オタク気質が災いしてお妃候補になりました
1-6 出会い
英雄サンパウロ様萌えによって、暇な時間も充実した日々が送れている。オタクの強みは妄想だとしみじみ感じた。
屋敷内を歩いたり、庭を歩いているときも、なんとなく嬉しそうに笑っている(ニヤニヤしている)お姫様をみて屋敷の中の人々は「元気になられたのだろう」と安心したようだ。
母も容態が安定し、部屋で安静にしてはいるが、顔色も随分よくなった。アリーシアは侯爵令嬢としての記憶はあるが、貴族の娘として恥ずかしくない振る舞いはどこを気を付けるべきなのか?と心配な点もあった。
貴族的な振る舞いといえば、豪華な暮らしぶりを思い描く。しかしこの屋敷は立派な作りに対して、生活は質素であった。召使いをたくさん雇っているのを見れば、お金が全くないということではなく、屋敷の主の方針であるようだ。特に父はもともと他国での戦経験が長く、家は住めればいいというのもあるのだという。
母も生まれは貴族であったものの、兄弟が多く実家は貧乏だった。だから質素な暮らしには慣れているのだと思う。特に食事に関しても、最低限のテーブルマナーはあったものの具材は野菜中心の家庭料理に近いものが出されていた。ただ兄は同じものを食べているのに、そのエレガントなオーラを見ると、まるで高級料理を食べているようではあったが。
屋敷で働いている人を見れば、お給金はしっかり払われているようだし、とても真面目であり、かつ仕事も丁寧であった。屋敷の主に特段媚びることもなかったし、それでいて居心地がいい空間を作ってくれている。
アリーシアは居心地がよい屋敷の中で、お気に入りの場所ができた。中庭の庭園である。
暮らしぶりは質素であっても、客人を目で見てもてなす意味がある中庭の整備はとても丹念にされている。季節折々の花はもちろん、庭の中央に位置する噴水は一帯バラで覆われた庭園だった。庭園にあるバラは庭師が丹精込めて育てているようで、いつでもきれいな花が咲き乱れている。
英雄サンパウロを意識した石像もいくつかそこにはあった。サンパウロの賢き妻の像もそこにはあり、英雄伝説では登場しないサンパウロの家族の石像もあった。
我が屋敷の庭園は、国内でも有名らしく、特に遠方からくる来客においては庭園を見にわざわざ来訪する場合もあると聞いた。サンパウロの名残を感じられ、目で見ても楽しめる中庭は、アリーシアのお気に入りだ。
今日も暖かいコートを着て、庭の花々を見ながら英雄サンパウロについての妄想をしていた。
ただ今日は見慣れぬ顔があった。お気に入りのサンパウロ像の前に行くと、今日は赤髪の少年がいたのだ。記憶をたどってみるものの、過去に見たことがない男の子であり、アリーシアと同じくらいか、もしくは少し年長なのだろうか。背は少年の方が大きいようだ。
もう一度顔を見て考えてみるが、赤髪の少年は誰だかわからない。話しかけるのもためらわれて、相手と視線が合わないことをいいことに、今日は仕方なく別のところへ散歩へ行こうと思った。
「おい」
声が聞こえた気がするが、気のせいかもしれない。
「そこにいるやつ、俺がみえないのか? 」
わざと近くに誰かいるのだろうかと辺りを見回す。少し面倒くさくなってきた。だが、仕方がない。くるりを声の方をする方へ振り向くと、視線が少年とかち合った。
初めて顔を正面でじっくりあわすと、かなりの美形であることがわかった。父のような無骨さでもなく、兄のような柔らかい光でもない。
太陽のように強い光をまとった少年だった。位の高い人だと気配から感じられる。まだアリーシアは年齢がまだ幼く、公式な場所へ赴いたことがない。だが相手に存在を気が付かれてしまった以上、最低限の挨拶はしておるのがマナーだと思った。相手の失礼な態度は飲み込み、そっとスカートの端を持った。
軽く膝をおり、会釈をした。
「こんにちは。通りすがりに失礼しました」
誰だかわからない相手に名前を名乗ることもできない。一応屋敷の警備はあるのだから、誰かの客人なのかもしれない。しかし正式に言付かった来訪ではないし、どういう関係なのかもわからない。とにかく退散するのが最良だと考えた。
何か言いたそうな相手の言葉を遮り、さっさと近道を通ってその場から去ることにした。
なんとなく苦手なタイプだった。威圧的だったし,自信満々なタイプに見えた。何より自分が偉くてかっこいいというのがにじみ出ていた。もしかしたら、親戚の人かもしれない。本家はアリーシアの家だが、親戚には王族と過去に婚姻関係をもった者もいる。血筋でいくと王家と婚姻関係がある者こそが、尊き者という意識の親戚もいるようだ。そういう無自覚に偉いという態度はなんとなく違和感がある。
あまり関わりをもちたくないな…と思って屋敷の中へ入ろうと向かっていると、目の前に急に人が現れた。またさっきの人かと一瞬身構えたのだが、映った姿に目を奪われた。
茶色の髪、そして瞳も茶色。その色のように柔らかな色合いにふさわしく、優しい瞳に素朴な印象。
少し頼りない感じでありながら、爽やかな印象の彼。
かつて恋していた人も、まさにこういう雰囲気だった。地味だけれど優しく、そして一緒にいるだけで癒やされる。
6歳にして、兄弟が生まれる。
そして出会ってしまう。
これは何かの因果なのかもしれない。
また長い片思いをすることになるのだろうか。
その男の子がアリーシアに気がつく前に、アリーシアは全速力で逃げ出した。怖くて懐かしくて。ほのかな甘酸っぱい気持ちを抱えながら。
屋敷内を歩いたり、庭を歩いているときも、なんとなく嬉しそうに笑っている(ニヤニヤしている)お姫様をみて屋敷の中の人々は「元気になられたのだろう」と安心したようだ。
母も容態が安定し、部屋で安静にしてはいるが、顔色も随分よくなった。アリーシアは侯爵令嬢としての記憶はあるが、貴族の娘として恥ずかしくない振る舞いはどこを気を付けるべきなのか?と心配な点もあった。
貴族的な振る舞いといえば、豪華な暮らしぶりを思い描く。しかしこの屋敷は立派な作りに対して、生活は質素であった。召使いをたくさん雇っているのを見れば、お金が全くないということではなく、屋敷の主の方針であるようだ。特に父はもともと他国での戦経験が長く、家は住めればいいというのもあるのだという。
母も生まれは貴族であったものの、兄弟が多く実家は貧乏だった。だから質素な暮らしには慣れているのだと思う。特に食事に関しても、最低限のテーブルマナーはあったものの具材は野菜中心の家庭料理に近いものが出されていた。ただ兄は同じものを食べているのに、そのエレガントなオーラを見ると、まるで高級料理を食べているようではあったが。
屋敷で働いている人を見れば、お給金はしっかり払われているようだし、とても真面目であり、かつ仕事も丁寧であった。屋敷の主に特段媚びることもなかったし、それでいて居心地がいい空間を作ってくれている。
アリーシアは居心地がよい屋敷の中で、お気に入りの場所ができた。中庭の庭園である。
暮らしぶりは質素であっても、客人を目で見てもてなす意味がある中庭の整備はとても丹念にされている。季節折々の花はもちろん、庭の中央に位置する噴水は一帯バラで覆われた庭園だった。庭園にあるバラは庭師が丹精込めて育てているようで、いつでもきれいな花が咲き乱れている。
英雄サンパウロを意識した石像もいくつかそこにはあった。サンパウロの賢き妻の像もそこにはあり、英雄伝説では登場しないサンパウロの家族の石像もあった。
我が屋敷の庭園は、国内でも有名らしく、特に遠方からくる来客においては庭園を見にわざわざ来訪する場合もあると聞いた。サンパウロの名残を感じられ、目で見ても楽しめる中庭は、アリーシアのお気に入りだ。
今日も暖かいコートを着て、庭の花々を見ながら英雄サンパウロについての妄想をしていた。
ただ今日は見慣れぬ顔があった。お気に入りのサンパウロ像の前に行くと、今日は赤髪の少年がいたのだ。記憶をたどってみるものの、過去に見たことがない男の子であり、アリーシアと同じくらいか、もしくは少し年長なのだろうか。背は少年の方が大きいようだ。
もう一度顔を見て考えてみるが、赤髪の少年は誰だかわからない。話しかけるのもためらわれて、相手と視線が合わないことをいいことに、今日は仕方なく別のところへ散歩へ行こうと思った。
「おい」
声が聞こえた気がするが、気のせいかもしれない。
「そこにいるやつ、俺がみえないのか? 」
わざと近くに誰かいるのだろうかと辺りを見回す。少し面倒くさくなってきた。だが、仕方がない。くるりを声の方をする方へ振り向くと、視線が少年とかち合った。
初めて顔を正面でじっくりあわすと、かなりの美形であることがわかった。父のような無骨さでもなく、兄のような柔らかい光でもない。
太陽のように強い光をまとった少年だった。位の高い人だと気配から感じられる。まだアリーシアは年齢がまだ幼く、公式な場所へ赴いたことがない。だが相手に存在を気が付かれてしまった以上、最低限の挨拶はしておるのがマナーだと思った。相手の失礼な態度は飲み込み、そっとスカートの端を持った。
軽く膝をおり、会釈をした。
「こんにちは。通りすがりに失礼しました」
誰だかわからない相手に名前を名乗ることもできない。一応屋敷の警備はあるのだから、誰かの客人なのかもしれない。しかし正式に言付かった来訪ではないし、どういう関係なのかもわからない。とにかく退散するのが最良だと考えた。
何か言いたそうな相手の言葉を遮り、さっさと近道を通ってその場から去ることにした。
なんとなく苦手なタイプだった。威圧的だったし,自信満々なタイプに見えた。何より自分が偉くてかっこいいというのがにじみ出ていた。もしかしたら、親戚の人かもしれない。本家はアリーシアの家だが、親戚には王族と過去に婚姻関係をもった者もいる。血筋でいくと王家と婚姻関係がある者こそが、尊き者という意識の親戚もいるようだ。そういう無自覚に偉いという態度はなんとなく違和感がある。
あまり関わりをもちたくないな…と思って屋敷の中へ入ろうと向かっていると、目の前に急に人が現れた。またさっきの人かと一瞬身構えたのだが、映った姿に目を奪われた。
茶色の髪、そして瞳も茶色。その色のように柔らかな色合いにふさわしく、優しい瞳に素朴な印象。
少し頼りない感じでありながら、爽やかな印象の彼。
かつて恋していた人も、まさにこういう雰囲気だった。地味だけれど優しく、そして一緒にいるだけで癒やされる。
6歳にして、兄弟が生まれる。
そして出会ってしまう。
これは何かの因果なのかもしれない。
また長い片思いをすることになるのだろうか。
その男の子がアリーシアに気がつく前に、アリーシアは全速力で逃げ出した。怖くて懐かしくて。ほのかな甘酸っぱい気持ちを抱えながら。
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