君の行く末を、私は見たい

モブタツ

  山奥にある旅館。そこには、座敷わらしが出ると言われ、今では何ヶ月も待たなければ宿泊ができないと言われている、大人気の旅館だ。
  そこの取材をするために、私は特別に2週間ほど宿泊させてもらえることになった。
  子供の頃に一度だけここに来たことがあるらしいのだが、ほとんど覚えていないので新鮮な感覚だ。
「いらっしゃいませ。お名前をお願いします」
  受付はとても綺麗で、とても古い旅館とは思えないような内装をしている。
「佐藤 恵(さとう めぐみ)です。本日は取材で…」
「あ!取材の方ですか!お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
  スタッフオンリーと書かれた場所に案内され、一気に緊張感が高まる。
  取材用の手帳とペンを鞄から取り出し、いつでも仕事ができるように備える。
  この仕事を始めての初仕事。今回が初めての遠征になるが、この場所には特別な思い入れがあった。
「……」
  首についたネックレスを握りしめる。
  幼少期にここに来た時、友達に貰った物。小さな石が紐についているだけで、どこか不思議な力があるような雰囲気のある、手作りのネックレス。
  あの子は元気にしているだろうか。2人で一緒にいた時間が長くはなかったことは覚えているが、殆どの記憶が残っていない。手がかりはこのネックレスだけだ。
「ようこそおいでくださいました」
  旅館の大女将が着物を着て現れた。
  年はかなり召しているおばあちゃんで、落ち着いた色合いと模様の着物がよく似合う人だ。
「佐藤 恵です。本日は取材の要件を承諾してくださり、ありがとうございました」
  深々と頭を下げる。言ってはいけないことだが、これは派遣先で絶対にやらなければいけないことである。要はマニュアル通りだ。
  そんな挨拶を見た大女将は、ふふっと上品に笑い、椅子に腰掛けた。
「堅苦しい挨拶はここら辺にしましょ。恵ちゃん、久しぶりねぇ」
  実は、この人とは面識があった。
「久しぶり…だね。覚えてくれてたんだね」
「当たり前よ。これでも、この旅館の者達はあなたに感謝してるのよ?」
「あれは偶然だよ」
「それでも、感謝してることに変わりはないわ」
  お茶を差し出される。「ここら辺で取れた美味しいお茶だよ」と軽い説明をされた後に、私は乾いた喉に熱々のお茶を通した。
「曽孫はまだ出かけていてね…あなたがここにいる間に、もし時間があったら紹介するわね」
  この人にも曽孫ができたのかと時間の流れを全身で感じる。
「さ、部屋に案内するわ。取材とは言っても、身体もしっかりと休めないとダメよ」
「ありがとうございます」
  私の不思議な体験は、こうして始まった。

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