オタク気質が災いしてお妃候補になりました
4-13 社交界デビュー3
「…………何かご用ですか? 」
 ダンスをが終えて、踊るフロアの端へ移動していったが振り向けばエドワードがいた。この宴の主役がいなくなってはだめではないだろうか。そんなアリーシアの心配をよそに、エドワードはアリーシアの後ろについてきた。注目されても面倒だったので、飲み物を取りに移動しようかと思えば、エドワードが近くにいた給仕にグラスを2つ頼んでしまった。
「テラスへ持ってきてくれ」
アリーシアが適当に足を向けて歩いていた先が、外の風景を一望できるテラスだった。アリーシアは別のところへ行きたくても、エドワードから促され、テラスに行くしかなかった。気がつけば手をとられ、テラスに誘われてしまったのだ。雰囲気を察すれば、振りほどくわけにもいかなかった。
「何で、パートナーを断った? 」
やっぱりそれはいつか聞かれるかと思った。テラスに出たら、人混みから隠れるように物陰にまぎれる。アリーシアはいい言い訳を見つからず、言葉につまった。
「それは…………」
「借りを返すと言っただろう? 」
「だから、大きすぎる好意は迷惑になると言いました」
「迷惑だったのか? 」
率直に迷惑と言えない雰囲気だった。
「エドワード様は、ご自身の行動がどれだけ影響があるとお思いですか? 」
「それはわかっている。だが、気に入った相手をパートナーに選んでいいと言われた」
「エドワード様、わたしには荷が重いと思いました」
「何がだ?立派に侯爵令嬢として、務めを果たしていると聞いている」
アリーシアは目を見開いた。エドワードからけなされることはあっても、褒められたことなどなかった。アリーシアは驚いたまま言葉が口にできなかった。
「俺は、アリーシア嬢に借りがある。礼がなかなか言えなかったことは詫びる。アリーシア嬢のおかげで、城の者とよく話し合うようになった。ジャンも前より、意見を言ってくれるようになった。あいつは生意気だな。腹黒い」
「そうですか。よかった…………」
「だから、もっと話すことの大切さもわかってきた。相手をみて、相手がどう思っているかを考えることの大切さを学んだ。前は、誰も意見を言ってくれなくて、それは正しいことをしているのだからと驕っていた」
「ええ、わたしもエドワード様が何をお考えかわかりませんでした」
「ああ。周りもわかってくれると思っていた。アリーシア嬢に、昔の非礼を詫びたい」
「?」
アリーシアは目の前に差し出された髪飾りをみて、はっと思い出した。
「初めてパーティーで挨拶をした日。俺の行動で、アリーシア嬢を怒らせてしまった。ちゃんとあのときに謝罪をしなかったから、アリーシア嬢は話をしてくれなかったのだな」
「エドワード様…………」
エドワードは立派になった。エドワードは謝罪することが恥ずかしいのか、視線を外して言葉を口にする。
「改めてお願いしたい。あのとき、本当は友人になってほしいと頼みたかった。同じ貴族として同世代の友人が欲しかった。だが未熟でそれをお願いすることができなかった。」
「わたしもエドワード様に対して、失礼なことをしてしまいました」
「いや。もう過ぎたことだ。アリーシア嬢、友になってほしい」
アリーシアは目の前のことに驚きすぎて、何度か瞬きをする。そして差し出された髪飾りを手に取る。
「ええ、友としてこれからよろしくお願いします」
「ありがとう」
エドワードは恥ずかしそうに笑う。その笑顔は少し幼かった。小さい頃のエドワードを思い出した。不遜な態度で、アリーシアを威嚇していた小さい頃のエドワード。もう何年たったのだろうか。
頃合いを見計らったように、給仕が飲み物の入ったグラスをもってきた。エドワードはそれを受けとり、一つをアリーシアに渡した。アリーシアは受け取り、エドワードと友としての乾杯をする。
テラスを見れば、城下の明かりが綺麗で、室内からは優雅な音楽が聞こえてくる。アリーシアにとっても同世代の友人は初めてだった。エドワードは単にわがまま王子だと思っていたが、少しずつ成長していくのを感じられる。自分もエドワードように、成長していけたらと思い、グラスの飲み物を口にするのだった。
社交界は無事終わり、アリーシアは社交界デビューが終わったことに安堵した。部屋に戻り寝間着に着替えてアリーシアは今日のことを思い出して眠る。その傍らのテーブルの上には、なくなったと思っていた髪飾りが置いてある。数年ぶりに戻ってきた髪飾りは綺麗なままであった。
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