契約の森 精霊の瞳を持つ者

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34.

 タカオがうっすらと目を開けると、ライルが目をぎらぎらと変に輝かせながら走る姿が見えた。その後にはレノが飛び出してきて、レノもやはり変に顔を強張らせていた。


 2人はうつぶせに倒れたシアに駆け寄ると、ぴくりとも動かないシアに困惑し見つめあった。レノはシアに腕を伸ばすと、空が見えるようにとシアをそっと抱き寄せる。


 どこかに怪我をしているんじゃないか、どこか打ち付けていないか確認しながら、その表情は不安そうだ。2人とも声を忘れてしまったように何も言えない。浅く早い呼吸が、喉のずっと奥のほうに声を閉じ込めている。


 それでも、シアがいつまでたっても動かないので、レノとライルは小さな声でやっとシアの名を呼び始めた。小さな声が大きくなり、叫び声だか泣き声だか判断が出来なくなってきた頃だった。


「……おにいちゃん、ぶじ?」


 シアの寝ぼけたような声がタカオにも聞こえて、内心ほっとしていた。


「大丈夫なの?どこか痛いところない?」


 立ち上がるシアに、レノは心配そうに、けれど心から安堵したように、喉の奥に張り付いた空気を一気に吐き出した。ライルはその横で目に涙を浮かべて拭う。


「ごめんな、シア。本当に危ないところだった」


 そう言うライルの顔には、タカオに向けていた冷酷な表情がすっかりと消えていた。


「ううん。ちょっとびっくりしただけ。パパがお兄ちゃんにひどいことしてたから飛び出しちゃったの」


「あ、あれは、酷いことではなくて、鍛えて……」


 シアはライルの言葉を聞きながら、思い出したようにタカオのいる方向を見た。


「え……あれ、おにいちゃん?」


 その言葉にライルもレノも、タカオを見つめる。しばらく誰もが沈黙し、不意にライルがぽつりと言う。


「どうやったら、こんな事に」


そう言い終わる頃には、シアは我慢できずにタカオを見て肩を揺らして笑い、レノは笑っていいのか笑わないべきか判断ができないのか明後日の方向を見て、結局笑っていた。


 ライルは笑うのをこらえたような変な顔でタカオに近づくと、安心したのもあったのか笑いながら泣いていた。感心しているのか馬鹿にしているのか、ライルはタカオの肩を叩いて涙を拭いながら笑う。


 タカオはその場の緊張感とは真逆にとても滑稽だった。本人が滑稽でいようと思ったわけではなかった。いたって真面目にシアを心配していたし、怪我がなくて本当に良かったと心から安心した。


 けれどタカオは、あの長い矢に捕らわれて、今や家の壁にひっついた状態で動けずにいた。タカオの首根っこを掴んだように、矢はシャツの首元辺りを貫いていた。それが見事に木で出来た壁に刺さり、首元を引っ張られ、立つこともできないタカオは動けずにじたばたしていたのだ。





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