契約の森 精霊の瞳を持つ者
25.
「もしよかったら、話してくれませんか」
ライルは心配そうな顔でタカオを見る。タカオは一瞬、悩んだものの、不安に思っていることを口にした。
「精霊じゃなくて呪われた者だって分かったら、村の人はがっかりするでしょうか。ライルさんにも迷惑をかけるんじゃないかと……」
ライルはパンに野菜や肉を挟みサンドイッチのようにして、それにかぶりつく。
「それでしたら、きっと大丈夫ですよ」
ライルはそう言ってむしゃむしゃと美味しそうに食べる。
「そうね」
レノでさえも、不思議な事に平然としている。タカオはこれまでのことを思うと驚きを隠せなかった。
「この村には、私達のようなウッドエルフも住んでいますし、昔からこの辺りに住むエルフ達は、水の精霊との関係が深いですから」
そう言われても、タカオはライルが一体何の話をしているのか分からずにいた。
「ウッドエルフは、風の精霊に守られた民です。そしてこの村は、昔から、水の精霊に守られてきたエルフ達の村です。私達は、金色の瞳を片目に持つ者が、精霊に認められ守られる者だと知っているのです」
タカオが口を開こうとしたとき、ライルは手を前に出して止まれの仕草をし、話を続けた。
「そしてその者は、他の者を守る。精霊と共に」
そう言うライルの顔は穏やかで、とても誇らしげだった。タカオはライルの話を聞きながら、首を横に振っていた。
「水の精霊に会った時に言われました。役目を終えれば命はないと。現に、殺されかけた」
タカオは言葉にしながら思い出していた。ウェンディーネのことを。確かに殺されかけたけれど、ウェンディーネは自分をコントロールできていないだけのようにも思えた。
まるで何かに怯えている。たとえ自分に危害を与えるかどうかもわからなくても、恐怖である以上、攻撃をする。思えば、サラの時もそうだった。そうやって多くの命を奪ったのだろうか。なぜ自分を呪うのだろうか、何に怯えているのだろうか。
タカオにはさっぱりと分からない。今でも印象的だったのは、ウェンディーネが「自分は化け物」だと言った悲しそうな表情だ。ウェンディーネは一体何を考えているのだろう。
「それは、何かの間違いではないのですか?」
ライルは困惑の表情を見せ、説得するように声を低くして言った。
「以前にも精霊に村や街が破壊されたという話がありました。少数ですが、この村にも、精霊に対して疑惑を持つ者は確かにいます。けれどあれは、精霊によるものではないのです。それを知っている者は本当に少ないのですが」
ライルは悲しそうに何度もうなづいていた。タカオは急に椅子から立ち上がると、両手をテーブルにつけて前のめりになる。
「精霊に疑惑を持っている者が、もしかしたらタカオさんに何かするかもしれませんが、その時は私が、なんとしても……」
ライルの言葉は、タカオの声で遮られてしまった。
「村を襲ったのは精霊じゃないって……どういう事ですか!?」
タカオは混乱していた。
ーー今まで聞いた話と違う。
椅子に座ることも忘れたタカオに、ライルは冷静に話を続けた。
「今言った通り、あれは精霊によるものではありません。多くの者は精霊のせいだと思っていますが。水の精霊は、罠にはめられただけなんです」
何か知っているのか、ライルの言葉にレノも悲しそうな顔をした。ライルとレノは、この森の歴史を揺るがすような何かを知っているのではないだろうか。
タカオにはそんな風に思えた。
「王家が精霊と共に闇の者を追い払おうとした時代、精霊の力は強力で、はじめは闇の者も勢力はありませんでした」
ライルはそこで言葉を切ると、うつむいた。そして息を深く吐く。意を決したように、息を吸ってタカオを見つめる。
「しかし、闇の者が村や街を襲うようになった時、襲われた村や、街の者はなぜか精霊に襲われたと証言したのです」
まるで時が止まったように、タカオはライルを見つめたまま動かなかった。
「それ以降、各地で精霊に対して不信感が大きくなりました。そして精霊殺しがささやかれるようになり、事実、水の精霊は殺された」
ライルの声は重たく、床に落ちるように沈んでいった。
ライルは心配そうな顔でタカオを見る。タカオは一瞬、悩んだものの、不安に思っていることを口にした。
「精霊じゃなくて呪われた者だって分かったら、村の人はがっかりするでしょうか。ライルさんにも迷惑をかけるんじゃないかと……」
ライルはパンに野菜や肉を挟みサンドイッチのようにして、それにかぶりつく。
「それでしたら、きっと大丈夫ですよ」
ライルはそう言ってむしゃむしゃと美味しそうに食べる。
「そうね」
レノでさえも、不思議な事に平然としている。タカオはこれまでのことを思うと驚きを隠せなかった。
「この村には、私達のようなウッドエルフも住んでいますし、昔からこの辺りに住むエルフ達は、水の精霊との関係が深いですから」
そう言われても、タカオはライルが一体何の話をしているのか分からずにいた。
「ウッドエルフは、風の精霊に守られた民です。そしてこの村は、昔から、水の精霊に守られてきたエルフ達の村です。私達は、金色の瞳を片目に持つ者が、精霊に認められ守られる者だと知っているのです」
タカオが口を開こうとしたとき、ライルは手を前に出して止まれの仕草をし、話を続けた。
「そしてその者は、他の者を守る。精霊と共に」
そう言うライルの顔は穏やかで、とても誇らしげだった。タカオはライルの話を聞きながら、首を横に振っていた。
「水の精霊に会った時に言われました。役目を終えれば命はないと。現に、殺されかけた」
タカオは言葉にしながら思い出していた。ウェンディーネのことを。確かに殺されかけたけれど、ウェンディーネは自分をコントロールできていないだけのようにも思えた。
まるで何かに怯えている。たとえ自分に危害を与えるかどうかもわからなくても、恐怖である以上、攻撃をする。思えば、サラの時もそうだった。そうやって多くの命を奪ったのだろうか。なぜ自分を呪うのだろうか、何に怯えているのだろうか。
タカオにはさっぱりと分からない。今でも印象的だったのは、ウェンディーネが「自分は化け物」だと言った悲しそうな表情だ。ウェンディーネは一体何を考えているのだろう。
「それは、何かの間違いではないのですか?」
ライルは困惑の表情を見せ、説得するように声を低くして言った。
「以前にも精霊に村や街が破壊されたという話がありました。少数ですが、この村にも、精霊に対して疑惑を持つ者は確かにいます。けれどあれは、精霊によるものではないのです。それを知っている者は本当に少ないのですが」
ライルは悲しそうに何度もうなづいていた。タカオは急に椅子から立ち上がると、両手をテーブルにつけて前のめりになる。
「精霊に疑惑を持っている者が、もしかしたらタカオさんに何かするかもしれませんが、その時は私が、なんとしても……」
ライルの言葉は、タカオの声で遮られてしまった。
「村を襲ったのは精霊じゃないって……どういう事ですか!?」
タカオは混乱していた。
ーー今まで聞いた話と違う。
椅子に座ることも忘れたタカオに、ライルは冷静に話を続けた。
「今言った通り、あれは精霊によるものではありません。多くの者は精霊のせいだと思っていますが。水の精霊は、罠にはめられただけなんです」
何か知っているのか、ライルの言葉にレノも悲しそうな顔をした。ライルとレノは、この森の歴史を揺るがすような何かを知っているのではないだろうか。
タカオにはそんな風に思えた。
「王家が精霊と共に闇の者を追い払おうとした時代、精霊の力は強力で、はじめは闇の者も勢力はありませんでした」
ライルはそこで言葉を切ると、うつむいた。そして息を深く吐く。意を決したように、息を吸ってタカオを見つめる。
「しかし、闇の者が村や街を襲うようになった時、襲われた村や、街の者はなぜか精霊に襲われたと証言したのです」
まるで時が止まったように、タカオはライルを見つめたまま動かなかった。
「それ以降、各地で精霊に対して不信感が大きくなりました。そして精霊殺しがささやかれるようになり、事実、水の精霊は殺された」
ライルの声は重たく、床に落ちるように沈んでいった。
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