オタク気質が災いしてお妃候補になりました
2-13 別れと出会い2
アリーシアは屋敷内で見かけた、ピエールの息子のもとへ歩いて行った。
ピエールの息子は兄より少し年齢が上くらいの青年だ。髪の毛の色は茶色、顔にはそばかすがある。気のいい青年で、優しい。アリーシアはこういう人が好きだ。ジャンのような一緒にいて落ち着く雰囲気がある。
「先日はありがとうございました」
青年はアリーシアが近づいていくのがわかり足を止めた。そして頭を下げていた。
「父からアリーシア様が喜んでくださったと聞いて安心しました」
「ええ、とても素晴らしい絵本だったわ。アポロも……、弟なのだけれど、とってもお気に入りなの」
「アポロ様にも気に入っていただけましたか、よかったです」
「アポロは最近、サンパウロ様!サンパウロ様!とよく言っているの。剣のお稽古も熱心にしているし、いつかサンパウロ様みたいに強くなりたいって言っているのよ」
「アポロ様は侯爵さまの小さい頃に、お姿がそっくりと聞き及んでおります」
「お父様も小さい頃はあんなにやんちゃな子どもだったのかしら。でも、最近アポロはお勉強の時間になると逃げてしまって………絵本はみるのに、字を読むのはいやがってしまって」
「小さい子どもはおとなしく座っているのも飽きてしまいますからね」
「ええ、だから絵本にね。子どもでもわかりやすく、お話を文字で書いてあるとわかりやすいかもって思って」
「そうですか。アリーシア様、こういうのはどうですか? 」
ピエールの息子は、手元のいくつかある書類の袋から紙を何枚か出した。
「これは何? 」
「絵を描いたときの下書きに、文章をつけたものなんです」
アリーシアは驚いた。アリーシアが簡単に描いた構図らしきものに、さらにピエールの息子が具体的にデッサンをほどこした紙だった。その横には簡単でわかりやすい物語が書いてある。それこそ、前世でいう子どもが読む絵本というものに近い。というか絵本そのものだ。物語も子どもに配慮されていて、言葉選びが的確で、シンプルで短い文章だ。
「とてもいいわ。これだったらお勉強が嫌いなアポロでも読めると思う」
「そうですか。実はこれは友人が書いた文章なんです。詩人ではあるのですが………私が作った下絵に簡単にいたずら書きした程度のものです。よい文章だったので、手元に置いておいたのです」
「ええ、これは子どもの勉強に役に立ちそう」
ふふ、っと相手が笑った。
アリーシアは自分がひどくませている発言をしていたのに気がついた。たしかに9歳の子どもが「子どもの勉強にいい」と発言したら、少し変だなと思った。まあ、多少のことは流しておこうと思い見なかったことにした。
「あの、ピエールの息子さん。作っていただけるかしら?お母様に許可をもらうから」
「いえいえ、こちらはあくまで試作ですのでお代はいりません。あとで完成形ができましたら、是非アリーシア様に見ていただきたいです」
「いいの?見るだけだったら、大歓迎だけれど。力になれるかはわからないわ」
「いえ、率直なご意見がいただきたいのです」
「わかりました。出来あがったら、アポロにも読んでもらうわ」
「はい。アリーシア様、お伝えするのを忘れてしまっていたかもしれませんが、私の名前はテト。テトとお呼びください。」
名前を聞いたかもしれなかったが、絵本の制作で頭がいっぱいになってしまい失念していた。そこであえてピエールの息子さんと呼んだのだが、察してくれたようで名前を言ってくれた。
「ありがとう、テト。この前の絵本のことも、今回の新しい絵本についても。とても期待しているし、きっといいものが出来ると思っています。お願いしますね」
「はい、お任せください」
気さくなテトは笑顔を向けてくれ、そのまま帰って詩人の友人と打ち合わせをしてみるということだ。絵本の新しいバージョン。文字通り、『絵本・改』といったところだろうか。兄から渡された剣術の本について、アリーシアは多少読んでみるものの内容がわからないことも多い。だからアポロに直接読んでもらった方がいい点もたくさんある。
しかしアポロは勉強が嫌いだ。じっと座っていると飽きてしまうらしい。そのために、まずアポロに椅子に座りじっとしてもらうことに慣れてもらう必要がありそうだ。一応、家庭教師がいるのでアポロにも勉強の時間がある。ほとんどアポロはじっとしていない。まだ小さいから仕方のないことかもしれない。 ただ一緒に勉強している姉としても、どうにかしたいなと思っていた。
母は困ったように見ていたが、父は自分も小さいころから勉強は嫌いだったからと気にしてはいない。そのうち大きくなったら、大丈夫だろうという雰囲気だ。
しかしアリーシアは違うことを思っていた。
オタク趣味に没頭するには、じっとしていることは基本である。まずは本を読んでもらって、萌えを語ってもらうレベルまで育ってくれないとオタクとは言えない。アリーシアは心の奥深くにしまっている野望を着実に実行することは忘れていなかった。
それから絵本の原稿を何度か見てみたが、絵に合う文章を考えてくれ、アリーシアが満足できる「絵本・改」ができた。出来た原稿を簡単に束ねたものをアポロに読んで聞かせたら、アポロも字を読もうとする様子が見られた。アリーシアの狙いは成功しそうな気配を見せ、そうしているうちにまた時間は過ぎていく。
アリーシア達はまた新しい仲間と、新しい世界をみることになるのである。
ピエールの息子は兄より少し年齢が上くらいの青年だ。髪の毛の色は茶色、顔にはそばかすがある。気のいい青年で、優しい。アリーシアはこういう人が好きだ。ジャンのような一緒にいて落ち着く雰囲気がある。
「先日はありがとうございました」
青年はアリーシアが近づいていくのがわかり足を止めた。そして頭を下げていた。
「父からアリーシア様が喜んでくださったと聞いて安心しました」
「ええ、とても素晴らしい絵本だったわ。アポロも……、弟なのだけれど、とってもお気に入りなの」
「アポロ様にも気に入っていただけましたか、よかったです」
「アポロは最近、サンパウロ様!サンパウロ様!とよく言っているの。剣のお稽古も熱心にしているし、いつかサンパウロ様みたいに強くなりたいって言っているのよ」
「アポロ様は侯爵さまの小さい頃に、お姿がそっくりと聞き及んでおります」
「お父様も小さい頃はあんなにやんちゃな子どもだったのかしら。でも、最近アポロはお勉強の時間になると逃げてしまって………絵本はみるのに、字を読むのはいやがってしまって」
「小さい子どもはおとなしく座っているのも飽きてしまいますからね」
「ええ、だから絵本にね。子どもでもわかりやすく、お話を文字で書いてあるとわかりやすいかもって思って」
「そうですか。アリーシア様、こういうのはどうですか? 」
ピエールの息子は、手元のいくつかある書類の袋から紙を何枚か出した。
「これは何? 」
「絵を描いたときの下書きに、文章をつけたものなんです」
アリーシアは驚いた。アリーシアが簡単に描いた構図らしきものに、さらにピエールの息子が具体的にデッサンをほどこした紙だった。その横には簡単でわかりやすい物語が書いてある。それこそ、前世でいう子どもが読む絵本というものに近い。というか絵本そのものだ。物語も子どもに配慮されていて、言葉選びが的確で、シンプルで短い文章だ。
「とてもいいわ。これだったらお勉強が嫌いなアポロでも読めると思う」
「そうですか。実はこれは友人が書いた文章なんです。詩人ではあるのですが………私が作った下絵に簡単にいたずら書きした程度のものです。よい文章だったので、手元に置いておいたのです」
「ええ、これは子どもの勉強に役に立ちそう」
ふふ、っと相手が笑った。
アリーシアは自分がひどくませている発言をしていたのに気がついた。たしかに9歳の子どもが「子どもの勉強にいい」と発言したら、少し変だなと思った。まあ、多少のことは流しておこうと思い見なかったことにした。
「あの、ピエールの息子さん。作っていただけるかしら?お母様に許可をもらうから」
「いえいえ、こちらはあくまで試作ですのでお代はいりません。あとで完成形ができましたら、是非アリーシア様に見ていただきたいです」
「いいの?見るだけだったら、大歓迎だけれど。力になれるかはわからないわ」
「いえ、率直なご意見がいただきたいのです」
「わかりました。出来あがったら、アポロにも読んでもらうわ」
「はい。アリーシア様、お伝えするのを忘れてしまっていたかもしれませんが、私の名前はテト。テトとお呼びください。」
名前を聞いたかもしれなかったが、絵本の制作で頭がいっぱいになってしまい失念していた。そこであえてピエールの息子さんと呼んだのだが、察してくれたようで名前を言ってくれた。
「ありがとう、テト。この前の絵本のことも、今回の新しい絵本についても。とても期待しているし、きっといいものが出来ると思っています。お願いしますね」
「はい、お任せください」
気さくなテトは笑顔を向けてくれ、そのまま帰って詩人の友人と打ち合わせをしてみるということだ。絵本の新しいバージョン。文字通り、『絵本・改』といったところだろうか。兄から渡された剣術の本について、アリーシアは多少読んでみるものの内容がわからないことも多い。だからアポロに直接読んでもらった方がいい点もたくさんある。
しかしアポロは勉強が嫌いだ。じっと座っていると飽きてしまうらしい。そのために、まずアポロに椅子に座りじっとしてもらうことに慣れてもらう必要がありそうだ。一応、家庭教師がいるのでアポロにも勉強の時間がある。ほとんどアポロはじっとしていない。まだ小さいから仕方のないことかもしれない。 ただ一緒に勉強している姉としても、どうにかしたいなと思っていた。
母は困ったように見ていたが、父は自分も小さいころから勉強は嫌いだったからと気にしてはいない。そのうち大きくなったら、大丈夫だろうという雰囲気だ。
しかしアリーシアは違うことを思っていた。
オタク趣味に没頭するには、じっとしていることは基本である。まずは本を読んでもらって、萌えを語ってもらうレベルまで育ってくれないとオタクとは言えない。アリーシアは心の奥深くにしまっている野望を着実に実行することは忘れていなかった。
それから絵本の原稿を何度か見てみたが、絵に合う文章を考えてくれ、アリーシアが満足できる「絵本・改」ができた。出来た原稿を簡単に束ねたものをアポロに読んで聞かせたら、アポロも字を読もうとする様子が見られた。アリーシアの狙いは成功しそうな気配を見せ、そうしているうちにまた時間は過ぎていく。
アリーシア達はまた新しい仲間と、新しい世界をみることになるのである。
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