オタク気質が災いしてお妃候補になりました
2-4 芸術家
『変わったじいさん』が来た。
弟が生まれて、しばらくたったので、家族の肖像画を画家に依頼した。出来上がりには時間がかかるので、何度も画家は屋敷に来訪することになる。広間の一室を開けて、家族で集まってポーズを簡単にとる。
アポロはといえば、マイペースさは日に日に目立ってきた。先ほどまで元気よく動き回っていたので、今はぐっすり眠っている。一時は夜泣きもひどく、母は寝られない時期もあったようだ。メイドに手を借りながらも寝不足のためか眠そうにしていた。よく眠るようになったアポロは、周りが多少騒がしくとも起きる気配はない。
父が頼んだ画家は古くから懇意にしている工房の長らしい。工房の長は国で権威がある人らしいが、来た画家はそんな気配は微塵も感じられなかった。ぼさぼさの髪で帽子をかぶっている。着ている服もよれよれだった。父はピエールと彼を呼び、仲がよさそうに話していた。ピエールはそんな父に対して面倒くさそうに相づちをしていた。
アリーシアはびっくりした。父は曲がりなりにも侯爵である。そんな父が歓待しても愛想笑いもしない。適当に頷いて挨拶もなしに絵画のデッサンを始めてしまった。
父はそんなピエールに笑いながら、機嫌がよさそうだ。父はピエールが好きらしい。
「ピエール、まだ紹介してなかったが次男のアポロだ。可愛いだろう? 」
「まあ…赤ん坊ですからね、小さいですし」
「ピエール、アポロは将来きっとたくましい男になるだろうと思ってな。今から楽しみなんだ」
「これだけ大きい赤ん坊ですから、大きくなるでしょうね」
会話がかみ合ってるのか、かみ合ってないのかよくわからない。とにかくピエールには愛想がない。父は子ども達の自慢をしているが、ピエールは適当に流している。アリーシアはピエールとどんなように接すればいいか迷った。
ピエールは年齢は祖父母より上だと思う。その証拠に髪の毛は白髪で真っ白だ。顔もぼさぼさの前髪なのでよくわからないが、肌の色は白い。顔には年齢相応のしわが刻まれている。
祖父母だったら失礼がないようにと思い、レディらしい振る舞いをしようと思うのだが、ピエールにはどう接すればいいのだろう。心配になってきて兄を見上げると、兄は特に緊張をしていることもない。ポーズをとったり、途中本を読んで休憩したりとピエールとは特に話すこともしなかった。母も父とピエールが会話しているのを黙って聞いているだけで、特に話さない。アリーシアも黙っていることにした。
「アリーシア、そういえば例の件。ピエールに相談してみなさい」
「例の件? 」
「アポロの本のことだ」
機嫌良く父がピエールと話していたところ、突如思い出したように父がアリーシアを見た。話を振られ、何のことか思案してみたが、前に話していたサンパウロ様の本についてのことのようだ。ピエールに絵本の依頼をするということだろう。しかし、ピエールが作ってくれるのだろうか。
「でも……」
「なんですかな? 」
適当に話を聞いていたピエールが、意外に食いついてきた。
「えっと、アポロの本を作りたいのです」
「ピエールは絵を描く手は止めずに話を聞くといった姿勢で、小さく頷いた。
「アポロはまだ赤ちゃんなので、子どもでも読めるような本がほしいのです。でも私もまだそれほど難しい本が読めないので、絵が描かれた本がほしいのです。私はサンパウロ様が大好きだから、サンパウロ様の冒険のお話をアポロにしてあげたいのです」
「ほう、絵が描かれた本。子どもが読める本ですか? 」
「一枚、一枚手書きになってしまうと、とても時間がかかると聞きました。だからこういう絵がほしいと私が簡単に描いて、それを絵にしてほしいのです」
「手書きになると確かに時間がかかるでしょうな。出来なくはないでしょう。子どもにも理解させる絵というのには興味がわきますな」
ふむふむと考えながら、筆をさっと進めると黙々と作業に没頭してしまった。正式な返答はもらえなかった。そのときで話は終わってしまって、ピエールはそのまま何も言わなかった。
もうこの話はなかったことになるのかと思ったところ、後日工房の小間使いからピエールの言付けをもらうことになる。サンパウロ様のお話のどんなところを描いてほしいのか、簡単に絵を描いてほしいということだった。
ピエールは覚えていたようだ。それからアリーシアは暇な時間を見つけては、サンパウロ様の伝記を思い返して、どうすれば簡単に赤ちゃんのアポロにサンパウロ様のよさを伝わるかを考えた。
まずはサンパウロ様と王の登場シーン。
そして決起して、旅を始めるシーン。
大地を見つけるシーン。
仲間を集うシーン。
仲間と一緒に領民を率いるシーン。
最後には土地にたどり着き、王国を建国するシーン。
王様とサンパウロ様みんなで幸せに暮らしたという終わり。
いくつか具体的に考えた。アリーシアの妄想ではほかにいくつか勝手にエピソードは作ったものの、それは正規のお話ではないので加えなかった。兄から聞いた話を整理してまとめてみた。
簡単にシーン分けしてみたが、実物があるわけでもないので、どう表現したらいいのか迷う点もある。アリーシアは家を散策して、もう一度サンパウロ様の姿などが残っているものを観察してみた。
やはりサンパウロ様のイメージは大きくて、強いイメージだ。英雄らしい姿なのだろうと思った。
王は代々赤髪が多いということなので、王は赤髪という設定がいいだろう。
例えば、アリーシアをモチーフにサンパウロ様風を装うなら金髪になるのだろうか。サンパウロ様の肖像画らしきものは様々な形態なので、あくまで想像に過ぎないが。父は栗色の髪なので、もしかしたら髪の毛は栗色なのかもしれない。そういう細かいことを見直すと、新しい発見もたくさんあった。
弟が生まれて、しばらくたったので、家族の肖像画を画家に依頼した。出来上がりには時間がかかるので、何度も画家は屋敷に来訪することになる。広間の一室を開けて、家族で集まってポーズを簡単にとる。
アポロはといえば、マイペースさは日に日に目立ってきた。先ほどまで元気よく動き回っていたので、今はぐっすり眠っている。一時は夜泣きもひどく、母は寝られない時期もあったようだ。メイドに手を借りながらも寝不足のためか眠そうにしていた。よく眠るようになったアポロは、周りが多少騒がしくとも起きる気配はない。
父が頼んだ画家は古くから懇意にしている工房の長らしい。工房の長は国で権威がある人らしいが、来た画家はそんな気配は微塵も感じられなかった。ぼさぼさの髪で帽子をかぶっている。着ている服もよれよれだった。父はピエールと彼を呼び、仲がよさそうに話していた。ピエールはそんな父に対して面倒くさそうに相づちをしていた。
アリーシアはびっくりした。父は曲がりなりにも侯爵である。そんな父が歓待しても愛想笑いもしない。適当に頷いて挨拶もなしに絵画のデッサンを始めてしまった。
父はそんなピエールに笑いながら、機嫌がよさそうだ。父はピエールが好きらしい。
「ピエール、まだ紹介してなかったが次男のアポロだ。可愛いだろう? 」
「まあ…赤ん坊ですからね、小さいですし」
「ピエール、アポロは将来きっとたくましい男になるだろうと思ってな。今から楽しみなんだ」
「これだけ大きい赤ん坊ですから、大きくなるでしょうね」
会話がかみ合ってるのか、かみ合ってないのかよくわからない。とにかくピエールには愛想がない。父は子ども達の自慢をしているが、ピエールは適当に流している。アリーシアはピエールとどんなように接すればいいか迷った。
ピエールは年齢は祖父母より上だと思う。その証拠に髪の毛は白髪で真っ白だ。顔もぼさぼさの前髪なのでよくわからないが、肌の色は白い。顔には年齢相応のしわが刻まれている。
祖父母だったら失礼がないようにと思い、レディらしい振る舞いをしようと思うのだが、ピエールにはどう接すればいいのだろう。心配になってきて兄を見上げると、兄は特に緊張をしていることもない。ポーズをとったり、途中本を読んで休憩したりとピエールとは特に話すこともしなかった。母も父とピエールが会話しているのを黙って聞いているだけで、特に話さない。アリーシアも黙っていることにした。
「アリーシア、そういえば例の件。ピエールに相談してみなさい」
「例の件? 」
「アポロの本のことだ」
機嫌良く父がピエールと話していたところ、突如思い出したように父がアリーシアを見た。話を振られ、何のことか思案してみたが、前に話していたサンパウロ様の本についてのことのようだ。ピエールに絵本の依頼をするということだろう。しかし、ピエールが作ってくれるのだろうか。
「でも……」
「なんですかな? 」
適当に話を聞いていたピエールが、意外に食いついてきた。
「えっと、アポロの本を作りたいのです」
「ピエールは絵を描く手は止めずに話を聞くといった姿勢で、小さく頷いた。
「アポロはまだ赤ちゃんなので、子どもでも読めるような本がほしいのです。でも私もまだそれほど難しい本が読めないので、絵が描かれた本がほしいのです。私はサンパウロ様が大好きだから、サンパウロ様の冒険のお話をアポロにしてあげたいのです」
「ほう、絵が描かれた本。子どもが読める本ですか? 」
「一枚、一枚手書きになってしまうと、とても時間がかかると聞きました。だからこういう絵がほしいと私が簡単に描いて、それを絵にしてほしいのです」
「手書きになると確かに時間がかかるでしょうな。出来なくはないでしょう。子どもにも理解させる絵というのには興味がわきますな」
ふむふむと考えながら、筆をさっと進めると黙々と作業に没頭してしまった。正式な返答はもらえなかった。そのときで話は終わってしまって、ピエールはそのまま何も言わなかった。
もうこの話はなかったことになるのかと思ったところ、後日工房の小間使いからピエールの言付けをもらうことになる。サンパウロ様のお話のどんなところを描いてほしいのか、簡単に絵を描いてほしいということだった。
ピエールは覚えていたようだ。それからアリーシアは暇な時間を見つけては、サンパウロ様の伝記を思い返して、どうすれば簡単に赤ちゃんのアポロにサンパウロ様のよさを伝わるかを考えた。
まずはサンパウロ様と王の登場シーン。
そして決起して、旅を始めるシーン。
大地を見つけるシーン。
仲間を集うシーン。
仲間と一緒に領民を率いるシーン。
最後には土地にたどり着き、王国を建国するシーン。
王様とサンパウロ様みんなで幸せに暮らしたという終わり。
いくつか具体的に考えた。アリーシアの妄想ではほかにいくつか勝手にエピソードは作ったものの、それは正規のお話ではないので加えなかった。兄から聞いた話を整理してまとめてみた。
簡単にシーン分けしてみたが、実物があるわけでもないので、どう表現したらいいのか迷う点もある。アリーシアは家を散策して、もう一度サンパウロ様の姿などが残っているものを観察してみた。
やはりサンパウロ様のイメージは大きくて、強いイメージだ。英雄らしい姿なのだろうと思った。
王は代々赤髪が多いということなので、王は赤髪という設定がいいだろう。
例えば、アリーシアをモチーフにサンパウロ様風を装うなら金髪になるのだろうか。サンパウロ様の肖像画らしきものは様々な形態なので、あくまで想像に過ぎないが。父は栗色の髪なので、もしかしたら髪の毛は栗色なのかもしれない。そういう細かいことを見直すと、新しい発見もたくさんあった。
コメント