オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

3-11 続・木の上の出来事1



 アリーシアは国の変化に不安を感じる日々だった。父が帰ってこないことも、何か日常に変化があるのではないだろうか、と不安になる。人間暇だと不安にさいなまれるとは昔聞いたことがある。もともと人間は不安思考だから、あえて思考をポジティブにしないとどんどん不安になってくるそうだ。前世の本で読んだ気がする。しかし、時間をつぶせる娯楽も少ない。むやみに出かけることは出来ないし、妄想だって進まない。
 こういうときは、アポロの訓練につきあっているのが楽だった。体を動かしていれば、考え込まなくて済む。


「いたっ! 」


「姉さま、大丈夫?! 」


 アポロの剣の打ち合いの稽古につきあっていたが、一瞬の気の緩みから持っていた木刀が手からすり抜け遠くに飛んで言ってしまった。しっかり木刀を握っていなければ、アポロの強い一振りでは剣を持っていることすらできなくなってしまう。真剣に握っていなければ、剣を受けることすら出来なくなってしまう。


「手に当たってない? 」


「ありがとう、大丈夫」


 アポロが気を遣って飛んでいってしまった剣を拾ってきてくれる。そしてアリーシアに渡す。


「姉さまは休んでいて。僕新しい技を父様に教えてもらったから練習する」


「ごめんなさいね、少し休憩するわ」


 アポロのさりげない気遣いに感謝しながら、木刀を傍に置いて中庭へ散歩することにした。中庭は花がたくさん咲いている。
 気がつけば兄が寄宿舎へ行ってから、一年が過ぎていた。あっという間に一年が過ぎていく。アリーシアの日常と言えば、ほぼ勉強と習い事で終わる。学校に行っていないので、家で様々なことが完結してしまうのでこの世界にいても外の世界のことはわからない。ただ14歳になったら、社交界にデビューするので一人前のレディとして世間では見られる。それまでに貴族としての素養を学ばなくてはならないのだ。
 話をきけば、幼いころから婚約している人のなかには、14歳で社交界デビュー後すぐに結婚する人もいるという。年齢差がある場合や、婚姻相手の家のしきたりに慣れておくこともあって、早い段階で婚姻に移る家もあるという。大人になることの明確な線引きが14歳になって見えてくる。


 アリーシアは今まで不自由なく、自由に生活してきた。もちろん子どもであるから、親の保護のもと限りあるなかの自由である。しかし教育もしっかり受けさせてもらっているし、服だってこの世界のレベルを考えたらいいものを身につけている。そういった意味で非常に恵まれた境遇で、今世も恵まれた境遇に生まれたことを感謝してもしきれない。前世だって、平凡で一般庶民のレベルだったが、食べるものにも着るものにも困ったことはない。両親もいたし、多少うとましく思っていたこともあったが、親心を思えば口うるさく言われたことも愛情だったのかもしれない。今が幸せだからこそ、不安になる。


 アリーシアは父がいるだろう城の様子を見てみたい気分で、中庭にある木に登って気分転換をしようと考えた。父は家の精神的な支えであり、それは母も同様であるのはわかる。兄もアポロも父のさりげない優しさと、支えがあるから、自由に自分の思うままに努力し続けられていると感じている。アリーシアもそれは同じであると感じている。


「お城は今日も綺麗だわ」


 木に登り、いつもの定位置で城を眺めていて、今日も国旗が幾重イクエにもカカげられ、窓ガラスが光っている。堅牢ケンロウな作りではあるが、装飾もある城は、長い年月を経て、時代とともに変化してきたことがわかる。


 ぼんやりと城を眺めていたら、ふと頭の上の枝が動いたのがわかった。
 アリーシアは身構えた。誰かいるのだろうか。アポロは剣の修行をしているし、誰だろうか。アリーシアは鳥かもしれないと警戒をとくが、出てきたのはなんと髪の毛が赤い人。
 渦中カチュウの人であるエドワードである。城では国王の息子であるエンドリク様が国王代行で忙しいというのに、エンドリク様の息子であるエドワードがなぜここにいるのだろう。
しかし、服装をみれば銀糸に金糸といった明らかに国内で最上級の素材を使った正装を着ていた。


「こんにちは」


「……………邪魔が入った」


「わたしは邪魔をするつもりはありません。だってここはわたしの家ですもの」


「この国は俺のものになる、だからここは俺の場所だ」


「まだなっていません。それに国王やエンドリク様は他人の敷地へ入ってきて、こんな失礼なことはしませんから」


「…………なんでそうやっていつも口ごたえするんだ? 」


「あなたがいつもそうやって高圧的な物言いで、こちらを威嚇イカクするからです」


「していない」


「ほら、そうやってすぐ大きな声をだす」


「…………………」


 顔を合わせたらすぐこうやって口げんかになってしまうのは、もう何度も経験した。そしてお互い決して引かない。だから距離を置いて、お互い干渉しないことが良策だと思っている。しかし今回はたまたまタイミングが悪かった。


 アリーシアは内心大きな疲れを感じながら、さっさと降りようかと考えた。しかしよくよくエドワードの顔を見れば、すこし目元が赤くなっているのが見えた。泣いていたのだろうか。まさか、あのエドワードが?と目を見開いた。アリーシアが何も言わず自分の顔を見ているのを気がついたエドワードは、いつもの自信満々な顔ではなく、急に恥ずかしそうな顔をした。そして目を軽くこすった。やはり泣いていたみたいだ。


「お城は大変だと聞きました」


アリーシアは言葉を発した。


「父も城に行って帰ってきませんし、エンドリク様も大変な状態だとうかがいました」


「お前も、俺が後継者にふさわしくないと思っているんだろうな」


急にエドワードが叫ぶように言葉を口にする。アリーシアはびっくりしてしまった。何を急に言い出すのだ。


「大臣も、貴族も。国王の孫にあたる俺に期待をする。しかしそれだけの器ではないと言う。確かに父は努力をしているし、みんなの期待以上に何でもこなす。俺にはそんな器量はない」


 急に言葉を発したかと思えば、どんどん不安があったのだろうか。顔を真っ赤にして話し始めた。その勢いで目尻に涙まで浮かんでいる。とても追い詰められていたのだろうか。ただ今は話を聞くこと、それしかできないと思った。そのままエドワードはネガティブな言葉を発し続け、疲れて黙り込んでしまうまでアリーシアは横にいた。
 

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