契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

18.

 眼帯をつけた自分が一体どんな姿をしているかタカオは気になった。期待に胸を膨らませて鏡を見ると、「まるで海賊ね」というのはただのお世辞だったと気付き、タカオは少し肩を落とした。

 鏡に映っていたのは、少し痩せ気味の青白い青年だ。髪も目も黒く、肌の白さがそれを更に際立てた。髪は伸びすぎて前髪が目にかかり、タカオはそれを左によせると、前髪で眼帯自体があまり目立たなくなっていた。

 革で出来た黒い眼帯が海賊のようなだけだと、タカオは思い知った。童顔なせいと、中性的な顔立ちのせいで、実際の28歳という年齢よりもはるかに若く見える。

 顔色が悪いせいで、海賊というよりは、年齢不祥な気弱なドラキュラのようだ。タカオが自分の姿にため息をついていると、ジェフの母は心配そうに話しかけた。

「ね、これからどうするつもりなの?精霊に命を狙われるなんて……」

 ジェフの母は「可哀想に」と言う言葉を飲み込んだ。

「さっき言っていた周りの者にも被害が及ぶと言うのは、どういう意味なんですか?」

 ジェフも聞きたそうに母を見上げている。

「ええ、精霊の力は強力だから、呪われた者の近くにいれば、その者達も巻き添えになるの。さっきのサラを見たでしょう?」

 サラの暴れ方を思い出せば、近くにいればただではすまない事を、タカオはようやく理解した。それが、今さっきの出来事だっただけに、深刻だった。

「ここにいたら、みんなが巻き添えになるんですね」

 誰も、何も言えなかった。ジェフでさえ心配そうにタカオを見つめている。

「それなら、すぐにでもここを出発します!帰り道はまだ分からないですけど、この状態でここにいるわけにはいかないし」

 そう言ってタカオは自分の荷物をまとめた。荷物と言っても、ネクタイと背広だけだった。

「すぐに?ごめんなさい。私そんなつもりで言ったんじゃないの」

そう言ってジェフの母はタカオを止めた。けれどタカオは力なく笑うと首を振った。

「こんなにお世話になって、これ以上迷惑をかけたくないんです。エントに挨拶をしたらここを出ます。色々お世話になりました」

 ジェフはどうしていいのか分からずに、悲しそうに事の成り行きを見守るしかなかった。

「その方がいい」

 グリフは相変わらず素っ気なくそう言った。今回は不思議とグリフの言葉は意地が悪く聞こえなかった。それが適切だと、タカオも分かっていたからだ。

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