オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

4-5 印刷工房



 印刷をする工房を作って、孤児院の女性を主にした働き手の研修が始まった。ほとんどは16歳の少女であるが、自警団へ行かなかった男の子がここで研修を受ける。まだテトの知り合いで仕事を探している若い働き手で、アリーシアの母達がある程度面接をして、受け入れが可能である働き手を雇うことになった。もちろん、研修して適性をみて、今後ここで働くかどうか、またほかの分野に興味があったら、ここで学んだ技術を使って、雇ってもらえないかなど、レインたち母の補佐の仕事をしている女性達は職人や商人に声をかけていった。規模が大きくなれば、仕事の紹介に関しても、もっと人員を増やすだろう。
 テトは思いの外、広い人脈があるようだ。国で一、二位を誇る工房の跡取りであるから、職人の間でも顔がきく。テトは仕事ぶりが丁寧であり、地味な仕事も受けて、一つ一つ手をかけて仕事をしているらしい。そういった仕事ぶりは、ファンがいるらしく、商人などでも顔がきき、個人的にこまごまとした仕事を頼まれるようだった。
 ザッカスいわく、テトはお人好しであるようだ。
 印刷工房の内装ができ、レインとアリーシアで視察という名目で工房を見学にきた。そこにテトとザッカスがいた。ザッカスはテトがかかえる仕事において、アドバイスやたまに仕事を手伝うことがあると聞いた。あくまでテトとアリーシアは初対面の振りをして、自己紹介をした。レインは屋敷でテトを面識があるため、母から言付かったことの打ち合わせをしている。


「お前さ、仕事かかえこみ過ぎ」


 唐突にザッカスがテトに声をかける。確かに印刷工房を作るにあたって、テトが中心になって動いている。レインは孤児院のことから一時的に離れ、今は工房の創設の仕事を請け負っている。レインの仕事の管理は母が取り仕切っている。ただ工房のことはテトの裁量が必要な事が多く、普段の仕事以外にこの工房を一から作るのは相当な重荷になっているに違いない。


「大丈夫、もう少しで始まるのに、休んでいられないだろう」


「でも、お前が倒れたら全部が頓挫トンザする。期限が切られていない仕事なんだ、無理する必要はない」


 ザッカスの指摘はもっともだ。ザッカスだって本業は書き物などである。あくまで工房については本業の隙間の時間と割り切っている。だがそんなザッカスでも、あまり寝ていないらしく、いつも髪の毛は整っていないが、今はもっとぼさぼさだ。


「そうね、休憩しよう。アリーシア、もってきたお菓子いただこうか」


「うん」


 アリーシアは工房の簡単な掃除や整頓をしている。ほかにはテト、ザッカス、レインに頼まれたことをしている。来る前に母から渡されたパウンドケーキをバスケットから取り出す。パウンドケーキは木の実が入って、バターとはちみつの香りがする。それを紙に挟んで、手を汚さず、そのまま食べられるように、3人に渡す。そして木のコップにお茶をいれ、それぞれの傍らに置いた。


「ありがとう、アリーシア」


「ううん」


 レインがお礼を言ってくれる。テトとザッカスはケーキをかじりながら、内装の最終的な配置を話し込んでいる。
 アリーシアはザッカスやテトを眺めていた。テトは真面目すぎるところがあるのは確かみたいだ。確かにいつも期待以上の仕事をしてくれる。才能ももちろんだが、テト自身が妥協ダキョウしない性格でもあるのだろう。ザッカスが歯止めをかけてくれるから、どうにかまだ倒れずにいるのは察することができた。
 アリーシアは考えた。テトはあくまでもピエールの工房の跡取りだ。この工房は新しい形であるが、最終的にはピエールの工房に取り込んでもいいと思っている。
 ただ職人としての仕事もこなしつつ、こういった経営の仕事もするのは厳しくないかとも考えた。アリーシアは家に帰ると、レインや母・リリアにどうするべきか相談した。


「そうですね。テトの職人としての仕事もありますし、負担を考えるとピエールに相談をした方がいいかもしれません。人員の応援など、そういったことも考えましょう」


 母はピエールと話すことにしたようだ。ピエールはテトの好きにやらせたらいいとは思ったが、これがテトだけの仕事ならである。しかしこれは侯爵家の資金なども入っているので、工房の成功よりは、孤児院の子どもたちの働き場の提供の意味合いが強いことに理解を示した。
 工房はあくまで、ピエールの工房の下請けといった形をとることになった。印刷部門として発足し、女性達が試験的に雇われる形になる。ピエールとピエールの片腕のスタッフが入ることにより、物事はとんとん拍子で進んでいった。テトはピエールと話し、印刷部門の責任者として、研修ならびに教育の仕事を当分の間、任されるようになった。負担が少なくなった分、テトはのびのび仕事ができるようで、印刷で絵本を作る試みは順当に進んでいく。



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