乙女ゲーム迷宮~隠れゲーマーの優等生は、ゲーム脳を駆使して転移を繰り返す先輩を攻略する!~

森の木

第5話 クローバー編 女子高生、イケメン2人に囲まれて悩む





 次の日からイベントが始まった。次々に、金髪王子か黒髪王子かを選択する場面が多く出てきた。


「どっちもイケメンだけれど、同じ顔だからなあ。先輩とは顔の系統が違うから見極められないし」


 先輩がどちらの王子かわからない。失敗したら大変なことになるらしいが、そんな実感もまだない。もしかしたら夢のなかの出来事かもしれないという疑念もある。そこでギリギリまでどちらを選ぶかは保留にしておくため、選択肢をバラバラに選んでいた。


「今回は、金髪王子寄りの選択肢。さっきはどっちだったかな? 」


 慣れれば簡単だ。順番に交互にいい顔をしていればいい。はい、単純で誰でも出来るお仕事です。


「はいはい、次は黒髪王子に対して肯定する選択肢……次は順番を考えて、金髪王子寄りの選択肢っと」


 ヒカリの鍛えたゲーム脳が冴え渡った。ヒカリの過去の乙女ゲームの経験からすれば、どちらの王子に選ぶには、数日かかるだろうと予想した。まだゲームが始まって2つ日目。ゲームバランスからいえば、3日、もしくは1週間は共通ルートとしてどちらかを選ぶイベントだと思っている。


 個別ルートに入れば、また時間軸が変化するだろうから、エンディングまでどれくらいかかるかわからない。ただまだ王子を選ぶ時間は猶予があると踏んでいる。そしてそれは、予想通りだった。やはり乙女ゲームという世界観だけはある。乙女ゲームをやりこんでいるヒカリからすると、この世界の難易度は高くない。


「ヤン!ヒカリ、うまくいっている様子ヤン! 」


「今のところは。先輩に繋がるヒントがないから、どっちも選べない状態は続いているわ」


「天使にお願いするのもありヤン?力を与えたヤン」


「まだゲーム序盤よ、それは切り札として、個別ルートの選択肢で使いたい」


「やっぱりゲーム脳ヤン! 」


 まぬけなタヌキのモチーフのついたペンダント。自称妖精らしいが、暇なのだろうよく話しかけてくる。変な助言をするわけでもないので、いまのところ妨害はされていない。ただヒントをくれるわけでもないから、やはり邪魔なタヌキなのかもと思い直す。


 本日は午前中、金髪王子のイベントが発生した。年中彼を称えるパーティーを開催され、モテモテでまさに天から愛された王子の素晴らしさがわかるエピソードがわかる内容だった。午後は黒髪王子のイベントだろうか。部屋に戻り、午後のイベントになったことが画面のアイコンからわかった。


 扉をノックする音が聞こえた。


「はい、入ってちょうだい」


 メイドのアナだろうかと声をかける。だけれども入ってくる気配がない。いきなり刺客が来て血なまぐさい事件など、このゲーム内では発生しないだろう。扉を開けた。
 すると黒髪の王子がいた。なんだか恥ずかしそうに、でも不器用そうに笑みを浮かべた。


「王子………」


 ヒカリはどっ熱が吹き出るような、急激な恥ずかしさを感じた。ゲームの中であるのに、まるでこの感情はリアル。まるで放課後、先輩とすれ違うときに感じる感情。黒髪王子はイケメンだ。だけれど先輩はイケメンの部類ではない。でもこの気持ちはなんだろう。


「迷惑と思ったのですが、今あなたに会っておかないと後悔すると思ったのです」


「そんなこと。お会いできて嬉しいですわ」




 ヒカリは思わず本心を口にした。そんな言葉を聞いて、王子も恥ずかしげに俯く。


「はい、庭へ行きませんか? 」


「はい」


 ヒカリはゲームのことを忘れそうになるくらい、頭の中が真っ白になってきた。
 先輩とだって二人きりで話すことなどなかった。まして2人で並んで歩くことはなかった。ただ存在を遠くに見られれば満足だったから。どうなりたいとか思ったこともない。


  相手はただのゲームの攻略キャラクター。ゲームを何度もしても、所詮ゲームだってことはわかっていた。ときめきは感じても、恋はしない。そもそも恋なんて、自分はしたことがあるのかもわからない


 でも、このときめきはゲームで感じたことはない。
 体の奥からエネルギーが出てくる感じがして、急に恥ずかしくなってくる。内面が見られている恥ずかしさ。黒髪王子は、まさか先輩なのか?という気持ちになった。
 まさか本当にゲームのなかに、先輩はいるのか?という疑いと、自分の気持ちとで少し落ち着きがもてなくなってきた。


 「姫が、わたしと一緒に歩いてくれているだけで、嬉しいです」


 「わたしも誘って頂いて、とても嬉しいです」


 「よかった…………」


 ほのぼのとした空気が流れる。黒髪王子は、発言がネガティブなことが多い。なぜならば、才能にあふれ何でもできる兄にコンプレックスを感じているようだった。また周囲も兄が優秀すぎるがゆえ、黒髪王子を低くみていた。とりあえずヒカリは、好感度アップのために選択肢を慎重に選ぶ。最初のゲームなのだから、黒髪王子を励ます系統の選択肢を選べば、攻略ができそうだ。


 「姫は、兄といた方が楽しいですよね」


 ほら出た。兄と比較する言葉。現実にいたら、毎回ネガティブな言葉を聞くのはしんどくなってしまう。最終的には付き合っていくのは面倒くさいと思ってしまうタイプだと思う。ただイケメンであり、これはゲームのお話。主人公のお姫様は、優しいという設定なのだから、励ますのが正解。


 「そんなことはありません。王子といると、こころが穏やかになります」


 「姫…………」


 また好感度が上がったな、とわかる表情だ。そのあと黒髪王子の趣味の乗馬の話やら、過去の話やら聞いた気がする。最初のときめきは驚いたが、そのあとは特に何か変化があったわけではなかった。あくまで攻略対象としての王子がいる。滞りなく1日が過ぎ、そして王子を選ぶ最終的な判断があった。もちろん確信はなかったが、
 ヒカリはときめきを信じることにした。黒髪王子を攻略する。


 「本当に、それでいいヤン? 」


 「ええ、金髪王子には全然ときめきを感じないから。先輩だったら、きっとときめきを感じるわ。たとえどんな形になったとしても」


 選択肢を選んでも変化はない。


「正解みたいだヤン!もし間違ったら、すぐこの世界は崩壊していたヤン!黒髪王子が先輩ヤン!」


「崩壊!?…………とりあえずよかった」


「これからは、王子を攻略することがこのゲームをクリアする条件ヤン! 」


「任せてちょうだい!このゲームの癖みたいなのは慣れてきたから、いけそうだわ」


「ヤン! 」


 そして黒髪王子のルートに突入した。







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