オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

3-10 異変



「アポロ、お前強いよな! 」


「うーん、わからない! 」


 アポロは孤児院で剣を教えていた。1人では危ないので、父がもう1人知り合いを雇って警備兼指南役で付き添わせた。知り合いといっても元は先鋭の騎士であった人だ。腕を負傷して、現在は退役したあとのお金で、自営業を始めようか考えているらしい。いいお小遣い稼ぎになるからと、彼は陽気に話してくれた。いつも警備をしてくれている人は無口で何も言わないが、指南役として雇われた人は差し障りのない範囲で話してくれる。
 アポロは指南役にならって、剣を振る。アポロは軽々と剣を振り、まるで剣をもって舞っているようにも見える。儀式的な剣舞においてはアポロよりは、兄・アランの方がうまい。アリーシアも儀式的な剣舞くらいは覚えようと、少しは練習している。基礎は少しずつだが出来てきて、自己満足だがうまくなってきた気がした。


 アポロが剣を振ると空気抵抗があるのか、ブンっと音がする。その音の重さに子どもたちは目を丸くする。アポロは父から相手をみて力を出すようにと言われているのにならって、いつもよりは手を抜いている。簡単な打ち合いは、ほぼアポロはかわしているだけだ。それでも身のこなしがとても素早く、子ども達から見ればこんなに小さな子どもが訓練されていることに驚いたようだ。だが、指南役が強いのだから、練習すればアポロみたく強くなるのだ、という目標みたいなものが出来たようでやる気になっている。アリーシアはそんな光景を見ながら、また絵本を使って文字を教える時間を作る。


 まだ成果は出ていないが、まずは話を覚えてもらってから。サンパウロ様たちがどうやって国を作っていったかなど、かみ砕いて教える。子ども達の想像力は豊かであり、アリーシアが考えたことがない発想もたくさん出てくる。絵本をみたら簡単なサンパウロ様たちの姿は共通の記号としてわかっているので、さらにお互いの想像を膨らませていく。


 年長者の中には、既に文字が多少読むことも出来るものもいて、人に合わせて学習のレベルを変えていくこともあった。アリーシアがいない時も、レインやマリアたちは簡単な学習時間をとることもあるそうだ。
 今日も学習の時間が終わり、アポロとアリーシアは屋敷へ帰ることになった。しかし屋敷に戻ったら、母が難しい顔をしていた。レインはリリアに近づいて、今日の報告とこれからの予定を伝えようとした。


「国王が倒れたそうです」


「え……」


 レインが近づいたとき、母が話し始めた。父からの伝言があったようで、それをリリアが読んだようだ。部屋にいたものが、みんな顔をあげる。
 国王はそれほど年はいっていない。しかし、倒れたということは何かあったのだろうか。


「詳しい事情はまだ伏せられているようです。しばらくサン様が帰ってこられないと伝言がありました。急なことで城のなかが落ち着くまではということです」


「国王様が…………」


 レインは驚いたようにリリアを見つめる。
 窓の外は今まで晴れていたのが嘘のように曇り始めた。屋敷からみえる城は、いつもの変わらないように見える。しかし城の中では、急な出来事に城内は忙しないだろう。


「今日の仕事はここまでにしましょう。これから正式な発表があるそうです。静かに待ちましょう」


 今日は事務仕事を終わりにして、今後の展開に備えてゆっくりすごそうと言うことになった。母も父がしばらく帰ることができないということで、城に使いをだした。着替えやそのほか不便なことがないかというのを聞き、快適に政務が遂行できるようリリアは執事たちと打ち合わせを重ねていた。アリーシアたちも静かに部屋で過ごすように言われ、アポロと部屋に戻って本を読むことにした。


 夕食になって母とアポロとアリーシアと3人でご飯を食べていると、母から話があった。


「国王様は、流行病にかかったそうです。アリーシアがかかった病です。薬がないものですから、しばらくゆっくり過ごすことになるそうです。国王の代行としてエンドリク様が政務を行うことになったそうです」


「お父様は? 」


 アポロはいつも夕食に一緒にいる父がいなく、寂しそうである。


「ええ、お父様もエンドリク様を補佐する役職に就任するようです。ですから準備などもあり、城にしばらくいると連絡がありました」


 父は忙しくても家に帰ってくることが多い。そんな父がしばらく家にいないというのは、領地への視察で家を空けること以外ないことだ。エンドリク様も公爵の地位にはあるが、正当な王位継承者だからこれからが大変だろう。


 アリーシアは食事が終わった後、自室へ行きソファに座って考えていた。エンドリク様が王代行として動くということは、その子どものエドワードは正当な王子として仕事をするということだろう。自分と数歳しか違わないのに、国のことを任せられるというのは重圧ではないだろうか。アリーシアには頼りにしている兄もいるし、力になってくれるアポロもいる。しかしエドワードには兄弟がいない。


 エドワードとは木で鉢合わせしてから、簡単なパーティーでは顔を合わせた程度だが話をまったくしていない。お互い距離をもっているため、アリーシアも自分からは話そうとは思わなかった。時間が経てば経つほど余計仲はこじれるものだ。アリーシアもエドワードがいちいち勘に触るように話すので、いらついてしまうのも原因だ。


 エドワードの従者のジャンはとても紳士であり、ジャンの顔を見ると前世のトラウマを刺激され落ち込むが、胸がときめくのも自覚している。やはり好みの顔なのだろう。


「自分の執念深さにはほとほと呆れるわ」


 アリーシアは家族と過ごす時間がこの世界では多い。娯楽がないもので、話すのは家の中のメイドや家族が主である。スマホやパソコンがあるわけでもないので、外部との接触は手紙くらいである。しかし手紙を勝手に出すわけにもいかない。執事やメイドに頼まなければならないし、それは母や父の耳にも入るだろう。寂しさもなく、安定した気持ちで過ごしているので、前世のように両親が忙しくて幼なじみに傾倒した思いをもたなくて済んだのは安心した。


 アリーシアは好きな人を作るより、友達がほしかったので孤児院で同じ世代の子どもたちと交流できるのは嬉しい。14歳になれば、社交界へデビューしなければならない。侯爵家の令嬢として正式にデビューすれば、顔が知られるようになる。もしかしたら孤児院へも行けなくなるかもしれない。


 そう遠くない未来のことを考えると、憂鬱になってくる。もともとオタク気質だから外に出たくはないし、目立つのもそれほど好きではない。しかし侯爵家というものがある。エドワードに比べたらこんなことは重荷にすらならないのだろうが、今夜はぐっすり眠れなさそうだと思った。


 

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