契約の森 精霊の瞳を持つ者
49.
「それより、さっきあんたが追いかけてたのはシアだよな?ライルの娘の」
不意にコダが口を開く。
「そう……もしかして、知り合いですか?」
タカオがそう聞くと、コダはグリフを見る。一瞬、2人の目が合ったものの、グリフはすぐに目をそらして何も言わなかった。
「ああ、古い知り合いだ。今日になって、あんたがライルの家にいるのを知ってな。これから向かうところだったんだ」
コダはそう言うと、顎に手を当てて唸った。
「だが、シアはどんな時も弟のシアンと一緒にいる。今日はケンカでもしたかな」
コダが、そんなことを言った時だった。お祭りの灯りも、音楽もなくなった今、辺りは暗闇の中にポツポツと家々の窓からこぼれる灯りだけだった。空気はまるで動きを止めたよう。先ほどまで賑やかだったせいか、この一瞬は異様に静かで、どこか気味が悪い。
そして次の瞬間には、村の様子が一気に変わってしまった。突然、村中のあちこちからガラスが割れる音と、悲鳴が響いた。初めは驚きのような短い悲鳴が聞こえて、次に聞こえたのは、恐怖による悲鳴だった。甲高く、長い悲鳴。
それが、前からも、この小さな湖の向こうからも聞こえていた。村中で何かが起きている。
「な、なに?」
ジェフは慌ててタカオの足にしがみつく。混乱で走り回る者達の足音、何かが倒れる音、ビンを投げつけて割れたような音。そう思った瞬間、タカオ達のすぐそばの家に火が上がった。家の中からもまた、悲鳴が聞こえる。
「お前らは避難しろ!」
コダはそう言って、迷うこともなくその家に向かった。コダの背中を呆然と見ていたタカオは沢山の悲鳴の中で、シアの悲鳴が聞こえていた。
「シア……ライルの家に行かなきゃ。グリフは、イズナとジェフを頼んだぞ!」
タカオも慌てて走り出す。
ーーシア、ライル、レノ。これ以上、あの家族が抱える苦しみを増やしたくない。どうか……。
胸の内側で、抱えきれないほどの不安が渦巻いていた。それを表に出さないように、タカオは力強く言ったつもりだった。
タカオが勢いよく走り出した時、グリフは足を出してタカオを転ばせた。タカオは前のめりになって転び、スライディングでもしたかのように、地面にべったりと倒れていた。
「なにする……」
タカオがグリフに声を上げた時、倒れたままのタカオの肩にイズナが手を置く。タカオはイズナを見つめて、その名を心の中で呼んでいた。
ーーミサキ神。
タカオはあの白狐のことを思いだし、イズナが人間を恨んでいるかもしれないことを思い出した。けれど、そんなことはタカオの頭からすぐに吹き飛んでしまった。
「私たちも、行く」
言葉数の少ない、いつものイズナがそこにはいた。
ーーイズナは、イズナだ。
いつかは話さなければならない。その時は、イズナの話をちゃんと聞こう。
ーーこの子は言葉数が少ない。でも。言いたいことはいっぱいあるはずだ。
タカオがそう思っていると、グリフがタカオの頭を殴る。ほぼ、本気の力で。
「いっ……だから、なんなんだ!」
タカオは起き上がって、グリフに詰め寄る。
不意にコダが口を開く。
「そう……もしかして、知り合いですか?」
タカオがそう聞くと、コダはグリフを見る。一瞬、2人の目が合ったものの、グリフはすぐに目をそらして何も言わなかった。
「ああ、古い知り合いだ。今日になって、あんたがライルの家にいるのを知ってな。これから向かうところだったんだ」
コダはそう言うと、顎に手を当てて唸った。
「だが、シアはどんな時も弟のシアンと一緒にいる。今日はケンカでもしたかな」
コダが、そんなことを言った時だった。お祭りの灯りも、音楽もなくなった今、辺りは暗闇の中にポツポツと家々の窓からこぼれる灯りだけだった。空気はまるで動きを止めたよう。先ほどまで賑やかだったせいか、この一瞬は異様に静かで、どこか気味が悪い。
そして次の瞬間には、村の様子が一気に変わってしまった。突然、村中のあちこちからガラスが割れる音と、悲鳴が響いた。初めは驚きのような短い悲鳴が聞こえて、次に聞こえたのは、恐怖による悲鳴だった。甲高く、長い悲鳴。
それが、前からも、この小さな湖の向こうからも聞こえていた。村中で何かが起きている。
「な、なに?」
ジェフは慌ててタカオの足にしがみつく。混乱で走り回る者達の足音、何かが倒れる音、ビンを投げつけて割れたような音。そう思った瞬間、タカオ達のすぐそばの家に火が上がった。家の中からもまた、悲鳴が聞こえる。
「お前らは避難しろ!」
コダはそう言って、迷うこともなくその家に向かった。コダの背中を呆然と見ていたタカオは沢山の悲鳴の中で、シアの悲鳴が聞こえていた。
「シア……ライルの家に行かなきゃ。グリフは、イズナとジェフを頼んだぞ!」
タカオも慌てて走り出す。
ーーシア、ライル、レノ。これ以上、あの家族が抱える苦しみを増やしたくない。どうか……。
胸の内側で、抱えきれないほどの不安が渦巻いていた。それを表に出さないように、タカオは力強く言ったつもりだった。
タカオが勢いよく走り出した時、グリフは足を出してタカオを転ばせた。タカオは前のめりになって転び、スライディングでもしたかのように、地面にべったりと倒れていた。
「なにする……」
タカオがグリフに声を上げた時、倒れたままのタカオの肩にイズナが手を置く。タカオはイズナを見つめて、その名を心の中で呼んでいた。
ーーミサキ神。
タカオはあの白狐のことを思いだし、イズナが人間を恨んでいるかもしれないことを思い出した。けれど、そんなことはタカオの頭からすぐに吹き飛んでしまった。
「私たちも、行く」
言葉数の少ない、いつものイズナがそこにはいた。
ーーイズナは、イズナだ。
いつかは話さなければならない。その時は、イズナの話をちゃんと聞こう。
ーーこの子は言葉数が少ない。でも。言いたいことはいっぱいあるはずだ。
タカオがそう思っていると、グリフがタカオの頭を殴る。ほぼ、本気の力で。
「いっ……だから、なんなんだ!」
タカオは起き上がって、グリフに詰め寄る。
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