契約の森 精霊の瞳を持つ者
48.
「ウェンディーネ?これが?」
これまでのことを説明すると、ジェフは信じられないのか、怪訝な顔でウェンディーネを指差し、そんな一言を放つ。
タカオが慌ててその指を下ろさせたものの、すでに遅かった。次の瞬間には、幼い姿のウェンディーネが作った水の塊を頭から落とされていた。
ジェフは頭から水をかぶり、呆然としている。
「本物……みたいだな」
コダが感心したように呟くと、ウェンディーネは鼻息を荒くして湖に飛び込んでしまった。ウェンディーネが水に消える音以外は、お祭りの音が虚しく響いているだけだった。
そんな中で、コダは馬鹿でかい笑い声をあげた。
「いやー!すまんすまん!小さい女の子を追いかけ回してたから、てっきり、変態かと思っ……」
誤魔化すように笑うコダを、タカオはじとりと睨む。 
「まぁ、でも、あれは現行犯だろ」
グリフの呆れた声が聞こえ、ジェフがとどめを刺す。
「現行犯ってなに?」
イズナがジェフに何か言おうとするのを、タカオは大きな咳払いで止めた。
ジェフは不思議そうにしながらも、濡れたコートの水を切る。
「ねぇ、それより、さっきの話だと、ウェンディーネは今、精霊としての力がなくて子供の姿ってことだよね」
イズナがタオルでジェフの頭を拭きながら、それに続く。
「ウェンディーネが元の世界に帰したのに……また戻ってくるなんて。馬鹿なの?」
イズナは呆れたようにタカオを見る。イズナの態度が何故か少し冷たい気がするのはきっと、気のせいではないだろう。ジェフはタオルで顔が隠れたまま、タカオのほうに顔を向ける。
「なんで?」
全員の視線がタカオに集まっていた。
「なんでって……」
ーーみんなが心配だからに決まってる。けど……。
なんだか恥ずかしくて、そんなことは言えなかった。
「なんとなく……?いやっ!だって、呪いがそのままだったし。うん」
それらしい言い訳を見つけて、その時になってタカオはようやく気がついた。元の世界に戻った時、タカオの左目は金色ではなかった。
ーーウェンディーネはあの時、本当に元の世界に戻そうと思っていたんだ。呪いを解いて。
タカオは湖を見つめて、眼帯の上から左目に触れる。
ーーウェンディーネが何を考えてるか、全然分からない。でも……。
お祭りはこの時間になってようやく終わり、音楽が途切れ、灯りも一瞬で消えた。今では真っ黒の湖面に星空が映り込み、湖はまるで夜空のようだった。
ーー闇も光だ。
いつだったか、もっとずっと昔にそんなことを誰かに言った気がして、タカオは不思議な感覚だった。
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