オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

3-3 視察2

 到着した先は、静かなタタズまいの修道院であった。門を入り、まっすぐ先の奥に教会があり、さらに奥には修道女がキョを構えているスペースらしい。彼女らは一日規則正しい生活を送るそうだ。


 朝に起床し、祈りを捧げ、朝食をとる。そして昼間は奉仕として働くそうだ。彼女たちはお菓子を作ったり、工芸品を作ったりと働き方は多岐タキに渡る。アリーシア達がよく食べている菓子は、ここの修道院で作られたものも多く、馴染みのあるお菓子だった。ここで作られたものは、寄付されたり、出来のよいものは献上されたりするという。運営は寄付でマカナわれているので、売り上げは重視されていないようだ。だから彼女たちの仕事は丁寧であり、とても繊細なものであった。


 仕事が終わると、礼拝をして、夕食になる。寝る準備をする。就寝前の祈りを済ませると、一日が終わるそうだ。
 ちょうどアリーシアたちが訪ねたときは、彼女たちが仕事をしている時だった。年齢は様々で、若い人はまだ10代の見習いである。一番年上になると、80代のおばあさんも働いている。みんな健康的な生活をしていて、暮らしは質素であるが、イキイキとしていた。


 アリーシアは母ももし父と結婚しなかったら、こういう風に働くことになったのだろうと思った。神に仕えるため、一生修道院で暮らすわけだが、こういう暮らし方もあるのだと勉強になった。アリーシアのいる時代では、結婚することがやはり女性の生き方も大部分を占める。しかし、女性でも一生独身で暮らす生き方の一つには修道院へ入ることもあるのだろう。


 母も貧乏な貴族であったので、結婚にはお金がかかるのもあり、神殿に仕えることも選択肢にあったわけだ。アリーシアの前世だって、尼寺アマデラがあって女性達が暮らす寺があったのと似ているだろう。アリーシアの前世の時代は、結婚は無理にしなくてよいという部分もあったが、全く圧力がなかったわけではなかった。友人も親から結婚しろと毎度言われて、嫌気を感じていた人もいたし、婚活に焦った結果、結婚生活が失敗することもあると聞いていた。


 無理のない生き方、とは難しいもので。どうすればみんなが生きやすくなるだろうと、改めて考えさせられた。


 アリーシアは少し離れたところに、母子が暮らすスペースもあることを聞いた。いろいろな事情で、母子だけの生活になった人を保護しながら生活を支援しているだという。もちろん母親は昼間子どもたちを敷地内に預け、修道女と同じような奉仕活動をして、できた製品を売り生活をしているという。
 また休日は父子の家庭においても、なかなかご飯が食べられない人向けに修道院では炊きだしもしている。父子家庭は、父が働いているとどうしても子どもが一人になる。そうしたときに問題になるのは、子どもの栄養状態だ。休日や朝に炊きだしをしていると、子どもにとって最低限の栄養状態が保たれるのだ。


 アリーシアはそういうことは、あまり前世においても話を聞くことがなかった。もちろん大変であるという認識はあったけれど、実際に話をきく機会もなかった。母の仕事がこういったことで繋がっていき、人々の生活をサポートできているのにたくさんの驚きと学びがあった。母がいろんな人に会って勉強することが大切といっていたが、聞くのと見るのでは実感がまるで違うことに気がついた。


 この修道院のトップのシスターであるマザーは、とてもしっかりしていて、一見怖かった。集団生活は大変なことも多くあるだろう。その中皆をまとめ、そして生活を見守るという大役をしているのだ。困っていることなどあるかなど、レインは聞いた。


 不足しているものはないか?健康状態は問題ないか?近隣の施設などとうまく連携できているのか?そういった定期的な報告を確認するのも、レインの視察としての仕事だ。要望を書き留めて、すぐ解決できるものは手配することにして、母の判断が必要なものは後日に連絡することになった。また母の管轄外カンカツガイのことは、地域の代表などと話し合うことも大切だ。そういった細々した用事を済ませて、今回は修道院をあとにした。


 アリーシアは付き添いという形だったので、ほとんどレインの傍にいるだけで終わった。はじめてのことだらけで、とにかく状況をみることで精一杯であった。まだまだ認識できていないことも多くあるだろう。




 「アリーシアちゃん、疲れちゃった? 」


 「いいえ、そんなに疲れてないけれど。力が抜けちゃった」


 「気疲れってやつね。仕方ないわよ、私だって初めて来たときはもう緊張しちゃって。アリーシアちゃんはまだ小さいのにおとなしく、しっかり視察できていたじゃない。偉い、偉い! 」


 「何もできなかったけれど、とても勉強になったわ。シスターが話してくれることもわかりやすかったから」


 「そうね、彼女たちもとても大変なお仕事だと思う。これだけじゃ全部のことは聞けてはいないと、いつも反省はするのだけれど。小さな積み重ねが大切だからね」


 「ええ、話を聞いて。少しでもいい方向に向かっていこうっていうのは大切だと思うの」
 

 「そうだね。さあ、少し時間もあるし、レインさんおすすめの揚げパン屋さんへ寄っていきましょう」


 「わあ、楽しみ」


 レインが連れて行ってくれたのは、街の大通りから少し離れたパン屋さんだった。そこは菓子パンなどでも庶民的なパンが多く、働いている人々が仕事途中に抜け出してパンを買いにくることも多いそうだ。レインは馬車から抜け出して、パンをいくつか買ってきてくれた。屋敷から飲み物は持ってきたので、レインおすすめの揚げパンを食べた。


 「さくさくしていて美味しい」


 できたてなのだろう。黒砂糖がまぶされた揚げパンは、サクサクしていて中はもちっとした食感がたまらなかった。中に蜂蜜が塗り込んであって、とても甘いのだが、気疲れした今ならとても美味しく感じる。手には砂糖がついたけれど、ハンカチもあるので気にせずかぶりついた。


 レインも馬車のなかだからと言って、いつもはお行儀を気にするが、二人で美味しくパンを食べた。アリーシアはほかにチョコレートと、クリームが入ったパンを食べた。レインは野菜がはいったサンドイッチのようなものを食べていた。
 つかの間の休憩をして、身支度を整えたのち、今度はパン屋からほど近い孤児院へ向かって馬車は走り出した。



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