契約の森 精霊の瞳を持つ者

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4.

 

 ジェフが起きる少し前、タカオは目を覚ましていた。朝日が窓から射し込むと、それが顔を直撃し、眩しさのあまりタカオは何度も瞬きをした。

 すぐ隣では鋭い光の中、ジェフが心地よい寝息をたてている。ジェフの足で追いやられた毛布をかけ直してやり、光を遮るようにカーテンを閉めなおす。それでもカーテンの隙間からは鋭い光が射し込んでいる。

 昨日の嵐は過ぎ去ったようで、窓の外は穏やかだった。部屋の外はなにやら騒がしく、どうやらもう朝食の準備をしているようだ。

 ベットから降りると、タカオは自分の着ているものに疑問を抱いた。いつの間にか、シンプルなワンピースのパジャマを着せられていた。

 部屋を見回すと、サイドテーブルの横に置かれた四角い籠の中にスーツが綺麗に収まっている。黒のスーツのズボンに、白のワイシャツ 。それらは洗われて綺麗にアイロンをかけられていた。

 左の袖は何かで切られたように肘から袖口にかけて裂け、裂けたところは血が落としきれずにうっすらと残っていた。

 腕の怪我の原因はこれかと、特に驚くわけでもなく、血が付いた部分や、切られた所が気にならないように肘のところまで折り返す。背広は籠の中に戻し、タカオは倉庫に向かうことにした。

 部屋を出ると、窓から見える倉庫へ向かう。昨日ジェフが言っていたことを思い出しながら、倉庫を目指す。騒がしい部屋とは反対方向に進み、突き当たりを曲がる。

 廊下の先には扉があり、扉の上半分のすり硝子は外の景色を曇らせたままキラキラと輝いていた。

 その扉から外に出ると、石畳の道が倉庫へと続いている。倉庫までは屋根はなく、その代わりに大きな木の枝が重たそうに揺れて影をつくっていた。

 土の香り、草花の香り、太陽の香りがタカオを包んでいた。タカオは数歩あるくと、その木を見上げた。朝日を浴びた木は鮮やかな緑が眩しいほど輝いている。

 まるで山登りにでも来たかのように、深く息を吸う。吐き出そうと目を開けて、反った体を前に戻そうとした。その時、木の葉から何かが落ちてきた。

 タカオがそれに気がついたのは、顔に直撃してからだった。

「おわっ!!」

 顔に降ってきた何かに驚きながら、腕で顔を拭く。冷静になれば、ただの水だった。けれど、それは巨大な目薬のように左目に直撃していた。

 あんなに爽やかな気持ちでいたのに、今では心臓が太鼓のように脈打っていた。慌てて誰にも見られていない事を確認すると、平静を装って倉庫に向かった。

「あぁ、早く帰りたい」

 無意識にそう呟き、葉のざわめく音にかき消された。

 倉庫は2階建ての家くらいの大きで、トタンのような壁だった。まるで何度も修復したような、つぎはぎの壁。

 タカオには倉庫というよりも作業場のような、それとも、何か目隠しのためにも思えた。何かを保管する場所や、誰かがここで寝泊まりするような場所とは思えなかった。

 倉庫の扉は鉄の引き戸になっていて、扉には外側から外さないと開けられないような、簡単な押さえがついている。そしてふと、タカオは疑問を抱く。

ーーサラさんはどうやって外に出るんだろう。……まぁ、裏口くらいはあるだろうけど。

 すぐにそう考えなおすと、鉄の扉をノックする。

「おはようございます。朝からすみません、ご挨拶に伺ったのですが……」

 少し大きな声でそこまで言うと、中で何かが倒れる音がした。タカオは慌てて名前を呼ぶ。

「サラさん?」

 返事も物音も聞こえない。転んだり、倒れたりしたのではないだろうかとタカオは不安になる。

「大丈夫ですか?」

 けれどやはり、倉庫の中からは何も聞こえなかった。

「は、入りますよー!」

 押さえを外し、扉を開けていく。重たく、金属を引きずる音が辺りに響いた。

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