オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

1-13 パーティーのあとで

 目を覚ますと、ベッドに寝かされていた。窓の外を見たら、夕方になったいた。ガーデンパーティーは昼過ぎには終わるので、もうパーティーが終わってしばらく経っただろう。そのあとベッドから出て、部屋を出た。広間でお父様と顔を合わせたが、特に何も言われなかった。いつもの優しい笑顔で抱きしめてくれた。


 この家族は毎日ハグで始まり、ハグで終わる。最初は恥ずかしかったけれど、それに慣れてしまうと当たり前になってしまった。家族の仲はとてもよく、笑いの絶えない家族だ。記憶が覚醒したときは、本当に家族と思えるのかと不安になったが、それも杞憂だった。
 優しくて強い父、優しくて時には厳しい母、優しくて賢い兄。いい人達に巡り会えたと思った。これからうまれる兄弟もきっと幸せだと思う。だって優しい人に囲まれて生きるのだから、きっとそれだけで優しい人になれると思う。だからアリーシアも、家族として恥じない優しい人間になろうと思った。


 父のように強くもないし、母のようにしっかりもしていない。兄のように賢くもない。だから私は私なりの方法でみんなに役に立ちたいと思った。それがどんなことがはわからないけれど、それはゆっくり見つけていけたらいいなと思った。


 そうして数日経ったある日、エントランスには大きな箱の山ができた。何だろうと思った。
 執事が難しい顔をして、父になにやら相談しているのが見えた。父も難しい顔をしている。兄も出てきて、執事と父の話に加わったが、さらに難しい顔をしているのがわかった。
 メイドの話が聞こえてきた。どうやら王宮からの贈り物らしい。送り主はあの赤髪の王子だという。


 父が悩んでいるのは、その送り主が勝手に贈ってきたことだ。父は実はアリーシアがエドワードを殴ったことを知っていた。しかしエドワードも公にしたわけではなかった。だからお互いこのことは公にしないでおこうとエドワードの父・エンドリクと話したらしい。


 でもエドワードはなかったことにするといった事を無視して、贈り物を贈ってきたのだ。エドワードの父エンドリクは、レディのドレスを破るなんて愚かなことと息子を叱ったという。エドワードは何も言わなかったらしい。何も言わないエドワードの状況をみて、ジャンが状況を説明したのだ。その場にアリーシアの髪飾りが落ちていたのだから。
 アリーシアとエドワードに何かあったのは確かだ。ジャンは鼻血を出していた主の様子をみて、主を傷つけたのはアリーシアだと証言した。ジャンはせめてもの擁護のつもりだ。そして、主人をけがさせたのはアリーシアと判明した。
 ジャンももまさかか弱い年下の女の子に殴られ、鼻血を出す主人なんてことは公にしたくないのはわかった。だから内密にエンドリクに報告したのだ。それを知ったアリーシアの父もすぐに対応した。


 アリーシアの父はひどくエドワードを怒った。エンドリクが一時はなだめることになったという。
 父は力があるものが、力の弱いものに手を出すのをひどく嫌う。状況からしてアリーシアの大切なドレスを破り、激怒させたことはわかった。アリーシアの行動は確かに問題があったかもしれないが、父は娘の行動をそこまで怒る気になれなかった。というより、あの生意気なエドワードに一矢報いるなんて根性のある娘だと笑っていたくらいだという。
 父は強い女が好きだ。母は剣を使うような戦いはしない。しかしとても精神的にタフな女性だ。だから父は母が好きでたまらないらしい。


 エントランスのプレゼントを執事が確認すると、どうやら中身は高級なドレスらしい。お詫びのつもりなのだろうか。アリーシアのドレスをぼろいと言っていたから、きっと最新の流行のドレスを贈ればいいと思ったのかもしれない。そんなことではないのに、と怒りがまたこみ上げてくる。


 あのドレスはマリアンナの大切な思い出だ。ぼろいと決めつけた発言も許せなかった。ドレスの本当の価値をわからないエドワードにも幻滅した。ドレスを作り直すときに仕立屋は、このドレスはとても価値があると言っていた。もう生地を作り出せる職人も少なくなってきて、ドレスの保存状態はよく、有名な人の作品であるらしかった。それに加えて国王経由でプレゼントされた刻印がある衣装箱も保存状態がよく、財産的にとても価値があると褒めていた。だからこそ大切に着ることこそが意味があると言われた。


 最新のドレスは女の子の憧れだろう。でもそんなものは買えばいいのだ。人の思い出や気持ちはそんなことでは買えない。


 父は公式な贈り物ではないからと、プレゼントをすべて返すことにした。アリーシアはエドワードのことが苦手な人から嫌いな人にかわった。


 それから何度か贈り物が贈られてきたらしいが、すべて断った。父が公爵エンドリク様に直接断りをいれた。エンドリク様もドレスの経緯やドレスにまつわる事を聞いて、さらに事態が悪化していると察した。エドワードはさらに怒りを買う行為をしたことを、とがめられたようだ。相手を怒らせるつもりはなかったようで、エドワードもショックだったようではある。最近は真面目に勉強をするようになって、おとなしくなったとエンドリク様は父に笑って言ったらしい。


 エドワードの跳ねっ返り具合は、もともとエンドリクも注意しないとと考えていたが、ちょうどよかった。いいお灸をすえられただろうと言っていた。エンドリク様は次期国王であるもあって器が大きい。そんなエンドリク様だからこそ、アリーシアの父は仕えようと思うのだろう。


 表向きは緩やかに時間が過ぎていき、アリーシアももうそのことは思い出さないようにした。
 季節はかわっていき、母のお腹も大きくなる。アリーシアも色合いが変化する中庭を見ながら、家族が増えるのを楽しみにしていた。







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