政略結婚で仮面夫婦の予定だったが、破滅フラグを回避するため鬼嫁になります
第二十二話 敵 Sideアルフレッド
Side アルフレッド
アルフレッドは、祭りのパフォーマンスについて、色々と計画をたてていた。アルフレッドがローズにふさわしい人間であるか、それをはかるためにパフォーマンスで競い合おうとロバートに言われた。
しかし、ルボワからそのパフォーマンスの主旨を聞けば、領民が楽しむための娯楽要素が強いものであるようだ。アルフレッドからすれば、誰かを傷つけたりするより、みんなに楽しんでもらえる方がいいと思っている。人前に出ることが得意ではないので、緊張はするが、対人においての実戦経験がないアルフレッドにすれば、まだ対策が立てやすかった。
パフォーマンスといえば、もちろん見ている人に楽しんでもらうということ。アルフレッドは自分だったらどんなものが楽しいか考えた。
アルフレッドがみた演目で、やはり印象深いのは両親に連れられてみたスター・アンジェラの公演だ。彼女のステージは、とても素晴らしかった。彼女が所属している劇団は、父が舞台装置の手伝いをしたこともある関係で、どの劇団の装置よりも数段すぐれたものだった。
アルフレッドは父の設計したもののなかで、キラキラと光を発してステージを星の渦のように輝かせる装置がとても好きだった。満点の星空の中に、スターが浮かびあがるようにして舞う姿は、同じ人とは思えない幻想的な姿だ。夢と希望がつまった光景だ。
光と音があるパフォーマンスはきっと見ている側にとっても、とても楽しいものになるだろうと思った。アルフレッドは収穫祭の夜に打ち上げられた、閃光の装置も取り入れようかと色々と思案した。
アルフレッドが装置の設計図を書き始めると、不意に背中に気配を感じた。ここは自室である。ルボワがこの辺りの結界を管理しているので、侵入者はたやすく入れないはずだ。アルフレッドは顔を気配のするほうへ向けた。そこへ立っていたのは、ロバートである。
だが、ロバートの様子がおかしい。視点が定まっていない。まるで誰かに操られたような、そんなうつろな目をしている。ロバートがアルフレッドをみる。その顔つきは、まるでアルフレッドを罵倒した叔父に似ている。
 「君のせいで、誰かが不幸になると考えたことがある? 」
 「ロバートさん? 」
 やはり様子がおかしい。息が荒い。
 「君がいるからいけないんだよ。だから僕は、契約をしてしまった。君の大切なものは全部なくなる」
 「意味がわからないよ」
 「そうやって、被害者面するのはいつもだよな。子どもだからって許されると思うな」
 「ルボワ! 」
 
ロバートが苦しそうに顔をゆがめた。誰かに操作されているのかもしれない。
魔力についてのことは、ルボワの方が詳しい。とっさにアルフレッドはルボワを呼んだ。気配を察したように、ルボワが入ってきた。
 「アルフレッド様、大丈夫ですか? 」
 
 「ロバートさんが苦しんでいる。様子をみてあげて」
ロバートは床にうずくまっていた。ルボワは彼に近づくと魔力を検知した。その結果、精神に干渉した魔術によって、意識を支配した痕跡があると言った。
 
「ロバートさんを操っていたのは誰かわかる? 」
「実は、彼を操作している痕跡がいくつかあるのです。一人だけではありません」
「叔父が何かするのかもしれない。やっぱり僕に恨みがあるのかも」
「アルフレッド様に危害を加える者は排除します」
「僕はローズを守らないといけない」
「アルフレッド様は、ローズ様をどうか一番にお考え下さい。少し心配です。祭りの件、何か騒動が起きないといいですが」
「大雨が降った後の祭りだ。だからみんなの疲れをねぎらうには、祭りを楽しくすることだと思う。できる限り祭りは続行しよう。パフォーマンスもやろう。だけれど、ルボワはもし万が一のことを考えて、警備を強化しておいて」
「かしこまりました」
ルボワはロバートを背負って退出していった。
アルフレッドはルボワの言葉を思い返した。ロバートを操作した形跡があるのが複数人であること。相手の数が見えない。アルフレッドはローズの体調も心配であった。彼女は隠しているが、やはり左目を押さえていることが多い。何か予兆を感じているだろうか。
彼女の左目、紅い瞳。このいくつかの騒動が、ドラゴンに関してではなければいいが、とアルフレッドは不意に浮かんだ考えを笑った。
ドラゴンは数年前に倒されたばかりである。だから次くるとしても、もっともっと先のこと。こんなに頻繁に現れることなど、聞いたことがない。
だが、さきほどの言葉も気になる。
アルフレッドが大切にしているものが、全部なくなるとはどんな意味だろうか。
アルフレッドにとって大切なもの。妻のローズ、そして執事のルボワ、メイドのハンナ。屋敷に勤めているもの。領民。そして両親が残してくれた、たくさんの知識。
アルフレッドはこれらを守るために、もっと自分が強くならなくてはと気を引き締めた。いつのまにか、人を守りたいと思える自分に驚いてしまう。
今はまだ先のことはわからない。無用な心配をみんなにかけてはいけない。
アルフレッドはパフォーマンスの計画を再開し、設計図を書き始めた。
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