オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

2-2 新しい風景

 弟は少ししてから名前が決まった。アポロと言う。少しサンパウロ様の音の響きに似ている感じもする。我が家はアラン、アリーシア、アポロと最初にアの発音であるのが共通している。母はリリア、父の名前には触れていたかったが父の名はサンという。サンパウロのサンなのか、単に三男坊のサンの音なのかわからない。父は子どもの名前はこだわりがあるのかというと、あまりないようだ。


 兄は祖父がつけてくれた名で、アリーシアは母がつけてくれた名前だ。アポロは上二人がアで始まる音だから一緒がいいだろうと、父が考えた。父が本を持って考えていたとき、たまたまそばでアリーシアがサンパウロの話を兄にせがんでいたので、なんとなく浮かんだという。
 祖父は古い伝記から兄の名前をとり、母は昔読んだ本の主人公の名前をアリーシアにつけた。アポロは父はその場の思いつき。名前なんてそんなもんだろうなと父は呑気にしていた。母も特に異論はなかったようだ。母は出産後の経過もよく 最初の数日は横になっているだけで、少ししてから動きだした。まだ全快で動くわけではないが、アポロの世話や家の仕事もし始めた。


 そのほかに屋敷内で変わったことがいくつかあった。まずは使っていなかった部屋を一つ開けて、子どもらしい部屋に改修し始めた。しばらくは母親に近くの部屋で、アポロは過ごすであろうが、ある程度大きくなったらその部屋に移るだろう。
 男の子だったので部屋の雰囲気は華美にはしないものの、子どもが遊んでもケガをしないようにと段差をなくすようにするらしい。次男だったのでそれほど大きなお祝いはしないが、侯爵家で子どもがうまれたとなっては各方面からお祝いの品が届いた。王家から、親戚から、そしてアリーシアは顔は知らないがほかの4貴族からも贈り物があったという。


 4貴族とはアリーシアの先祖サンパウロが、この国を建国した時に募った4人の仲間からが始祖となる貴族だ。
 名前は通り名で、北の貴族。南の貴族。西の貴族。東の貴族に分かれる。名前の方角に貴族達の土地があるからだ。


 北の貴族は肌が比較的白く、色素が薄い民族が多い。
 南の貴族は肌が比較的黒く、色素が濃い民族が多い。
 西の貴族は肌は色々であり、色素も様々だ。
 東の貴族は肌が黄色であり、色素は黒が基調だ。


 アリーシアがいる中央都市部は様々な人がいて、それほど傾向というものはない。ただ貴族になると色が派手な人が多い気がする。これは現実世界とは違う。桃色の髪があったり紫の髪があったりと色味は様々だ。まだアリーシアは外に出かけていないのでわからないが、これらは兄が教えてくれたこと。兄もまだ文献でしか見聞きしていないものもあり、もっと勉強してからアリーシアに教えてくれると言ってくれた。


 4貴族の祝いの品も様々でアリーシアはその品を見るとわくわくしたものだ。


 北の貴族からは、ガラスで出来た繊細な置物。
 南の貴族からは、大きな金でできた剣。
 西の貴族からは、細やかな工芸の織物。
 東の貴族からは、不思議な形の楽器。


 それぞれの土地では一級品と呼ばれるものを贈ってくれた。どれも外には出してはおけないので、宝物庫に入ることになる。


 父はお返しに近郊の領地でとれる宝石を贈った。当家は領地がそれほど大きくなくとも、資源は豊富であるようだ。ただ父が商売が得意なわけではないので、あくまで治めている程度である。母が基本的に事務作業をして、大きな取り決めや最終決断は父が行っているようだ。兄は将来に備えて管理がもっとうまくできるよう、商業や経営の勉強をすることをアリーシアに語ってくれる。
 だが兄は早く勉学に集中したいと思っても、まだアリーシアのことが心配であるようだ。だからアポロが大きくなってから寄宿舎へは行くようで、兄は毎日時間があると書斎にいて勉強をしている。


 そしてうまれた弟、アポロはビッグベイビー。父に似て、恵まれた体格を生かして生きられるだろう。


 ではアリーシアは何が出来るのかふと考えた。
 貴族だとお嫁さんになるというのが、最もありそうな選択肢だ。だが特に父は婚姻関係の話をしないので、自由でいいのかもしれない。父があくまで子どもたちの意思を尊重しているのだ。


 夢がない子どもだなとアリーシアは思ったのだが、結婚には特に夢がないので、強制的に結婚しなくていいのならしなくていいかもと思った。だったらあえてするならオタク活動をと思うのだが、やはり娯楽が少なすぎる世界だ。


 せっかくだから世界を見て回るのも楽しそうだと、贈り物をみて考えた。サンパウロ様が生きた世界、それを知る旅も面白そうだ。自分が前世生きた世界とは違う世界に、興味がそそられた。大人になって早くいろんなものを見てみたいとは思うようになった。







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