オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

5-8 続々・木の上の出来事1

 アリーシアは数日ぼんやり考え込んでいた。お妃候補になることについて、いつか答えを出さなければならないと思っている。だが、現段階ではどちらの選択肢をとっても、いろいろ面倒なことになりそうだなと思っていた。
 アリーシアは、本を読む気にもならなく、毎日の時間に流されていくままだった。少し前は、絵本を作ったり、アトリエを作ったり、楽しいことばかりであった。だが今は違う。


「本当に困ったわ。どうすればいいのだろう」


 アリーシアは兄ともなんとなく気まずかった。かといって、誰かに相談できることでもない。屋敷のなかにいるのもなんとなく気づまりで、中庭を散歩している。


 中庭にある木々や花々は季節がかわると、彩りが変化する。今は色とりどりの花が咲き乱れている。気が付けば寒い季節が終わっていた。社交界デビューから、中庭の葉の色が変化する季節があっという間にきた。そして本を作っているうちに、寒い季節は過ぎてしまった。今は花が咲き、緑が茂る季節だ。


 国はサラ様のご懐妊以降、お祝いムードがずっと続いている。サラ様の出産時期はもう少しである。今出ている太陽の日差しが、もっと強くなり、暑くなる季節が新しい王族の誕生になるだろう。
 そのころにはまた社交界デビューする子息と令嬢がいるだろう。あっというまに一年が過ぎていく。
 アリーシアも今年数え年で15歳になる。16歳になれば、郊外の寄宿舎へ行きたいと考えている。そのための勉強も始めているし、家庭教師も増やした。


 ある日アリーシアが自分の姿を見て思った。鏡にうつった自分は、意識を覚醒したときの幼い子どもではなく、今はもう大人の仲間入りをし始めたアリーシアとしての自分がいた。改めて時間が過ぎていることに思いをはせてしまう。髪の毛は緩く癖があるものの、髪を編んで下におろす髪型にはしやすく、メイドが様々な編み方を試してくれる。侯爵令嬢として恥ずかしくない教育を受けてきたと思う。
 ただアリーシアの根本は、人の前に出たいタイプではないし、楽しいことはのめりこんでしまうけれど、誰かの先頭にたって何かをするタイプでもない。
 お妃候補といえば、王位継承のあるエドワードの隣にたつべく期待されるのである。貴族のなかでも、さらに注目はされるだろうし、自分の行動は見られるようになるだろう。考えるだけで窮屈だ。


「正直、めんどうくさい」


 アリーシアは中庭を歩いていたら、ある姿を見つけてしまった。
 アリーシアの屋敷の中庭には、大きな木がある。そこではなぜか、エドワードと出会うことがある。社交界デビュー以降、友人として話す機会は多くなってきた。社交界以外でも、パーティーなどで気の置けない友人として会話をする。アリーシアもパーティーでは話す令嬢もちらほら出てきて、気はつかうものの侯爵令嬢としての交友関係を広げていった。ただ自分を出せているかといえば、出せていない。孤児院で絵本を読み、何気ない話をしている自分のほうが素の自分であるし、家族の前や、レインやテトやザッカスの前にいる自分が一番自分らしい。


 木の上にエドワードがいるのはわかったが、今会っても実りのある話ができるとは思わなかった。踵をかえそうとすると、急に目の前に影がよぎる。


「アリーシア様、主が少し話をしたいそうです」


「あなたは……ジャン。今日は一緒にいたのね」


「はい、嫌々ですが」


「そうなのね」


 ジャンはまた背が伸びた。アリーシアはエドワードの従者のジャンを見る。やはり前世の思い人である幼馴染に、雰囲気も顔も似ている。顔を見れば過去の思い出がよみがえるし、そのときのつらい気持ちや、うれしい気持ちがうずくこともある。でもそれは過去の自分である。今の自分は前世の自分ではない。侯爵令嬢のアリーシアである。よくみれば、思い人の幼馴染は、ジャンみたいに腹黒そうに笑ったりしない。どこまでも優しく、前世の自分に残酷なほど鈍感であった。そして残酷なほどやさしい笑顔で笑い、残酷なままに友好的な態度で接してきた。


 でもジャンは違う。ジャンと思い人は別人なのである。そしてアリーシアはジャンには恋をしなかった。アリーシアは大好きな家族に囲まれ、寂しいと思う時間もないほど穏やかであり、にぎやかな時間を過ごせている。


「ご愁傷様、エドワードはまだわがまま王子なところがあるのね」


「使い分けているようですね。まったく」


「ジャンが怒られてしまっては大変だから、話をしてくるわ」


「そうしていただけると助かります」


 アリーシアはジャンの苦労を感じて苦笑いしてから、木に手をかけた。周囲へはジャンが気を配ってくれているようで大丈夫だろう。アリーシアはエドワードがいる木の上までスルスルとのぼっていく。



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