契約の森 精霊の瞳を持つ者

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2.

 眩しい光が窓から射し込み、ジェフは目を覚ました。それでも毛布にくるまれていると、扉をノックする音がする。

 ジェフは返事もせずに毛布にくるまれていた。再び聞こえるノックの音にも、身動きすらとらない。しびれを切らしたように扉は開き、大きな足音が近づくと毛布をはぎ取られてしまった。

「ジェフ!いいかげんに起きなさい!部屋にいないと思ったらやっぱりここにいたのね」

 ほんの少し抵抗したけれど、毛布はジェフの手から奪い去られた。仕方がなく、まだ寝たままで大きな伸びをする。

「もう起きてるから、大きな声出さないでよ」

 迷惑そうにそう呟くと、眠たい目をこすりながら起きあがる。両脇をつかまれベッドから降ろされた。

「で、タカオはどこ?」

 ジェフを床に着地させた後、ジェフの母親は毛布を綺麗にたたみ直しながら聞いた。ジェフは寝ぼけた顔で、部屋を見回して探したがタカオの姿はない。

「あれ?トイレかなぁ……」

 そう言うと、いつもの朝と同じように食堂へ母親と向かった。

 部屋の扉を開けると目の前には大きな窓がずっと続き、太陽の光が庭の芝生に降りそそいでいる。タカオの部屋から右側に進むと食堂があり、すでに人が集まっていた。

 食器を置く音や、話し声、椅子を動かす音、誰かが走り回るような音で騒がしかった。

 パンと卵の香りに誘われて、ジェフは早足になる。

「ね!今日は僕が準備するよ」

「だめよ。このあいだ全部ひっくり返しちゃったでしょう?」

 そう言って笑顔で頭をなでる。
 数日前に食堂で転び、お皿をひっくり返した事件は誰の記憶にも新しい。ジェフはその手を振り払うと口をとがらせた。

「僕はもう子供じゃないのに」

 これは最近のジェフの口癖だった。母親は困ったように笑うと、もう一度ジェフの頭をなでる。

「それじゃあ、明日はお願いしてもいい?」

 その言葉を聞くとジェフは勢いよく振り向き、目を大くして母親を見上げた。

「うん!」

 そう返事をした時は満面の笑顔だった。

 母親は朝ごはんをとりに行き、ジェフは入り口近くの席を確保した。食堂は色んな家族が集まる所で、丸い木のテーブルがいくつも並び、家族ごとに座っていたり、気の合う者達と座っていたりと、自由だ。

 エントだけは部屋の中央にある、大きな切り株のようなテーブルに着席する。今日は甲高い声のアレルおばさんに捕まって、さすがのエントも苦笑いだった。

 ジェフはみんなに挨拶をしながら、気持ちは母親がとりに行った朝食に向かっていた。

 エントはジェフに気がつくと、アレルおばさんとの話を早々に切り上げて、席を移動する。

「おはよう、ジェフ。タカオはどうしたのかね」

 タカオの部屋に侵入していたことを、エントはすでに知っていた。エントの千里眼のような能力に、多くの人達は驚きと、畏敬の念を抱いている。けれど、ジェフは違う見解を持っていた。

「さすが地獄耳だね!たぶんトイレじゃないのかなぁ。部屋にはいなかったよ」

 呑気そうにジェフはあくびをする。

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