契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

16.

 タカオは混乱して、頭を抱えていた。

「でも、精霊の怒りに触れるなんて身に覚えがありません。まさかサラが……」

 エントは静かに近寄りタカオの肩に手を置き、首を横に振る。

「大地の契約を交わしたサラが、君を殺すなんて有り得ん。他の精霊だと思うが……何か心あたりはないのかね」

 タカオは首を横に振った。この森に来てから接触したのは、ゴブリンと呼ばれる者と、エント達やサラだけだった。エントはため息をつくと、静かに話し始めた。

「その黄金の瞳は昔から畏怖されてきた。黄金の瞳で精霊は自分と相手を行き来すると伝えられてな」

 行き来する。タカオはその言葉に背筋が寒くなった。つまりは自分の体が精霊の通り道になる。

「精霊に呪われると、周りの者にも被害が及ぶと伝えられているの」

 ジェフの母親は心配そうにジェフの手をとった。そんな話の中、廊下では人が行き交い、食堂に現れないタカオ達を探している声が聞こえてきた。

「その瞳の事は誰にも言ってはならん。良いな」

 エントは早口でそう言うと、扉へと向かった。タカオはその背中に向かって疑問を投げかけた。

「助かる方法はないのですか。この森を出さえすれば助かるとか」

 エントは動きを止めて、苦々しく言った。

「……ない。精霊の力は強力だ。どこへ逃げても、逃れられん」

 エントは残念そうに肩を落とした。

「でも、さっきのガラの話では、精霊はサラ以外は殺されたんでしょう?死んだのに呪いを....…?」

 タカオは自分で言いながら混乱した。エントはドアノブにかけていた手を離し、タカオに向き合うとゆっくりと話した。

「精霊は死なん。彼らが殺したと言っているのは、大地の契約により得た体を、傷つけただけだろう」

 エントは眼鏡を指の腹で押すと続けた。

「そう。恐らく大地の契約とは、実体のない精霊に体を与える契約なのだ。元々精霊というのは、ある場所に漂う空気みたいなものだ。それだけでも自然を自由に操れるほどの強い力を持っている」

 エントはそこで息をつくと続けた。

「しかし、実体のない精霊はひどく脆いと聞く。精霊の力を利用しようと思う者を精霊達は防ぐ事ができないとな」

 タカオはそこまで聞いて、閃いたように口を挟んだ。

「つまり、実体があればサラのように頑丈だけど、実体がないと弱くなる……?」

 エントはタカオの言葉に頷いた。

「そう。実体のないままでは危険なのだ。もし実体を失ったら、精霊は安全な場所に隠れて、私達では見つける事が出来ん。今では……」

 エントが話を続けようとしたその時、ドアの外側で誰かがノックをした。

「エント?そこにいらっしゃいます?」

エントは驚いて飛び上がると、慌ててタカオに後ろを向くように指で合図した。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品