オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

4-11 社交界デビュー1

 朝から屋敷は慌ただしかった。城へ行く準備をしているからだ。今日はアリーシアの社交界デビューの日である。国中は同時に社交界で正式にお披露目される、エドワードを祝う熱気であふれていた。


 1年半前には、国王が倒れてしまい、息子で公爵のエンドリク様が国政をとりしきった。そしてその息子のエドワードは近い将来正式な後継者として、お披露目されるだろうことが見えてきた。お披露目はエドワードが正式に王位継承者として、国内だけでなく、隣国に示す機会でもあるのだ。現国王は容態が回復し、現在は通常通り公務を行っている。しかしエドワードが王位継承者として世間に認められたら、今後はエドワードのお妃候補が話題となる。今回の社交界でもパートナーとして誰か特定の人が選ばれれば、そのお妃候補も見えてくるだろうかと思われた。しかし当日になっても特にエドワードのパートナーは発表されることはなかった。


 社交界はパートナーを伴うが、パートナーを伴わないケースもあるにはある。アリーシアも兄にパートナーとお願いしたが、執事からは誰か気になる貴族の息子はいないかと聞かれた。兄弟でもいいのだが、この機会に貴族と交流をもつこともメリットはある。アリーシアは、社交界デビューだけで疲れるのに、見知らぬ人にエスコートしてもらう気疲れはしたくなかった。もしかしたら色々言われるかもしれないが、気疲れが大きすぎて、失敗をしでかす方が嫌だった。兄もアリーシアのパートナーに喜んでと快諾してくれた。


 アリーシアは複雑に編み込まれた髪の毛を乱さないように体を起こした。ドレスに巻き付ける補整下着で息苦しいが、美しさは大体苦しいものである。ダンスだって着ると苦しいし、ダンスで綺麗な姿勢をするのも大変なのだ。ドレスを数人がかりで着て、裾が大きく広がったドレスの扱い方を確認した。ドレスが着終わると最終的に髪の毛を高く結い上げ、髪飾りを添える。
 アリーシアは出来上がりをみて満足した。やはり美形に生まれるのは得だと、着飾ると痛感する。大人になって、顔立ちはさらに母親に似てきたアリーシアだが、自分で言うのもあれだが華やかさがあるだろう。派手さはないが、母に似て品がある顔立ちだ。端正さを言えば、断然兄が格上に違いないが、人に悪い印象を与えない顔立ちでよかったと感じた。


「はい、どうぞ」


 ある程度身支度が終わり、メイド達が部屋の片付けをして出て行った。それを見計らうように自室の扉がノックされた。アリーシアはまだ慣れないドレスの締め付けを感じながら、ノックした方の扉へ顔を向ける。扉があくと、チョコンと顔を出したのはアポロだった。


「うわ、姉さますごい! 」


「アリーシア、綺麗だよ」


 侯爵家の長男と次男。アランとアポロがアリーシアの姿を見に来た。アポロは留守番なので、いつものようにラフな格好をしている。アランは正装をしており、深いブルーの正装をしていた。


「お兄様もとってもかっこいいです」


 内心とっても綺麗です!とアリーシアは思ったが、それもいい褒め言葉なのか悩んだので、当たりさわりなく格好良いと言った。正直なところ、髪を結い上げ豪華なドレスをきても、兄の華やかさには勝てないとは思う。生まれ持ったオーラというものが違うのだと思った。


「姉さま、僕グリーン好きだからこのドレス大好き」


「わたしもグリーンが好きで、中庭を思い出したの。だから今回はグリーンにしたのよ」


「へー」


 アポロは物珍しそうにアリーシアのドレスを見ている。確かにこんなヒラヒラした衣服をアポロは着ないので、見ていて面白いのだろう。アリーシアもできあがったときは、その複雑な生地の使い方に、じっくりドレスを見てしまった。


「アリーシア、城にエスコートするよ。アポロもエントランスまで見送ってくれるかい? 」


「うん、兄様と姉さまを見送る」


 兄がアリーシアの傍に来ると、そっと腕を差し出した。アリーシアは兄の腕を見ると、そっとそこに手を添える。そしてエスコートされるままエントランスに向かう。両親達はエントランスで最終的な打ち合わせをしていて、執事と話をしていた。母も今日は地味なドレスは着ない。侯爵家にふさわしい格式あるドレスを着て、母にツイになるように父も正装を着ている。エントランスへ続く階段をゆっくり下りていくと、母と父が嬉しそうにアリーシアとアランを見つめた。メイドも執事も視線を送る。


「アリーシア、準備は大丈夫ですか? 」


「はい、お母様。問題は特にないと思います」


母は忘れ物がないかと確認してきた。アリーシアは頷いた。


「アリーシア、本当に綺麗だ。リリアに似て」


「お父様、ありがとう」


 野獣の父は顔をくしゃくしゃにして、目に入れても痛くないようにアリーシアを見つめてくる。深い慈愛の気持ちを感じる。このままでは感涙してしまい、父が泣きそうだったので、母が執事に命じて馬車を手配するように言付けた。


「アポロ、みんなの言いつけをしっかり聞いて。良い子に留守番をお願いしますね」


「はい、母様」


リリアがアポロの頭をそっとなでた。アポロは嬉しそうに母を見上げた。
そしてアリーシアもアポロに顔を向ける。


「アポロ、あとはよろしくね」


「姉様、お土産楽しみにしている! 」


「わかったわ、美味しそうなお菓子があったらね」


 アポロはメイドたちに見守られ、4人を見送った。母と父は先に馬車に乗り込み、その後ろからもう一台の馬車が到着する。アランとアリーシアはその馬車に乗り込み、城へ向かった。


 城下はエドワードのお披露目の儀式を祝して、町中がお祝いムードでわいていた。大通りには花がかけてあり、家々は国旗が掲げられていた。薄暗くなった街を馬車で走ることは、初めてのことかもしれない。
 夜に出かけることは、一歩大人になった気分になる。アリーシアは前世では高校を卒業して、就職して、初めて飲み会に参加したとき新鮮な気分に似ていると思った。そのときは未成年だったのでお酒は飲まなかったが、飲み会の席にでるというだけで、大人になった気分だ。またそんな気分になるなんて、あの頃は考えもしなかった。 馬車の窓から見える城は、明かりがまぶしいほどであり、国中から貴族が集まってきているのも伺われた。アリーシア以外にも、今回が社交界デビューという子どもは何人かいる。今回はエドワードが話題の中心であるので、あくまでもアリーシアは添えものである。目立つことなく、かといって、目立たなすぎてもだめで。加減が難しい。


 馬車が城門をくぐり、城の正門へ移動すると、正面扉からエントランスがのぞかれた。アリーシアは馬車が止まると、兄に続いて馬車をおりていった。



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