オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

4-1 ダンスの練習



 アリーシアが14歳になる年が来る。
 新年がくるとアリーシアの国では、みんな一律に年を重ねる。隣国では誕生日という概念があるが、この国ではない。アリーシアは母の故郷は隣国であるので、新年のときに誕生日ということにしてプレゼントをもらった。


 今年は社交界デビューの年になる。アリーシアは父方の祖父母から、たくさんの祝いの品物を頂いた。侯爵家の直系であり、さらには初めての女の子の祝いであるので、ドレスや装飾品が年末から当家のエントランスに積み上げられた。
 兄・アランの時はもっとすごかった印象である。一族のアイドル的な人気のある兄は、一族からも、そして祖父母から寵愛されている。そこで14歳のときの社交界デビューのときは、とても盛大に祝った。アリーシアも家の中だけのパーティーくらいは参加したが、一族のものとしての参加となれば、両親と兄とで参加してきたらしい。アリーシアとアポロは留守番だった。
 今回はアリーシアの番である。ただ屋敷の中は穏やかである。アリーシアは変にプレッシャーを感じたくもないし、兄とは比べられる次元も違うので気が楽である。そういえば、侯爵家のお嬢さんが社交界デビューだったわね~というレベルなのだろうですむと思っていた。


 ただ、それを大げさにしてしまったのは、赤毛の王子である。
 王子だけの責任ではない。王の病気の回復を祝って、王子とアリーシアの社交界デビューを一緒にやろうとなったのである。一時は出席時のパートナーまで一緒にとも言われたが、それ断固として断った。
あれから赤毛の王子のエドワードのパートナーの席は空席のままになる。


 アリーシアは知らぬふりを続け、会話にも出さないように、極力気をつけていた。無事に社交界デビューにこぎつけて、可愛らしいレディたちとそれなりにお付き合いをしたいのである。女同士の社交場では、第一印象が大切だ。
 特にこういう見栄をはる場所では、その人の生まれ、育ち。身につけている物、所作、振る舞い、などなど比べる機会がある。そして誰と誰が親しいというのも、大きなポイントだろう。アリーシアがこれから社交界の華になりたく、輝かしい経歴をもち、様々なイケメンと浮き名を流し、さらには王族の中に囲まれて、熱に浮かされた恋愛を楽しめるならそれはそれで楽しそうだ。しかしアリーシアは、そういうもの全部がめんどうなのだ。社交界とかに出なくていいなら出ないし、小さな部屋にいてソファの上でゴロゴロしながら、本を読んだり、お菓子を食べたり、妄想したり、うたた寝をしたりしているほうが何倍も幸せなのである。


「アリーシアさん、手元がおろそかになっておりますわよ」


「すみません、マダム。」


 いけない、今はダンスの練習中だった。
 アリーシアは社交界デビューということもあって、本格的にダンスの練習を始めた。マナーについても社交界の習わしにそった方式を学んでいる。


 今講師で来てくれているのは、マダム・パリエラである。遠い昔は流浪民の末裔であり、その一族は踊り子の血を受け継ぐ。マダムは伯爵家に嫁いできて、伝統舞踊からモダンダンスまでいくつもの踊りを教えられるダンスのプロである。肌が浅黒いマダムは、東洋人のようなエキゾチックな民族衣装が似合いそうだ。目の色は青い色であり、髪の毛が真っ黒であり、全身が黒い衣装のなかで、瞳だけが異色になるのも魅力的である。
 マダムをみていると、大人の女性の色香ってこんな感じなのだろうなとうっとりしてしまう。絶対昔はもてたに違いない。


 マダム・パリエラと伯爵さまの恋愛話も聞いてみるととても素敵だった。実はマダムが嫁いできた伯爵家はそれほどお金がない。伯爵は苦学生でありながらも、世界中を旅しながら様々な文化を学んでいた。 そのときに出会ったのが、マダム・パリエラだった。マダムは親が早くになくなってしまい、一族長である祖父母が育ててくれていた。一族は踊りを舞い、狩りをして遊牧民のように暮らしている。マダムと伯爵は恋に落ちた。両家の一族の反対にあいながらも、二人は寄り添い慎ましく暮らしたそうだ。もう30年前の話だという。今は子どもも2人いて、苦労もあるようだが、マダムはとても綺麗である。夫である伯爵さまと一緒に世界を旅して、世界のダンスを無数に習得したそうだ。


「アリーシアさん、ダンスは心が大切です。心から楽しんで。はい、もう一度。」


「はい、マダム。」


 マダム・パリエラはもともと大柄な背丈であり、アリーシアが女役として、マダムが男性役として踊りを指導してもらっている。マダムは集中力が切れているとすぐにわかって、しっかりするよう指摘する。踊りの時以外は、のほほんとしていて笑顔が絶えない人だ。しかし踊りに対しては、容赦はない。


「1、2、3………テンポをゆっくりしましょう。足が追いついてないわ。」


「はい、マダム。」


 ステップを覚えるのが大変である。
 まず社交界では定番の形のダンスがいくつかあるので、それをすべて覚えなければならない。今回は王子のデビューも兼ねているので、アリーシアが断ったとしても、ダンスのパートナーとして一度は踊る可能性は高いのだ。そのときにヘマをすれば、自分だけでなく王子が笑われ、さらに父や母たちも何か言われるかもしれない。侯爵家として最低限はどうにかしなくてはならない。とにかく最低限だけがんばればいい。前世は体育も好きではなかった。体を動かすだけのウォーキングなら好きだが、学校の意味のわからない苦しいマラソンとか、しごかれて次の日全身筋肉痛になる基礎練習は嫌いだった。苦しいのは嫌だし、楽しい方がいい。


 ダンスの練習はあくまで周囲に迷惑をかけないため、いわば侯爵家の仕事と割り切ってやることにした。仕事として心をこめずにダンスをする態度を露骨に出せば、マダムに注意されるので、慣れないなか楽しさを見つけていった。マダムは近くで見ても綺麗だし、踊りは素人のアリーシアが見てもダイナミックでありながら指先まで華やかで繊細な動きであり、とにかくダンスが素晴らしいことがわかる。前世からダンスなんてやる機会などなかったので、いい勉強だろう。


 動きの早いものは苦手だが、ゆっくりのダンスなら姿勢さえ気をつければ楽しめる。マダムの指導を受け、さらには所作振る舞いの指導も受けているうちに、一日もあっという間に過ぎていく。久々に行く孤児院への視察は、数日後までの楽しみである。



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