婚約破棄したら、人畜無害の(元)婚約者がいろいろ面倒くさい

森の木

10.婚約者激変?せまる危機 5



「奥様、お仕事の依頼ありがとうございます」


 今日は、ソフィアは家からほど近い商家のご婦人の家を尋ねた。先方の願いもあって、ココとキキも一緒だ。迎えてくれたのは、豊かなブラウンの髪の毛が美しい、優しそうなご婦人だ。そしてそのご婦人の後ろには、ちょこんとご婦人そっくりの娘さんがいた。


「ソフィアさん、お会いできて嬉しいわ。わたしは、カレンといいます。この子は、マーサです。マーサご挨拶をしなさい」


 マーサと言われた少女は、ココとキキと同じくらいの背丈である。10才くらいかもしれない。マーサは恥ずかしそうにココとキキを見つめながら、ちょこんと頭を下げた。そしてはにかむように笑った。


「マーサちゃんこんにちは、わたしはココ」


「わたしはキキだよ」


 それにつられるようにして挨拶をした双子たち。今日の双子は、オスカーがくれた髪飾りをしている。それに合わせて、キキがブルーの服。ココがピンクを着ている。もちろんソフィアが作った新作の洋服である。


「カレンさん、マーサさんはじめまして。わたしはソフィアです。オットーさんから今日のお話を聞いて、楽しみにしていました。ココとキキまでお招きいただいて」


「マーサはこの辺りに引っ越してきたばかりで、同じ年代のお友達がいないの。ココちゃん、キキちゃん。ゆっくりしていってね。マーサと奥のお部屋で、遊んできたらどうかしら?」


 そしてマーサが自室を双子たちに見せてくれるというので、三人は別室に移動した。カレンさんの屋敷はこの辺りでもとても立派な屋敷である。貴族が住む地域ではないため、そこまで豪奢な作りではないが、お手伝いさんが何人かいた。
 カレンとソフィアは、応接間に移動してドレスの依頼について話をつめることになった。


「ソフィアさんのお洋服がとても気に入ってしまったの。なかなか他にはないシルエットの服で、着てみたらとっても体にフィットするのよ。締め付けられる感じもしなくて。オーダーしてもらったわけじゃないのに、ここまでしっくりくるお洋服は初めてなの」


「フルオーダーのお洋服は、体ぴったりに作ってしまいます。その時によって体がむくんだりして、体型っていつも変化するんです。これはお店に置いたドレスですから、少し袖などゆとりを持たせました。あと作業をされるご婦人たちのことも考え、ウエストも比較的マチをもたせて、流行の形とはちょっと違うんです」


「でも、ゆとりはあるけれど、シルエットがとても綺麗なのよ。ゆったりした服だと、だぼっとしたものになってしまうでしょう?」


「そうですね。動きやすさ重視で、ドレスと作業着の中間のようなお洋服を目指し、いろいろ試しています。ドレスだと華美すぎて実用的ではないし、作業着だとデザイン性はないし、華やかではありませんから」


「わたしは夫のお手伝いをすることもあるから、作業もやりながら、お客さまの応対もすることがあるの。だから、ソフィアさんのお洋服を着てからお仕事もやりやすくなったのよ。お客さまに褒められることもあるの」


「それはわたしも嬉しいです。今日はお嬢様のお洋服も一緒にということでうかがっていますわ」


「ええ、オットーさんのお店にあった双子ドレスがとても可愛らしくて。マーサにプレゼントしたいのよ」


「カレンさんとマーサさんのお洋服をセットにすることもできますよ。まるっきり同じは気になると思いますから、似た部分を作っておそろいで着てみてお出かけも楽しいかもしれませんね」


「でもマーサと同じだと、可愛すぎではないかしら」


「生地やシルエットを変えれば、おそろいだと気がつく人も少ないかなと思います」


「あら、なんだか楽しそう」


 お手伝いさんから、出されたお茶を飲みながら、新しい服のイメージをすりあわせていく。カレンさんは地味な風合いの服が多いから、今回可愛らしい服にチャレンジしてみたいと言ってくれた。マーサさんが着ている服は全体的に可愛らしい服が多く、カレンさんの趣味であるようだ。次に服の生地などのサンプルを出して、どれがいいかなと聞いていく。形もいくつか考えておいて、どれがいいかとベースを決めてから手直ししていく。
 オーダーメイドといっても、デザインがあるうちから手直しを加えていくので、完全なフルオーダーではないだろう。いくつかの作品をつくって、評判がよかったら、フレーベル叔父さんにドレスの形の提案をしてもいいかもしれない。


「ありがとう、ソフィア」


 採寸が終わり、また仮縫いの日程を合わせることになった。その間、ココとキキとマーサは仲良くなったようだった。お人形遊びをしながら、可愛らしい笑い声が聞こえてきた。ココとキキも、姉妹以外の人と遊ぶのは久しぶりで、珍しくはしゃいでいるようだった。


「ココ、キキ。そろそろ帰る時間よ。カレンさんとマーサさんにご挨拶してちょうだいね」


「「はーい!」」


 ココとキキ、そしてマーサは名残惜しそうにお互いをハグしていた。姉妹以外で親友と呼べる存在ができたようだった。帰りの馬車でも、マーサは姿が見えなくなるまで手を振ってくれて、双子たちも手をずっと振っていた。


「ココ、キキ。楽しかった?」


「「うん」」


 同時に頷く双子たち。ココは楽しい時間にうっとりしたようだ。キキは反対に、しばらく離れてしまうマーサを思って悲しそうだった。


「カレンさんが、またココとキキにも来てほしいとおっしゃっていたわ。今度も一緒に行きましょうか」


 双子たちは顔を見合わせ満面の笑みを浮かべると、遊び疲れたのか、帰ってから早めに就寝してしまった。ソフィアは双子の寝顔を見つめて、小さな喜びに包まれながらドレスを作っていた。



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