オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

4-3 孤児院の変化2



 春が訪れ、16歳になった子どもが孤児院から巣立っていく。今年はその巣立ちにも変化があった。実はアリーシアとアポロのおつきで警護をしてくれている、二人の元・騎士が自警団を作ることになった。自警団というのは、私設の警備兵に近い。商人に雇われるプロの傭兵までは行かなくても、ちょっとして警備などはできるのが自警団だ。仕事は限定せず、おばあさんのお使いの手伝いから、子どもの学校の送り迎えのような、警護だけの仕事だけではない。
 いわゆる何でも屋に近いところがあるが、地域に密着したサービスを考えているようだ。
 元・騎士は退役したあとの報奨金や、国からの年金などで安定した給与がある。そのなかで新しい仕事をしたいと考えた二人だ。
 アリーシアたちが孤児院へ行き、そこで元・騎士の二人は剣の指導をしていくうち、見所がありそうな子どもたちを見つけた。剣の腕を上げていく子どももいれば、人に親切で、気配りができる子どもいる。そういった適所適材の才覚を見いだして、16歳になった子どもたちと一緒に新しい自警団を作ることを決めた。またザッカスの提案で、仕事につけていない孤児院出の子どもにも声をかけるという。
 怪我をしてしまい、力はあっても仕事をする場所がない元・騎士も多くいる。収入は困ってはいないので、何か力を発揮できる場所を探しているのだ。そういった人々にも声をかけて改めてきちんとした警備の訓練を続けるそうだ。


 マリアは前任の孤児院の責任者から、子ども達の働き口を見つけるツテはいくつか知っていた。しかしそう簡単には、16歳の子どもを雇ってくれるのは難しい。


「何か困ったことがあったら、孤児院へいらっしゃい」


 アリーシアはレインと一緒に孤児院へ来ていた。今日は自警団を作り、空き家を借り切って共同生活に移る子ども達の見送りだ。借り上げた空き家は自警団の事務所兼、寮になる。そこはアリーシアの父からの出資金も出ているようだ。子ども達の自立と、退役兵の働く場所を作ることはいい相乗効果が期待出来ると考えたようだ。
 ザッカスの力もあってか、商人からの寄付金もあったようだ。傭兵を雇うほどのお金を出さなくても、簡単な警護程度なら比較的安価で気軽に頼めるのは、商人としても利点があるように感じたのだろう。
ザッカスは立ち回りが上手であるようで、どこからか情報を見つけてくる。


「ええ、もちろんザッカスたちにも相談してね。あの子は街での生活は慣れているから」


 子ども達に一人一人に話しかけるマリア。マリアはまるで母親のようだ。年齢では姉くらいの年齢であるのに、子ども達を心配し、語りかける姿は母親だ。


 そして子どもたちは孤児院を巣立っていく。マリアの目は少し潤んでいた。


 主に自警団は男の子が働く。事務仕事関係は、女性も入ることになるだろうが、当面は男性の職場になるだろう。では女の子はどこへ働きに行くか。
 それについては新しい出来事があった。アリーシアは孤児院へ行って、絵本で文字を教えて行くと、やはり本が駄目になってしまうことがあった。そこで本のメンテナンスを頼むか、新しい本を受注しようかと考えた。
 そこで修理を頼むべく、本を作ってくれたテトを屋敷に呼ぶことにしたのである。


「テト、本を新しく頼みたいのです」


 屋敷に呼ばれたテトはきちんとした格好で、アリーシアに頭を下げる。


「はい。絵本はどうでしたか? 」


「ええ、とってもよかったです。子ども達に大好評で。実は絵本を孤児院へ寄付をしたのです」


「はい、存じ上げております。知り合いで、リリア様たちが支援している孤児院で絵本を贈られたと情報を伺いまして」


「知られていたのね。大ごとになってないかしら」


「大ごとにはなっていません。ただ本は高級品ですから、寄付となると噂は広まりますね」


「余計なことしてしまったかしら」


「そんなことはないです。何かの因果かわかりませんが、リリア様たちの孤児院で世話になった者が絵本の文章を書いてくれたんです」


「え、文章を書いてくれたのって。テトの友人でしょう? 」


「はい、古い友人です。養子になる前からの知り合いで。文章書きとして仕事をしているんです」


「すばらしいわね。でもそんな人知らなかったわ」


「そうですね、気むずかしい面もあるやつですが根は悪いやつではないです」


「いい文章を書くもの。優しい文章ね」


「頭がとてもいいのですが、権力が嫌いなところがあって。批判的な本を書いてしまうので、目をつけられやすいんです」


「そうなの?でも批判的な本ってあるのね。知らなかったわ」


「でも過激なものではないのです。風刺をきかしたもので」


「ブラックジョークみたいなのかしら。そういうのも好きだわ」


 どの世界にも世の中を皮肉った風刺のきいた本は溢れる物だ。アリーシアは面白いならどんな本も大好きだ。漫画だって、小説だって多少ブラックなことが書いてあっても刺激的で楽しい。


「アリーシア様はご理解がありますから」


「風刺だって、全部は嘘を書いているわけではないでしょう?その時々の出来事がわかりやすく書いてあるし。家には蔵書がないから読んでみたいとは思っているのよ」


「リリア様たちはあまりいい顔はされないでしょうから。これは秘密ということで」


「あら残念」


「本の追加受注は承ります。あと今日は相談がありまして。」


「何かしら?」


「本の印刷についてです。どうしても、人数の確保ができません」


「職人の手を借りるのは難しいということね」


「そうですね」


「人を確保することは、案があるのだけれど」


「はい、お聞かせください」


「孤児院の働き口として、印刷に女性を雇って欲しいの。印刷の技術がある程度出来れば、流れ作業で細かい作業があるわね。それは女性でもできないかしらと思っていて」


「女性…………」


「もちろん、男性でもいいの。商談などは男性が出た方が何かといいでしょう」


「孤児院の働き口に、男性は自警団を作りました。そこで問題となるのは女性の働き口なの。女性を雇ってくれる場所は限られてしまうから」


「工房に女性はきいたことがありませんね」


「ええ、工房は男性社会でしょうね。でも印刷だったら同じ作業だから、力仕事もそれほどいらない。だったら仕事を覚えてもらえば、できると思うの」


「………できる仕事でしょう。驚きました。妙案だと思います」


「本当!? 」


「ええ、印刷の技術にたいして否定的な職人が多いものですから。だったら職人とはまったく関係ないひとたちに仕事をしてもらう方が、何かと物事が進みやすいと思います」


「よかった。色々大変なことはあると思うけれど、やってみましょう」


 アリーシアとテトの思いつきにより、本の印刷の小さな店を作ることになった。まずは何人かの女性とともに、テトは試作品の製作を続ける。そして、あとになって絵本の文章を書いたのがザッカスだとわかって、さらに本を作ることは良い方向へ進んでいくことになった。



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