契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

20.

 アレルの大きな声のせいで、気が付けば部屋中の人はタカオ達に注目していた。


「知っているんですか?帰る方法を」


 タカオは驚きと期待がないまぜになったような表情をアレルに向けた。帰る道など無いと、どこかで覚悟していた。


 するとアレルはとぼけた顔で、けれどはっきりと言い放った。


「"森のかけら"よ。食べちゃえばいいの。簡単でしょう?」


 そう言うと誇らしげにエントに笑顔を向けた。


「解決!でしょう?」


 そう付け加える頃には部屋中はざわめいていた。


 タカオはアレルの言っている意味が分からず、エントに説明を求めるように視線を送った。その視線に、エントは気付く事はなかった。エントは明らかに怒りに震えているようだった。


「アレルさん!あんた一体何を言っているか....…」


 エントはそこまで言うと、怒りを沈める為に言葉を切った。


 部屋中の人もどうやら同じ意見のようで、何人かはエントの怒りの言葉にうなずいたり、アレルの発言に失望したように首を横に振った。


 エントは息を吐くと、まるで子供を叱る時のようにゆっくりと力強く言った。


「"森のかけら"なんて、そんな伝説じみたもの……見つかるわけはない。それにあれは毒そのものだと聞く。口にしたらどうなるか、王子と同じ運命になるかもしれん」


 王子と同じ運命。その言葉に誰もが悲しそうな表情になった。毒を口にした王子を失った痛手が、伝わってくるようだ。


 けれど、その中でもアレルは目を見開き、とても楽しそうだった。


「本当に毒かどうかは誰も知らないはずよ。エント?王子が本当のところ、どうなったのか誰も知らないようにね」


 そう言うとにっこりとした微笑みをエントとタカオに向けた。タカオはエントとアレルの会話を聞いていてさっぱりとわけが分からなくなっていた。


 この世界の常識と非常識の線引きは自分には時間がいくらあっても無理だろうと感じていた。


 それほどに目の前の2人は二分化し、お互いの常識を押し付けていた。

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