契約の森 精霊の瞳を持つ者

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12.

 辺りには、不穏な空気が流れていた。

「おなかへった」

 そんな中、ジェフが耐えきれずにそう呟いた。言われてみればと、タカオも同じように空腹と疲労がどっと押し寄せていた。

「そうだな」

 サラの卵の件で重々しい空気を漂わせた倉庫を後にして、タカオとジェフは食堂へと向かった。向かう途中、先ほどエントが呟いていたことを、なんとなくジェフに聞いていた。

「ジェフ、コダって何者なんだ?」

 ジェフはその名前を聞くなり、とっさに嫌な顔をして、吐き捨てるように言った。

「嫌な奴だよ!いっつも偉そうでさ!」

 ジェフは鼻息を豪快に吐き出し、歩くスピードは知らずに早くなっていた。

「いや、そういうことじゃなくて……」

 ジェフは嫌なことを思いだしたのか、身震いする。

「森の研究者のことで、グレイス・コダって名前なんだ。王家のこととか、森の事を調べてるから、もしかしたらあの卵の扱い方も分かるかもしれないって、エントは思ってるんじゃない?」

 ジェフも先ほどのエントの呟きを聞いていたようで、「あんな奴呼ばなくていいのに!」そう言って、その話は終わった。

 それ以上、この話題を引きずればジェフの怒りはさらに高まるだろう。話を変えるようにジェフは突然足を止めた。

「そういえば、グリフのケガ大丈夫かな」

 ジェフの言葉にグリフの背中を思い出す。あの小さな背中からたくさんの血が流れていた。

 立つのがやっとだったはずなのに、グリフは怪我を負ってもタカオとジェフを守ろうとしていた。その姿が脳裏に焼き付いていた。

 そんなことを考えていると、タカオの背後から声が聞こえた。

「お前のせいだ……あの怪我は、ゴブリンに捕まったお前を助けようとして負った怪我だ」

 声は低く微かに怒りの感情が含まれていた。タカオが後ろを振り向くと、がたいのよい男達が数人、後ろに立っていた。

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