乙女ゲーム迷宮~隠れゲーマーの優等生は、ゲーム脳を駆使して転移を繰り返す先輩を攻略する!~

森の木

第24話 ハート編 女子高生、日常に戻る



「うるさい…………」


 スマートフォンのバイブレーションの音が耳に残る。枕もとにスマートフォンが置いてある。ピンクのケースでタヌキのマークがついている。ヒカリはいつも使っているスマートフォンだと認識した。だが、いつもサイレントモードであるのに、今日はバイブレーション機能が作動していた。珍しいこともあるものだとヒカリは、スマートフォンの設定を切り替えた。


 いつもの通りの自室。姉たちが実家に居た頃は、二番目の姉と部屋が共有だった。長女が外で住まいをもつようになると、長女の部屋にヒカリは部屋を移した。それから次女も仕事の関係で家を出てしまった。
 自宅は戸建ての二階。二階には、二つの子ども部屋、両親の寝室がある。都心から少し離れた住宅地。少し歩けば、商店街があり、懐かしい風景が広がる。
 ヒカリは学校へ行く準備を始めた。顔を洗って、髪の毛をブラッシングする。鏡を見るとミディアムヘアで、少し茶色がかった髪の女の子がいる。


 わたしはアラキヒカリ。


「あれ、何か思い出せない気がするけれど。気のせいかな…………」


 昨日は、学校から早々に帰宅して、制服から部屋着に着替えれば、いつものコースだ。やりかけのRPGゲームを立ち上げる。そう、姉に言われて買ったRPGゲームだ。グラフィックが素晴らしいことは、ゲーム雑誌にも掲載されていた。ゲーム機能に、ゲーム画面をとる機能がある。気に入ったシーンは、姉に送った。
 そして夜もふけたころ、仕方なくお風呂にベッドに入った。そして朝だ。特に変わったことなどなかったはず。


「スマホと、定期と。あとお財布、今日は英語が当てられるからノートもある…………」


 予習は休み時間に終わらせてしまう。家では極力勉強はしたくない。空き時間に予習復習をしなければ、家でゲームができない。かつ、ゲームを優先しすぎると、成績がおちたときに親から言われるに違いない。


「でも、今日はこの時間でよかった…………よね? 」


 時間は朝の7時半。このまま学校へ行けば、8時半ぎりぎりに到着する。前は、朝早くに学校へ行って予習していた。だが、それはなぜだったのだろう。思い出せない。
 朝ご飯を食べて、いつもの通学路を歩く。変わらない景色、見知った近所の人。駅について同じ学校の制服の人、近くの学校の生徒。電車は混んでいる。窓際に寄って、外の風景を見つめる。もっと朝日はまぶしかった気がする。


「おはよう」


 始業まであと少し。特に慌てることもなく、駅から学校までの道のりを歩く。見知った顔のクラスメイトに挨拶をして、そのまま教室へ入っていく。朝礼が始まり、授業になった。


 これが日常。
 休み時間は、今日は友達と話そう。そして好きなアイドルの話をしたり、かっこいい人の話をしたり。今時の女子高生のアラキヒカリになった。


 気がつけば、サッカー部のキャプテンを目で追うようになった。背が高く、キャプテン。そしてプロのサッカーチームのスカウトもある有望な選手。家がお金持ちで、とてもかっこいい。学校の女子は、彼を見つめている。当然、ヒカリも彼を見つめるようになった。


 恋をすれば、ゲームの興味が薄れていった。あれだけ熱中していたゲームも、時間の無駄。現実の恋の方が、生産的で楽しい。ゲームが趣味だなんて、友達に隠していたけれど、サッカー部の先輩の話なら、堂々と話すことができる。同じ話題で楽しめる。
 クラスの目立つ女の子たちと仲良くなった。彼女たちは家も裕福で、勉強もできる。スタイルもよくて、恋愛を楽しむ。クラスでは上位の存在。彼女たちと仲良くなると、ヒカリはもっと自分が高められた気がした。


 姉たちとは頻繁に連絡をとりあっていたのに、話題も特になく、最近は連絡もしない。共通の話題もないし、姉たちは社会人だ。忙しいし、歳も離れていれば、話題も違う。それぞれの生活スタイルも違う。もうなれ合う年齢でもないし、自然と離れるのが当たり前だろう。


「ヒカリ、好きな人ってサッカー部の先輩だったよね」


「かっこいいとは思うよ。背も高いし、隣の学校でもファンがいるみたいだよね」


「今は誰とも付き合ってないみたいだよ。サッカーに集中したいみたい。そういう硬派なところもかっこいいよね。去年の夏休みは、イギリスに行って強いクラブチームと一緒に練習したみたいだよ」


「イギリス、行ってみたいな」


「海外旅行もいいよね。今度の長期休み、ハワイに行こうって話があるけれど。ヒカリは行く?別荘ある子いるから」


「いいね、バイトすればいいか」


 彼女たちとの生活は華やかだ。少しお金がかかるけれど、アルバイトの範囲でどうにかなる。一緒にいると、大学生とも一緒に遊んだりできて、同じ高校生では体験できない世界があることを知った。同級生が子どもに見える。大学生は遊びなれているし、女の子たちを楽しませてくれる会話も上手だ。今では学校が退屈に感じる。


「ヒカリ、最近帰ってくるのが遅いわ。何をしているの? 」


「友達と勉強しているの。成績はおちてないし、問題ないでしょう」


 母親が最近帰宅の時間が遅いことをとがめてきた。前は、そのまま学校から家まで直帰であったから、母親がかえって心配していた。もっと外で遊んでいいのではないかと。女子高生なら、友達と遊んだりしてもいいのではと言っていた。でも、今度は説教をする。親はめんどくさい。


「ヒカリ! 」


 親からの干渉が嫌だ。一時期、楽しそうに家庭教師のパートをしていたのに。最近は家にいると、母親がイライラしているのがわかる。原因はヒカリにあることがわかっていた。父もそんなヒカリを心配していた。父とは気があっていたし、今まで心配されるようなこともなかった。


 なぜうまくいかないのだろう。華やかな友達、楽しい生活。でも家族がめんどう。


「いた、頭がいたい…………」


 わたしはアラキヒカリ。何かを警告するように頭が締め付けられる。最近は、前につかっていたスマホを手放した。持っていると嫌なことを思い出すような気がして、傍におかない。


 うまくいかない気がする。みんながうらやむような生活。それが楽しいはずなのに。頭が痛くて、ベッドに横たわる。人生がうまくいけばいいのに。なんだかうまくいかない。そして朝がくる。









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