オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

4-2 孤児院の変化1



 孤児院に視察へ行く日になった。
 アリーシアは支度を済ませ、一緒に行くことが多くなったアポロと一緒に母の仕事部屋に行く。もう部屋のなかには、今日の仕事の担当である令嬢が何人か勤務している。
 母と一緒に会話をしているのは、アリーシアの叔母であるレインである。レインはまだ20歳前だが、母にはたくさんの兄弟姉妹がいるため、下はアリーシアと同じくらいの叔母や叔父もいるようだ。詳しくは聞けていないので、母方の兄弟が何人いるかわかっていない。


「おはようございます」


アポロとアリーシアは部屋に入ると、中にいる人へ挨拶をする。顔を上げて皆挨拶をしてくれる。


「アリーシア、アポロ。今日も元気だね、お天気もいいし今日は良い日だね」


レインは母と話が一段落したらしく、アリーシアたちに近づいてきた。


「ええ、お天気でよかった。アポロなんて、朝から元気でさっきまで剣の練習をしていたくらいだから」


「アポロは剣が上手だから、孤児院の子ども達にもとっても人気があるよ。もちろんアリーシアもね。字を丁寧に面白く教えてくれるからって」


「僕、この前教えてって言われたところうまくできなかったから、練習していたんだ!できるようになった! 」


「アポロ、それはすばらしいわ。みんなが喜ぶね」


「みんなで一緒に強くなるって約束したから」


 アポロは今年9歳になる。やはり背が大きく、アリーシアはまだ大きいがそのうちそれほど背丈が変わらなくなりそうだ。アリーシアだって14歳の割にそんなに小さな方ではない。ただアポロはもともと背が大きいのだ。父似である体格は生まれてから大柄であり、間違いなくそのまま成長していくだろうアポロは、成長期に入ったらどれだけでかくなるのだろうかとも思った。
 アポロはレインに褒められて、嬉しそうに笑った。ふわふわの癖毛のアポロの髪の毛先が揺れる。アポロの髪の毛は癖毛であるのに、やわらかく、太陽に浴びると天使の輪が頭にできる。キューティクルがきいている髪の毛だ。アリーシアもどちらかと言えば、髪の毛は癖があるがアポロみたくふわふわの柔らかさはない。
 アポロは母にまた帽子をかぶせてもらい、目立たないような格好をしている。アリーシアも庶民が着ている服より、もっと地味で落ち着いた色味の服を今着ている。レインは仕事着としてかっちりした襟元のドレスを着ているが、やはり地味な形である。


 アリーシアたちは定刻になると、馬車に乗り城下街へ行く。今日も馬車を運転してくれるのは、寡黙な元・騎士。そしてアポロや孤児院の子どもたちに剣の指導もしてくれる陽気な元・騎士の二人が警護も兼ねて一緒に行く。


「子どもたちも、勉強が苦手な子もいるけれど、みんな楽しんで読書を続けているよ」


「よかったわ。苦手意識をもってしまったら、なかなか続かないから」


「それはそうだね。でも誰も強制してないし、わたしやマリア姉さんが教えなくても、子ども同士で教え合ったりもしているね。勉強って必ずしも、机でガシガシするものではないでしょう?お互い話し合って、新しい発見もあるから楽しいんだし」


「レインちゃんって教師になったら子どもたち喜びそう」


「ね、わたし教師に憧れているの。ただ教師の学校行くのもお金がかかるから、貯金が先だわ」


「レインちゃんなら奨学金をとって行けるんじゃないの? 」


「競争率が厳しいの、狭き門だから。それに学校の費用が出ても、生活費とかもあるから。赴任地はどこへでも行くから、はやく学校で教えてみたい」


「レインちゃんってすごいね」


「そう?ありがとう! 」


 明るく前向きなレインだ。マリアもキラキラしているが、レインもキラキラしている。夢がありそれに向かっている姿は、とてもまぶしい。
 そうしてレインの話を聞いていると、あっというまに孤児院へ着いてしまった。
 いつもの通りマリアが出迎えをしてくれ、事務局へ通される。簡単にレインとマリアが今日の打ち合わせをしていると、バタッと扉が開いた。


 以前、貴族は嫌いだと行っていたザッカスだ。
 実はザッカスと何度か視察をしていると出会うことがあった。ザッカスは教養がある人らしく、言葉使いは荒いが、文字を教えることはもちろん、難しい文学のことや、数字・計算など特権階級にいるのかというほど、様々なことに精通していた。マリアはザッカスについて、色々あると言葉を濁していたが、ザッカスは貴族が嫌いだというのは、何か貴族とトラブルなり葛藤があるのだと感じられた。ザッカスはアリーシア達がもってきた本をけなしつつも、子ども達に絵本を教科書のようにつかって文字を教えていた。
 特に男の子たちはザッカスの話す絵本の内容を面白おかしくかえた物語が大好きらしく、たまに英雄サンパウロ様を悪役にしたてた物語を作るなど、即興で様々な物語を語る。アリーシアもザッカスが作る物語を聞くのも好きで、今はザッカスが作った話をみんなで聞くのも視察での楽しみの一つにもなった。


「レインさん、こんにちは。ん?アリーシアとアポロも来たか」


「ザッカス兄ちゃん、今日もお話聞かせて! 」


 アポロもザッカスがお気に入りらしく、目を輝かせて近寄っていく。ザッカスの素行は悪そうだが、男の子のガキ大将のような人を束ねる力があるようだ。アポロも最初は、今まで出会ったことない振る舞いの男性に警戒したが、ザッカスは基本子どもには優しいのだ。年下でしかも素直そうなアポロがそれなりに気に入ったらしく、何でもいうことを聞くのでかわいがっている。アリーシアも基本的に逆らわないので、子どもの一人として接してくれている。


「ザッカス兄ちゃん、この前のサンパウロ様が野獣になって、お姫様をさらっていく話の続きが聞きたい! 」


 アリーシアはどんな話なのか疑問に思ったが、とにかくザッカスとアポロは子どもたちの待つ部屋に向かっていく。


マリアがそこで書類をもちながらレインを打ち合わせしていたのを中断させた。


「ザッカスは少し荒れていたのですが、最近また落ち着き始めました。アポロやアリーシアたちと接するのもいい気晴らしになるようです。なかなか仕事が大変なようですから」


「へー、ザッカスって何か仕事もっているんだ」


レインが話を振ってみる。


「ええ、今は何か商人からの仕事を請け負っているとは聞いています。以前は教養がある子ですので、貴族の子息の教育係の仕事もあったのですが、雇い主とあわなくて。ただ、一人でどうにか暮らしているのは、本当にがんばっていると思っています。」


「ザッカスってわたしより年下でしょ?えらいね。しっかりしている」


 レインは感心したように頷く。アリーシアよりは何歳か年上のザッカスだが、もう独り立ちして生きている。この世界の独り立ちは早く、孤児院は16歳すぎたら施設を出て行く。貴族の女性は14歳を過ぎたら結婚するようになるし、男性は学校へ行けば卒業するまでは猶予されるが、家業を継げば16歳を過ぎれば後継人がいなくても一人前と認められる。医療制度が、アリーシアがいた前世よりは発達していないので寿命も短い。そういった点も考えて、独り立ちも早いのかもしれない。ただレインやマリアをみれば、結婚は貴族間では早いものの、一般的には20歳前後に結婚する人が多いようだ。


「さあ、レイン、アリーシア。子どもたちがいる部屋へ行きましょうか」


 マリアは打ち合わせを一段落したのを見計らうと、アリーシアとレインへ声をかけて部屋を出て行く。アリーシアとレインもマリアのあとをついていき、今日も剣の稽古に文字の学習などで一日過ぎていった。



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