オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

3-4 視察3

 アリーシアとレインは大通りに近くにある孤児院へ到着した。そこは大きな建物と、大きな庭がある施設だった。古い屋敷を改築したものであるので、新しい施設というわけではない。施設も資産家から寄付されたものを、寄付金によって中を改築したらしい。


「レイン。こんにちは」


 目の前に立っているのは、孤児院の経営者であり総責任者のマリアである。マリアはアリーシアの母の妹であり、アリーシアの叔母にあたる。レインの一つ上の姉である。初めてみたマリアは、とても美しく儚そうな印象だった。こんな女性が施設の責任者というのは意外だった。しかしレインとマリアが話していると、母と通じる内に秘めた強さを感じられた。


「アリーシアもこんにちは。初めまして」


「マリアさん。初めまして」


「姉さまによく似ていますね。でも、やわらかい雰囲気はサン様に似ているのかもしれません」


「マリア姉さんわかる?サン様の雰囲気あるよね、アリーシアちゃんって。顔は似てないのだけれど」


 かがんでアリーシアに挨拶してくれたマリアは、そっとアリーシアの頬に手を添えた。とても肌が白く、しかし指は荒れていて水仕事などをしている手だった。働き者の手だった。


「ええ、レイン。優しい子なのね」


 笑みを浮かべて顔をのぞき込まれると、マリアの輝きに思わず恥ずかしくなってきてしまう。母も華美な格好はしないが、マリアはさらに地味な服装をしている。しかしそれでも美しさが際立っているのは、マリア自身の内面が清く美しいことが感じられた。


「今日は施設の案内になってしまうから、そんなにゆっくりはお話はできません。レインもここには何度か来ていますから、アリーシアもわからないことがあったら言ってくださいね」


「はい、マリアさん」


 屋敷の入り口からそのまま応接間に通されたので、子どもたちの姿は見えなかった。しかし遠くから子どもたちの楽しそうな声が聞こえてきた。そしてマリアは、簡単に施設の作りを説明してくれた。施設は居住区と職員がいる事務局と、子どもたちが遊べる大きな部屋の3構成あることがわかった。今回は子どもたちが普段過ごしているレクリエーションができる大きな部屋に行くことへなった。


 大きな部屋にいる子どもたちは、内職のようなお手伝いもしているようだ。造花をつくったり、裁縫を学んだりして施設を出ても働けるように、最低限の技術を教えているという。今日も女子の年長者は編み物や裁縫をしたりしているそうだ。年長者の男の子は、薪割りや簡単な剣術を訓練しているという。しかし指導者が少なく、また個人の力量にも大きく差があるため、十分な指導が行き届いているかはわからないそうだ。


「様々な事情でここへ保護されている子がいますから。共同生活をまずおくることが、大変であると子どももいます。まずは日常生活になれ、ゆっくり自分の力をつけていくことが大切ですね」


「なかなかそれも大変よね。子どもの中には、ここに来る前が大変な状態の子も多いから。まず身の安全が確保されても、何もない日常になれるのことも大変だから」


 マリアとレインはお互いの連絡事項があり、母からレインに言付かった意見も取りいれながら会話をしている。アリーシアはただ2人の会話を聞いているしかなかった。知らないことが多すぎて、ただ大人の会話を見守ることしかできない。アリーシアは部屋をぐるりを見回した。部屋は改築がしっかりされていて古い家だが暖かみのある部屋に感じた。


 マリアを手伝っている事務の女性も何人かいて、年齢も様々だった。マリアは適齢期の女性であるし、美人だからきっと求婚者は尽きないだろう。しかしマリアの仕事に対しての姿勢を見れば、今はそういったことよりも自分の仕事に対して意欲が高いように感じる。先ほどの修道院もそうだが、仕事をもって働く人の姿をみてこの世界なりの生き方があるのだなと思った。


「ごめんね、アリーシアちゃん。お仕事の打ち合わせはだいだい終わったから、今度は子どもたちに会っていきましょう」


 ぼんやり部屋を眺めていたアリーシアだが、2人の話が一段落してそろそろ部屋を移動することになったらしく2人は立ち上がった。アリーシアも座っていた椅子から立ち上がり、通されるまま移動することになった。


 マリアを先頭に、レイン、その後をアリーシアが歩く。にぎやかな声が聞こえる部屋の前に立つと、扉をあける。そこは大きな広間だった。大きな長テーブルがあり、椅子がいくつも並んでいる。子ども達は各々(おのおの)遊んでいるらしく飛び回ったり走り回ったりしている。そして扉からマリアが入ってくるのを見れば、子ども達は興味深そうに近寄ってきた。


「マリア!!お客さん? 」


 近づいてきた女の子はまだ3歳くらいの子だ。眠たそうに目をこすりながら甘えるようにマリアの足下に寄ってきた。


「ええ。今日は私の妹のレインと、私の姪っ子のアリーシアが来てくれました」


「へー、マリアの妹と姪っ子だって」


 部屋の中央で走っていた男の子がみんなに報告するように大きな声を張り上げる。


「姪っ子って何? 」


「さあ? 」


「あれだろ、えーと兄弟の娘」


「兄弟の娘?あー貧乏男爵の兄弟か! 」


「そうそう貧乏男爵の子だくさん兄弟! 」


「子だくさん男爵! 」


「シィィー!駄目だよ大きな声じゃあ……」




 子どもたちは素直だ。思ったことを口にする。それが悪いことか良いことかの判断は大人よりも鋭いこともあれば、判断の基準を簡単に乗り越えてしまうこともある。
 好き勝手に子どもたちが噂するのに、正直アリーシアは戸惑ったものだ。不躾な視線も驚くし、日頃そういった視線の多さもない。メイドはジロジロ主人を見たりはしない。なんだかいい気分はしない。戸惑ったままどうするべきか悩むが、とにかく先をいくマリアとレインを見つめた。


「はい、皆さん。お静かにしてください。今日はお客様がいらっしゃると言いましたね。皆さんお行儀良くしてくださいね」


 幼少の子どもを年長者が見守るように傍による。各自が居心地がいいポーズがあるようで、収まりのいい場所に移動する。マリアを囲むようにしてみんなが集まる。


「皆さん。今日は侯爵家の視察で、私の妹であるレインと姪っ子のアリーシアがきました。レインさんに注目」


「はいはーい。堅苦しくならなくていいわ。マリア姉さんはちょっと堅すぎるところがあるから。ほら足が疲れたら座って良いわよ」


 早くも立っていた疲れたのか。ぐずりだした子どももいる。レインが周囲を見回してリラックスした雰囲気をつくる。マリアが指示してみんなが絨毯が敷かれた床に座った。


「視察といっても、みんなが困っていること。そういうことを聞きに来ました。こうしたらいいなあとか」


「どんなことでも? 」


 鼻がちょこんと丸い男の子がレインに尋ねる。


「んー、全部願いを叶えるにはいかないかなあ。なんせ貧乏男爵家のレインさんなので。豪華なお願いは苦手です」


「レインちゃんはいっつもそうじゃんか」


「そうそう、この前も家が雨漏りしてね。自分で直しました」


「レインちゃんは何でもするんだよね」


「何でもではないけれど。私一人じゃ出来ないことも多いから。マリア姉さんに頼んだり。リリア姉さまに頼ったり」


「リリア様? 」


小さい女の子が尋ねてくる。


「そう、侯爵家の女主人です」


「知ってる、サン様だよね!野獣のサン様! 」


「僕も知ってる!野獣のサン様! 」


「ええ、リリア姉さんの夫はサン様です」


 アリーシアはびっくりしてしまった。とにかくレインが子どもたちの心を掴むのがうまい。どんなことを言われても、笑って受け流し、子どもの言葉を拾っていく。それに自分の両親のことを言われて、すぐに子どもが反応したことおもアリーシアは驚いた。自分の両親が世間でどう思われているかなどわからない。まして庶民に対してどう思われているかを聞く機会もなかった。しかし子どもたちの反応を見る限りは、好意的であるのはわかる。アリーシアは黙って見守る。


「侯爵様ってどんな生活してるのかな」


「毎日おいしいもの食べているよね」


「おっきなお肉とか食べているのかな」


「わたしはお菓子がたくさん食べたいな」


「僕も! 」


 子ども達の話題は食事になった。レインは一つずつよく言葉を聞いていく。そこでレインはもっと食事に関して考えるということも伝える。そしていくつか施設の修理と備品の補充を検討してから、最後になってしまったがアリーシアが挨拶をすることになった。


「マリアさんとレインさんの姪っ子のアリーシアです。お願いします。」


 同じ世代の子どもたちにこんなに見つめられる経験などない。とても恥ずかしくなってしまい、少しうつむきながら挨拶をした。それから周囲を見回す。パーティの時は何度も練習したので挨拶はもう少しうまく言えた。でも今は練習をしていないからとても緊張した。


「…………アリーシアちゃん、とっても可愛いね。いいなあ、お人形さんみたい」


「でも貧乏男爵の姪っ子だぞ? 」


「いいじゃない、貧乏でも男爵だもの。いいなあ」


 小さな女の子がおしゃまさんのように男の子と話をする。なんだか貧乏、貧乏と言われて慣れてきてしまった。最初は心ない言葉かと思って警戒した。でも子どもたちの言葉は嘘ではない。確かにマリア、レイン、母のリリアは兄弟が多い。(アリーシアも何人いるのかしらないのだ。)そして男爵家は、マリアやレインが働きに出ていることから、裕福な家庭ではないだろう。嘘などないのだ。悪意があるわけでもない。そんな言葉に傷つく必要もないかもしれない。


「わからないことも多いけれど。みんなとお話したいです」


アリーシアは自分なりの言葉にしてみた。


「うん、アリーシアちゃん可愛いし!仲良くなりたい! 」


 小さな女の子を中心に笑顔を見せてくれる。そして男の子たちも頷く。年長者は小さい子を見守る。
場が和んでいき、しばし話す時間をとった。


 みんなそれぞれ不便なことはあるだろう。しかし、そういったこともはね飛ばすくらいに生命力があって元気をもらえた。人見知りであるアリーシアでも、少しずつ打ち解けていった。しかし時間はあっという間だ。帰る時間になってしまった。最後は馬車まで女の子たちが来てくれて、手を振ってくれた。
 マリアや子どもたちに手を振って、孤児院をあとにする。馬車に乗ると緊張していたのがわかり、どっと疲れたきた。レインは優しい笑顔でアリーシアの頭をなでてくれた。
 少しの間馬車で寝てしまい、気がついたら屋敷についていた。母が迎えに出向いてくれ、屋敷に入り、ほっと一息紅茶を飲むとまた眠くなってきた。一日、とても勉強になった日だった。


 アリーシアはその後、何度か孤児院へ行くことになる。そこから進むオタクへの道。


 そして変化のある日常が訪れる。





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