君の行く末を、私は見たい

モブタツ

  座敷わらしというのはもっと不気味で、神秘的で、それでいてどこか人を幸せにする不思議な力を持っている。そう思っていたが、案外そうではないのかもしれない。
  ちゃんと座敷わらしにも自分の意思があって、願いを叶える側である彼女にも、願いはある。笑うし、涙も流すし、寂しそうにもするのだ。悪戯をするだけが仕事ではない。

  神社の先に彼女はいると言っていた。いや、眠っていると言っていた。つまり、そこにあるものは一つしかないだろう。
「恵ちゃん、本当にこっちにあるの?」
  大女将は体が弱いので、こちらには来ない。その代わりに女将が私に同行することになった。人の手入れが全く行き届いてないせいで私たちの身長以上の高さになっている雑草の前で立ち止まる。
「えぇ。きっとありますよ」
「…まぁ、昔神社を見つけたのも恵ちゃんだしね…。私はあなたに従うけど」
  もしかしたら大発見の場に立ち会えるかもしれないのだし。と笑った顔には、信頼の眼差しが存在している。
「振り回してしまって申し訳ないです。この先は相当汚れると思いますけど…いいですか?」
「この服はもともと汚れるために作られてるようなものよ。そんなこと気にしないで、早く行きましょ」
  ゆっくりと雑草に手をかけ、一歩一歩丁寧に進む。
  どれくらい歩いただろうか。道中はずっと同じ景色が続いた。何分歩いたかも、どれくらいの距離を歩いたかもわからないが、そこそこ歩いた気はする。
『ツムギを見つけてほしいのです』
  彼女の頼みごとを叶えてあげるためにも。草むらをかき分けて進み続ける。
「恵ちゃん…まだかしら」
「なかなか開けた場所に出ませんね…」
  私は彼女を信じている。
「恵ちゃん!」
  彼女が私を待っていてくれたから。
「……っ!」
  私も彼女を見つけるまで──。
「…………恵ちゃん……ここ……」
「……本当に……」
  信じて進み続けた。
  後ろから風が吹き荒れる。
  ──ここだ。
  来たこと無い場所のはずなのに、どこか自信があった。
  ひらけた場所に、小さな土の山。それ以外は何もないのに…そこには、不思議なオーラを感じた。
「……ここ」
「え?」
「ここだと思います。いえ、ここです。絶対に。」
「恵ちゃん…分かった。恵ちゃんを信じるよ」
  一度、2人で手を合わせ、断りを入れる。
(ツムギちゃん…ごめんね…!)
  土にシャベルを刺す。ゆっくりと、ゆっくりと土をどかしていく。
「…………っ」
「恵ちゃん………これって……!?」
「はい……間違いなく。」


                                     ○

「紬ちゃん…私、もう帰らなきゃいけないんだ」
「そろそろ日が暮れてしまいますね」
「暗くなる前には帰ってきてって、ママが言ってたの」
  空が黄金色に染まり始めた時、私は親からの言いつけを思い出して帰る支度を始めた。
「もう…お別れなのですね」
「昨日みたいに『また明日!』とはならないし…ごめんね」
「いいえ。旅の者は、いつかは去るもの。別れを惜しんだままでは前に進めません」
「どういうこと?」
「今の恵ちゃんには、難しいのです」
「なにそれ〜!」
  私たちの笑い声は、森に反響していた。
  そして、別れの時が来てしまった。
「バイバイ。紬ちゃん」
「……待ってください、恵ちゃん」
「ん?なーに?」
  そう言って、彼女は首から下げている神秘的な石を外し、私に差し出した。
「これを…受け取ってください」
「石?」
「そして、これをつけてまたここに来てください。何年後になっても構いません」
  もう一度、あなたに会いたいのです。
  小さな声でそう呟いた。
「分かった!約束ね!」
  私はそう言って、指を立てた。
「指切りげんまんだよ!」
  彼女は驚いた表情で私を見て、固まってしまった。しばらく時間が経った後、ゆっくりと目を閉じ、ふふっと静かに微笑んだ。
「…あなたの大人になった姿が見てみたいのです」

                                        〇

    山奥に建っている古い旅館、その敷地内には座敷わらしを祀る小さな社がある。それは仮のものであったが、宿泊客はまずそこに立ち寄り、帰るときもそこに寄るという風潮がある
  山奥に建っている古い旅館、その脇にある道無き道を進んだ先にボロボロの小さな神社がある。それは、座敷わらしが祀られて「いた」本当の神社である。
  そして、そのさらに奥の道に進んだところに、彼女の墓の代わりのものが存在した。
  その墓からは、どこか神秘的なオーラを放っているような雰囲気の石が見つかった。

  私が首から下げていたものと、全く同じものだった。

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