婚約破棄したら、人畜無害の(元)婚約者がいろいろ面倒くさい

森の木

29.領主交代!まさかの再会 4



「おはようございます……、まあアルーニ様!」


 オスカーの仕事が落ち着いたようで、ゆっくり領地を案内することになった。そして約束した日になって、ソフィアは出かけようとエントランスに向かった。もちろん両親には出かけることは伝えてある。
 ソフィアはエントランスに見たことがある姿をみて、声をあげた。そう、有名デザイナーのアルーニ氏がいたのである。オスカー専属のデザイナーをしているとは聞いていたが、こちらについてきたのだろうか。


「ソフィア、おはよう。今日も素敵なドレスだね。淡いイエローがこの時期に似合っている」


「ありがとうございます。こちらではたくさんの果物がとれますから、見ているだけで元気が出ます」


「いいアイディアが浮かびそうだ。お出かけかな?」


「ええ、オスカーに周囲を案内しようと思って。アルーニ様もいらっしゃいます?」


「それは魅力的なお誘いだけれど、オスカーの楽しみを邪魔しちゃいけないからね。あとでグチグチ愚痴られてもめんどくさいし」


「まあ、オスカー様ったらそんなことなさるのですか?」


 ソフィアは愚痴を言うオスカーを想像したら面白くなってしまった。アルーニ様には心を許しているらしいオスカー。気安く相談できる相手なのだろう。あまり自分の範囲に人をいれたがらないオスカーだから、そんな人が近くにいることはいいことだろうとソフィアは思った。


「ああ、オスカーって根に持つタイプなのだよ。自分は忘れっぽいから、オスカーが不思議でたまらない」


「アルーニ様は確かにさっぱりしているかもしれないですね」


「そうそう、細かいことにはこだわらないんだ。服のこと以外はね」


「叔父様もですわ。叔父様ったら仕事以外にはさっぱりしすぎていますもの」


「そうだった、フレーベルさんに会いに来たんだ。彼はいるかい?」


「ええ、まだ家に居ると思います」


 アルーニ氏は実は先ほど王都から到着したようだった。マーティン氏の家でお世話になるようで、荷物をお屋敷に置いてまっすぐフレーベルさんに会いにきたようだった。ふたりとも気が合うようだから、新しい土地で面白いことを考えるのだろう。ソフィアはお手伝いさんにアルーニ氏を案内するように頼んで、出かけることにした。




 ******






「おはよう、今日はよろしくお願いします。オスカー様」


「ソフィア。ああ、おはよう」


 屋敷の前で少し待っていると、オスカーを乗せた馬車が来た。オスカーは自分で馬車を動かしていた。その馬車はしっかりした作りではあるが、下働きのものに借りたものだとわかった。あくまでお忍びであるらしく、オスカーもシャツにパンツのみとシンプルなかっこうだった。でもあふれでるオーラは相変わらず上品であるが。


「オスカー様、言ってくれれば馬にのりましたのに」


「いや、買い物をするかもしれないだろう。ソフィアは馬に乗れるのか?」


「ええ、わたし専用の馬をお祖父様からもらったの」


「ソフィアは何でもできるのだな」


「この周辺に住むものは小さい頃から教えられるみたい。女性だってある程度剣術をならうのだから。昔の名残なのでしょうね」


「ソフィアも剣術をやるのか?」


「なまってしまったけれど。お祖父様には見込みがあるって褒められたこともあったわ」


 ソフィアはオスカーの横に座ると、そのまま発進した馬車に乗って話を続ける。


「この辺は昔、隣国の国境沿いだから戦いに備えた土地なのですって。ここを突破されると、道は平坦にまっすぐ王都に伸びている。だからここで守りは要みたい」


「ああ、そうだな。今は交易の要所だが、昔は大変だっただろうな」


「ええ。この辺の地主は昔有能な戦士だったってお話がたくさんあって。子どもたちはよく話をしているわ」


「この辺りの兵は昔から強いとは聞いている。よく訓練され、勇猛果敢な戦士ばかりだと」


「ええ、お酒にも強いっていうのも有名みたい」


「確かに酒豪ぞろいでひどい目にあった」


 先日二日酔いで倒れたオスカーだが、お祖父様は午前中少し休んだだけですぐ仕事に出かけた。さすがにフレーベル叔父さんはその日しんどそうではあった。父は朝から元気だったので、たぶん家族で一番お酒に強いのは父だ。


「だから今日はオスカー様が好きそうな、甘いお菓子を食べに行こうと思って。いろいろ調べてきたのよ」


「別に好きというわけでは……」


「お酒よりも甘いものが好きでしょう?もともとそんなに飲めるとは聞いたことがないから」


「……浴びるようにお酒を飲むのは好まないだけだ。食事中にたしなむ程度がいい」


「わたしもそう。今日行くお店は、葡萄酒が美味しいのよ。ジュースみたくて甘くて飲みやすいの」


「そうなのか」


 しばらく話し込んだあとに、ふと沈黙が訪れる。こんなに話し込んだことなど、何年ぶりだろう。幼いころは何を話したかは記憶にはないが、何気ないことをたくさん話したと思う。だが、お互い体が成長して、男女一緒にいることが好ましくないとされる時期がきた。大人の仲間入りをすると、気軽に男女が一緒にいるのはいい噂を生まない。
 そして成長期に入ったオスカー。いつの間にか、オスカーはソフィアの背を追い越してしまった。オスカーが変わったのもその頃だった。声変わりがきて、声がかすれてしまっていたオスカー。そのころからよそよそしかった。
 いざ婚約をしたら、もっと他人行儀になってしまった。完璧な紳士になってしまい、昔のオスカーの名残などどこにもなかった。お互い忙しくなってしまい、公式の場所以外では顔を合わせない時期が続く。オスカーは侯爵家の仕事で忙しくなり、オスカーとの話題もなくなってしまった。大人になるとはこういうこと、男の子が男性になることはこういうことなのかなとソフィアは思った。
 姉妹しかいないソフィアは、そういうことがよくわからなかった。教えてくれる人もいなかった。だから、オスカーとは変な距離ができたまま年月が過ぎてしまった。


「ねえ、オスカー様……。あ!ここに停めてちょうだい。」


 オスカーに昔のことをソフィアは聞こうとしたが、目的であった店のひとつが見えてきた。屋敷から馬車で行くと、見えてくる建物の密集地。そこは宿場街であり、隣国と王都を繋ぐ街道沿いの街である。ソフィアが目指していたのは、名産がたくさんある商店だった。この辺りでは一番大きい商店で、軒先では軽い食事もできる。
 馬車を繋ぐとソフィアとオスカーは店に行き、地域の名産品をいろいろ見てまわった。果物がたくさんとれ、麦もとれる。ここから少しいったところではぶどうもあってお酒もつくられる。
 そうして、工芸品の店などをまわってからレストランへ移動した。レストランといっても高級なものではなく簡単に食事をとれる場所である。ふたりで過ごす時間はあっという間であった。そうしてオスカーと周辺の主だったところをまわると夕方になっていた。







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