう言いかけた時、男の声でジェフの声はかき消されてしまった。


「それは！ウェンディーネがレッドキャップに襲わせているからだ！現に、ライルの娘は真っ先に狙われた！あの男がウェンディーネにかわってレッドキャップの手引きをしたからだ！そうだろう！ライル！！」


　男の後ろでは、何故か歓声が上がっていた。


「あの男を捕らえよう！」


「ウェンディーネの湖を破壊しよう！」


　その場は一瞬で、異様な空気が流れ始めた。


「ちがう！！ウェンディーネは火を消してたよ！レッドキャップを止められなかったのは、力がなくて！ウェンディーネは……タカオは……」


　ジェフの声は、もう誰にも届かない。どんなに叫んでも大勢の声に消されていくばかりだった。その騒動の中、コダが2頭の馬を引いて現れた。


「どうしたんだ！何があった」


　人混みをかき分けて、ジェフとグリフの元へと向かう。グリフは無表情のままだった。ジェフは今にも泣き出してしまいそうだ。


「コダ……みんな変なんだ！！ウェンディーネとタカオが、レッドキャップを手引きしたって……」


　ジェフはそう言いながら、ライルの家を心配そうに振り返る。タカオはライルの家に入ったまま、まだ戻ってこない。けれど、そのほうがいい。この騒動の中で姿を現せば、何をされるか分からない状況だった。