契約の森 精霊の瞳を持つ者

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24.

 廊下の先は、光が射し込む大きな部屋だった。食事をするテーブルが置かれ、先ほどの部屋にあったものよりも、大きな暖炉がある。部屋のあちこちには背の高い棚があり、様々な本で埋め尽くされている。


 光を取り込む大きな窓からは、庭が見えた。鬱蒼とした森を背景に、色褪せた芝生が広がっている。その上には落ち葉が降り落ちて、どこか寒そうな気配を漂わせている。


 テーブルには沢山の食事が用意され、飲み物や、パンやサラダやスープなど、それらは一種類だったり、何種類も並べられている。多すぎるぐらいの量で、タカオは驚きの表情でテーブルを見つめていた。


「どうぞ座って」


 栗色の長い髪の毛を一つに結んだ女性が笑顔でそう言う。シアがその女性の側に行くと、よく似ていた。髪の毛や仕草、立ち振る舞いはそっくりだ。呆然としているタカオのそばまでくると、彼女は食事の準備をしながら短く挨拶をした。


「レノよ。よろしくね、タカオ」


 ライルから聞いていたのか、レノはもうタカオの名前を知っていた。ここに座って。と言うようにレノは椅子を引くと、タカオに笑顔の視線を投げかける。


「ありがとうごさいます」


 タカオがぎこちなくそう言った時には、レノはすでに隣の部屋のキッチンに向かっていた。


「あなたが精霊様じゃなくて安心したわ!」


 レノはキッチンからタカオに話しかける。鼻歌まじりに、楽しそうな様子でキッチンからでてくると、大きなお皿を両手で持っていた。その上にはおいしそうな肉料理が並んでいた。思えば、テーブルの上には肉料理がひとつも無かったのだ。


「精霊様じゃないなんて、がっかりだよ」


 シアは残念そうに肩を落とす。レノはお皿をテーブルの上に置き、自分もイスに座るとほっとしたように笑った。


「あら。ママはタカオが精霊様じゃなくて安心したわ。もし精霊様だったりしたら、どんな食事を出していいか分からなかったもの。さあ食べましょう!」


 沢山の食事が並ぶテーブルをあらためて見て、食事をつくるのにどれだけ悩んだかタカオには分かった。精霊の口に合うようにと、味や調理法だけでなく、食材にも悩んだのだろう。


 レノの緊張が解けたように、タカオもどこかで緊張の糸が切れて、おなかは豪快に鳴り響いた。それは全員が驚く程の豪快さで、誰よりも真っ先にシアが笑い出して、ライルとレノは微笑ましくシアを見つめていた。


 タカオにとっては、こんな風に食卓を囲って食べるのは久しぶりのことだった。そう思うと、グリフやジェフやイズナを思い出して心がざわついた。


ーージェフはああ見えて、大食らいだからな。ご飯食べれてるかな。


 そんなことが頭をかすめる。最後に4人で食事をしたのは、あの果実を食べたのが最後だった。


ーーグリフの傷は完治しているだろうか。


 タカオは自分の左手を見下ろす。もう傷跡だけが残る腕にボロボロの包帯。


ーーイズナ。もしかして、人間が嫌いかな。言葉が少ない子だから、ちゃんと話を聞かなきゃ。


 この家族についての不安も消せない。タカオは呪いを受けたままだった。役に立たなければやはり、殺されるのだろうか。その思いと共にこの家族にも、迷惑をかけないだろうか。そんなことばかりを考えてしまう。


「どうしたの?もしかして美味しくない?」


 急にぼんやりとしたタカオをみて、シアが話しかけた。レノも心配そうにタカオを見つめた。


「いえ、どれもすごく美味しいです」


 その言葉を聞くとレノはほっとしたように胸を撫で下ろした。シアはまるで自分が作ったみたいに嬉しそうだった。


「ただ、少し気になることがあって」


 タカオがそんなことを言うと、ライルは食べるのをやめてタカオに顔を向けた。





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