契約の森 精霊の瞳を持つ者
4.
「穀物の神様がいる神社があるのに、あの辺りは何も育たない畑ばかり……だから建てたんでしょ?育つように。どこがミステリーなんですか」
ミステリーさが分からないでいると、松嶋は再びにやりと笑う。
「あそこのバス停の名前、覚えてるか?」
「今度はバス停の名前ですか?確か、"飯綱道"ですよ!毎回バスで行くから間違いないです」
正解を確信したタカオは松嶋を真剣な眼差しで見つめた。けれど、松嶋は生姜焼きと白米を口一杯に詰め込んで、
「やっぱりな」
そう言っただけだった。
「ちゃんと説明して下さいよ!気になるじゃないですか!」
タカオも負けずに口一杯にご飯を詰め込んだ。
「だろ?」
松嶋はタカオが興味を持った事が嬉しかったのか、してやったりな表情で生姜焼きに添えてあったキャベツを口いっぱいに詰め込む。
タカオが呆れるのは松嶋のこういう底意地の悪い所だ。簡単に言えば子供みたいな事をする時だ。仕事ともなると一番に頼れる先輩だが、時折、彼の行動に疑問を持つ。根が良い人なのは百も承知だけれど。
「あれは元々、イヅナって読むんだってよ。しかも!あの神社は畑にまだ稲が育つ時代に建てられていたんだ。な?変だろ?」
定食を食べ終わる頃、松嶋はやっとミステリーについて語ってくれた。
「じゃあ神社を建ててから、育たなくなったんですね。それは確かにミステリーですね。で、バス停は何か関係してるんですか?」
お茶をすすりながら、タカオは呑気に言う。
「お前!知らないのか?」
「知らないって、何を?」
松嶋は信じられないというような顔をしていた。タカオの見る限り、それは真剣そのものだった。
「イヅナだよ!イヅナ!」
バス停の名前以外に心当たりがないタカオは、既に財布を出して、さば味噌定食の会計に気持ちを向けていた。それにつられて松嶋も財布を出し、レジに向かう。その間ずっと、松嶋は恥ずかしげもなく"イヅナ"の話に夢中になった。
「あのバス停のイヅナって名の由来はな、妖怪のイズナから来てんだよ!」
そう豪語する松嶋は千円札を握りしめていた。
「妖怪ですか……なんか、きな臭い話になってきましたね」
妖怪の類もまた、タカオには興味のない分野だった。
「きな臭いってなんだよ……まあ聞け。イズナって言うのは別名"管狐"っていう、妖怪なんだ」
「はあ……」
気のない返事をしながら、松嶋の会計が終わるのを待つ。自分の分も払い終わり会社に戻る帰り道には、管狐の説明は終わっていた。
長い管狐の説明の中でタカオが記憶に残したのはわずかだった。
「つまり、その妖怪があの畑に不作をもたらした。って事ですか。迷惑な妖怪ですね」
「まぁ、妖怪を手なずけるにはリスクが伴うって話だな。一つ間違えれば災害をもたらす」
松嶋はしみじみと語った。
「畑のど真ん中を走るあの道を、イズナが通ったから不作になった」
「それで、飯綱道ですか」
なるほど、とタカオは頷きながら、これでミステリー話は終わったと思っていた。しかし、松嶋はまるでテレビのナレーションさながら劇的に話を続けた。
「そう!稲が育たなくなると人々は焦り、恐ろしがったのだ!……まあ生活が突然脅かされたんだ。当然と言えば当然かもな」
「その話、まだ続くんですか」
さすがに本音がこぼれた。
「話はこれからなんだよ。で!稲が育たなくなった時、村の人間は何をしたと思う?」
この話に飽きてしまったタカオは深く考える事なく、思った事を口にした。
「さあ。稲荷神社に稲が育つように祈願しに行ったとか……まさか生贄とか?」
タカオは半ば面白がって冗談のつもりで言った。生贄はさすがにあるわけがないと。タカオの言葉に松嶋は大きく頷いていた。
「そうだよな。普通はそうするよなぁ……」
冗談で言った生贄という言葉は、あっさりと流されてしまった。松嶋は考えるあまり、一人の世界に行ってしまったように呟いていた。タカオがワザとらしく咳払いをすると、松嶋は我に返った。
「ああ。で、イズナのせいで稲が育たないと信じ込んだ村人は、あの稲荷神社にイズナが棲んでいると思いこんだ」
「それで?」
タカオは先を急いで、せかすように口を挟んだ。松嶋は遠くを見るように単調に続けた。
「村人はイズナを退治しようと考えた」
「それで?」
今度は声色を変えて聞いてみる。
「燃やしちまったらしい」
松嶋の単調な声はやけに冷静で、無機質に響いた。
ミステリーさが分からないでいると、松嶋は再びにやりと笑う。
「あそこのバス停の名前、覚えてるか?」
「今度はバス停の名前ですか?確か、"飯綱道"ですよ!毎回バスで行くから間違いないです」
正解を確信したタカオは松嶋を真剣な眼差しで見つめた。けれど、松嶋は生姜焼きと白米を口一杯に詰め込んで、
「やっぱりな」
そう言っただけだった。
「ちゃんと説明して下さいよ!気になるじゃないですか!」
タカオも負けずに口一杯にご飯を詰め込んだ。
「だろ?」
松嶋はタカオが興味を持った事が嬉しかったのか、してやったりな表情で生姜焼きに添えてあったキャベツを口いっぱいに詰め込む。
タカオが呆れるのは松嶋のこういう底意地の悪い所だ。簡単に言えば子供みたいな事をする時だ。仕事ともなると一番に頼れる先輩だが、時折、彼の行動に疑問を持つ。根が良い人なのは百も承知だけれど。
「あれは元々、イヅナって読むんだってよ。しかも!あの神社は畑にまだ稲が育つ時代に建てられていたんだ。な?変だろ?」
定食を食べ終わる頃、松嶋はやっとミステリーについて語ってくれた。
「じゃあ神社を建ててから、育たなくなったんですね。それは確かにミステリーですね。で、バス停は何か関係してるんですか?」
お茶をすすりながら、タカオは呑気に言う。
「お前!知らないのか?」
「知らないって、何を?」
松嶋は信じられないというような顔をしていた。タカオの見る限り、それは真剣そのものだった。
「イヅナだよ!イヅナ!」
バス停の名前以外に心当たりがないタカオは、既に財布を出して、さば味噌定食の会計に気持ちを向けていた。それにつられて松嶋も財布を出し、レジに向かう。その間ずっと、松嶋は恥ずかしげもなく"イヅナ"の話に夢中になった。
「あのバス停のイヅナって名の由来はな、妖怪のイズナから来てんだよ!」
そう豪語する松嶋は千円札を握りしめていた。
「妖怪ですか……なんか、きな臭い話になってきましたね」
妖怪の類もまた、タカオには興味のない分野だった。
「きな臭いってなんだよ……まあ聞け。イズナって言うのは別名"管狐"っていう、妖怪なんだ」
「はあ……」
気のない返事をしながら、松嶋の会計が終わるのを待つ。自分の分も払い終わり会社に戻る帰り道には、管狐の説明は終わっていた。
長い管狐の説明の中でタカオが記憶に残したのはわずかだった。
「つまり、その妖怪があの畑に不作をもたらした。って事ですか。迷惑な妖怪ですね」
「まぁ、妖怪を手なずけるにはリスクが伴うって話だな。一つ間違えれば災害をもたらす」
松嶋はしみじみと語った。
「畑のど真ん中を走るあの道を、イズナが通ったから不作になった」
「それで、飯綱道ですか」
なるほど、とタカオは頷きながら、これでミステリー話は終わったと思っていた。しかし、松嶋はまるでテレビのナレーションさながら劇的に話を続けた。
「そう!稲が育たなくなると人々は焦り、恐ろしがったのだ!……まあ生活が突然脅かされたんだ。当然と言えば当然かもな」
「その話、まだ続くんですか」
さすがに本音がこぼれた。
「話はこれからなんだよ。で!稲が育たなくなった時、村の人間は何をしたと思う?」
この話に飽きてしまったタカオは深く考える事なく、思った事を口にした。
「さあ。稲荷神社に稲が育つように祈願しに行ったとか……まさか生贄とか?」
タカオは半ば面白がって冗談のつもりで言った。生贄はさすがにあるわけがないと。タカオの言葉に松嶋は大きく頷いていた。
「そうだよな。普通はそうするよなぁ……」
冗談で言った生贄という言葉は、あっさりと流されてしまった。松嶋は考えるあまり、一人の世界に行ってしまったように呟いていた。タカオがワザとらしく咳払いをすると、松嶋は我に返った。
「ああ。で、イズナのせいで稲が育たないと信じ込んだ村人は、あの稲荷神社にイズナが棲んでいると思いこんだ」
「それで?」
タカオは先を急いで、せかすように口を挟んだ。松嶋は遠くを見るように単調に続けた。
「村人はイズナを退治しようと考えた」
「それで?」
今度は声色を変えて聞いてみる。
「燃やしちまったらしい」
松嶋の単調な声はやけに冷静で、無機質に響いた。
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