婚約破棄したら、人畜無害の(元)婚約者がいろいろ面倒くさい

森の木

32.領主の過去、一難ありて 2



 医師の説明にその場にいた人は驚いた。
 ナイーブなことであるので、まずは女性だけ残ろうということになった。そしてソフィアと母と、召使いの女性が残ることになった。召使いの女性はレイチェルという。


「ええ、確かに奥様は最近食べ物を食べなくなりましたわ。食事をしても戻されてしまうことがありました」


 そう、オスカーの母は悪阻つわりがひどかったのだ。オスカーの母は妊娠していた。オスカーの両親の仲は悪いと母から聞いたばかりだ。その夫婦仲での妊娠。夫婦であるから不思議なことではない。カタリナ様の年齢からいうと高齢出産になるので、これからのお産は慎重になると医師は説明した。召使いのレイチェルは、オスカーの母になんと説明をしようか悩んでいるようだった。自覚はあったのだろうか、それが心配だ。


「でもカタリナ様に伝えないとならないわ。カタリナ様はもしかして分かっているのではないかしら。自分の体に変化があることを。だから無理してもこちらに来たような気がするわ」


 母はカタリナ様の心情を思って代弁した。カタリナ様の目が覚めて落ち着きを取り戻したら、改めて話を聞こうと話し合った。ソフィアはただ事態がかわったことに驚いてしまい、母達の話を聞くばかりだ。そして少したってから、カタリナ様は目を覚ました。




*****




「ビアンカ様……」


「カタリナ様、体は辛くありませんか?」


 目が覚めて見覚えのない内装に少し戸惑った様子のオスカーの母・カタリナ。痩せてしまっているが、目が覚めるほどの美貌である。母・ビアンカは少しきつめのクール美人であるが、カタリナ様は花のような可愛らしさと気品がある。その年齢を超越した若々しさは妖精のような不思議さもある。美貌と名高い男爵家の血筋を濃く感じさせる。憂いを帯びたオスカーの母親のブルーの瞳。それはまるで海の底の深い青を写したようだった。


「ええ、馬車の揺れで酔ってしまったのかもしれません。ご迷惑をおかけしたようで」


 力なく頭を下げるカタリナ様。それに首を振って答える母。そっとカタリナ様の傍に寄り添い、手を握った。


「カタリナ様はわかっているでしょう?体のこと……」


「お医者様にみていただいて。知っています、お子が宿っているのでしょう」


「ええ、それを伝えにこちらに来たの?」


「最初はオスカーを連れ戻すつもりでした。あの子は侯爵家の跡取り。申し訳ないですが、ここでのんびりと領主をしている時間はありませんわ」


「でも王からの命令が下ったとうかがいましたわ」


「旦那様がそうだと言いました。わたしは何も知らされてなくて……」


 ぽつぽつと最近のことを話しはじめたカタリナ様。オスカーが領主として赴任することになり、カタリナ様は反対をしたそうだ。だがオスカーは頑なに拒否をした。そして母の反対を押し切って赴任してしまったそうだ。それと前後して、普段は家にいないオスカーの父が屋敷にいることが多くなったという。
 最初は口論が絶えず、お互い険悪な雰囲気のまま時間が過ぎたそうだ。だがオスカーがいないことで、お互い気がつくことが多かった。夫婦の時間をゆっくりもつことも少なかったせいもあるだろう。昼間も会話をして、そして夜も一緒に眠ることが多くなったらしい。


「妊娠を知ったのは、こちらに来る途中でした。体調がすぐれなく、近くの町医者に体をみてもらったのです。だからこちらにきて、旦那様に知られないようにしたいと」


 ただ旦那様に知られたくないと、逃げるようにそれからここへ向かったというカタリナ様。いつかは知らされること、逃げられるわけがないとは思うが、いろいろ混乱してきたらしいことは姿をみればわかった。
 これ以上話をするのも体にさわるので、しばらくはソフィアの家に滞在してもらうことになった。ここならば人も多くいて、医者もすぐに駆けつけられる。オスカーの居る屋敷も便利ではあったが、今は傍にいる人が多い方がいいだろうということになった。夕方になるとオスカーが現れた。事情を母から伝えると、オスカーも驚いていた。そして母達の説得もあってしばらくはソフィアたちの家にいることをお願いしてきた。
 オスカーは屋敷にカタリナ様を迎える準備をするために、屋敷にもどることになった。ソフィアはオスカーと特に話す時間はなかった。







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