オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

5-9 続々・木の上の出来事2

「こんにちは、エドワード」


「こんにちは、アリーシア」


 木の上にいる赤毛の美男子は、アリーシアが木に登ってくるのを待っていたようだ。太い幹につかまりながら、いつものように太陽の日差しがガラスが反射してキラキラ光る城を眺めていた。


「下でジャンに声をかけられたの。エドワードから話があるって」


「ジャンはいたのか。あいつ城からの移動が遅いからな」


「エドワードはどんな手段を使ってこの屋敷にくるかは知らないけれど、ジャンを困らせてはだめよ」


「ジャンは動きが素早いから大丈夫なのだ」


「そういう問題かしら? 」


「ジャンがなぜ俺の従者になったと思っている?あいつの運動能力は、国で有数の力があるからだ」


「まあ、そうなの。でもせっかくの能力なのに無駄に使わせたらもったいないわ」


「これも仕事のうちだと割り切っているさ」


「相変わらずわがままね」


 アリーシアはエドワードの俺様思考が昔からかわらないことに、少し笑ってしまった。ジャンはこれからも苦労が絶えないだろう。エドワードとジャンは主従関係ではあるが、悪友のようにお互いを認め合っているのが見て取れるようになった。良好な関係なのだろう。だから多少のわがままで、ジャンを振り回しても、お互い許しあっているようにも見える。


「エドワード、お話って何かしら? 」


「アリーシアにもウワサ程度には、耳に入っているだろう」


「ウワサ……どんなことかしら? 」


「お妃候補の話だ」


「ずいぶん前から、エドワードのお妃候補の話題は国中でウワサされているみたいね」


「ああ、アリーシアもその中にいることも知っているか? 」


「…………ウワサ程度には」


 アリーシアはあえて控えめに答えてみた。エドワードからはお妃候補について、さらには結婚についてどう考えているのか聞いたことがない。王位継承者として、世継ぎを残すのは仕事でもある。そうなると結婚をすることになるわけだが、エドワードはどう考えているのだろうか。


「アリーシアをお妃候補に正式に選ぼうという声は、各方面で聞こえてきた。国中で話題の本をつくり、そしてそれを子供たちの教育に還元する。立派なことをしていると」


「それはわたしだけが考えたのではなく、みんなで考えたことです。ウワサが一人歩きをしています」


「しかしその年齢で、それだけの大きな仕事をやりとげている。国への貢献もしている。ただの令嬢では考えもしないことだ。アリーシア、君は立派だ」


「……ありがとうございます」


「だから、将来俺が国王として即位するときに手助けしてほしいのだ。その優秀な手腕で」


「どういうことですか? 」


「君がお妃候補として気が進まないのは、様子をうかがえばわかる。それだけ責任も重くなり、周囲の目にさらされる機会が増えてしまうからな」


エドワードは言葉を選ぶように、アリーシアに向き直る。そしてアリーシアの横に座った。


「俺も、父上とサン様のように戦友と呼べる友がいたらと思う。アリーシアは勇敢で、賢い女性だ。お妃候補でもやっていける。だがお妃候補になって、さらに世界を見て、多くのことを学び、それから改めてお妃になるかは考えてもいいのではないかと思った」


「エドワード様はお妃候補をどのようにお考えなのですか? 」


「俺にはお妃を選ぶ力はない。平民のように好きなだけで、結婚はできないと小さいころからわかっていた。だから結婚にはまったく期待していなかった。だが、アリーシアの家族をみて、自分の家族をみて、自分もあたたかくいい家庭がもてたらという気持ちにもなった。王族として、そういう夢をもつのは間違いなのかもしれない。ただ、事務的にお妃を選ぶのは気が進まなくなった」


「はい」


「だからお妃候補のひとりひとりとよく話し、自分がこの人となら一緒にやっていけそうだという人を、時間をかけて選ぶつもりだ。側室も考えていないから、もしお妃を決めたら他の候補の令嬢は自由にしてくれて構わない」


「わたしはお妃候補になっても、エドワード様と合わなそうなら候補から外れても構わないということですね」


「そういうことになるな。候補になったからといって、必ずしもお妃になるわけではない。アリーシアとはせっかく友になったのだから、親交を深める意味でも、この機会を使ってもいいかと思った」


「それなりに気に入っていただけたということでしょうか」


「それはもちろん。十分すぎるほど」


「お妃候補は気が向かないのは確かです。ですがお兄様やお父様からも、無理しなくていいとも言われました。それに国王様、エドワード様がお声をかけてくれたのです。わたしのできることがあれば、お妃にたとえならなくても、エドワード様に誠心誠意お仕えしますわ。わたしは英雄サンパウロの子孫ですもの。王に忠誠を誓います」


「ああ、いい臣下をもったと思えるようになった。それもアリーシアが人の痛みや、人の声を聴くことの大切さを教えてくれたからだと思っている。これからも永きにわかって、友であってほしい」


「それは喜んで」




 アリーシアはエドワードの言葉を聞いて、自分のできることが、お妃候補として何かあるのかもしれないと自然と考えることができるようになった。気の進まないは別にしても、候補となって初めてみえてくることも多くあるだろう。もっと学び、自分を磨いていくことはもちろんだが、せっかくの肩書だから有用に使いたい。もちろん、オタク活動に関することでだ。


 どんなことでも、楽しむ気持ちが一番大切だ。



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