神眼の転生者

ノベルバユーザー290685

第17話「リオンの戦い」

 アリアを発ってから8日、つまりプライディアまであと2日という所まで俺たちは辿り着いていた。


「今日はここらで休もうか」


 空が暗くなり、道も見えづらくなってきたので、俺は少し前を歩くリオンにそう告げた。
 リオンはこちらに振り返り


「分かりました、マコトさん」


 と、答えて野営の準備を始めた。


 その手際はこの数日の経験でだいぶ最適化されていた。
 俺が出した薪を重ね火を付ける。火が安定するまでの時間もだいぶ短くなったな。
 次に、マジックバッグからテントを取り出し、テキパキと組み立てていく。このテントは一人でも組み立てやすいようにと設計されているので俺が手を出すことは無い。


 俺はリオンが準備をしている間に野営地の周囲に結界を張っていく。これは寝ずの番を立てるのも面倒だと俺が横着をしたいからだ。


『魔物避け』『虫除け』『物理障壁』『魔法障壁』……


 こんな具合に結界を張っているわけだ。だが万が一のために幾つか警戒陣も貼っている。


『侵入者転移』『対転移無効者排除魔導』『結界無効警報』


 まあ、これらの機能が活躍する機会は今まで無かったが。


「こっちは終わりだ、リオンはどうだ?」


「あっ、私もちょうど終わったところです」


 見ると、キレイに立てられたテントがそこにはあった。
 本当によくやるようになったな。初めにやらせた時はそれはもう面白かったくらいだ。
 まさかテントが裏返しで立つ姿を見るとは思わなかったよ。






「それじゃ、おやすみ」


「おやすみなさい、マコトさん」


 夕飯を済ませリオンに眠りの挨拶を告げると俺は寝袋に潜り、ここ数日のリオンの事を思い返していた。








「シィッ!」


 鋭い気迫とともに局部的に虎化した爪が振るわれ《アイソレートウルフ》の前脚に深い切り傷が刻まれる。戦っているのはリオン、相手は単独行動を特徴とする狼系の魔物だ。
 アリアを発ったその日の昼頃、その魔物と遭遇した俺はリオンの力を見せてもらおうと戦うように頼んだのだ。


 現状はリオンが圧倒的優位、ウルフのHPが既に半分を切っているのに対し、リオンは無傷、高い運動センスと獣化を上手く使い、被弾数を0に収めているのだ。
 脚部を獣化させ勢いよく蹴りを放つリオン。ウルフは大きく弾き飛ばされ体勢を崩す事となった。


 リオンはここを勝機と見たか、猛然とウルフに飛びかかり、獣化させた両腕を嵐のように振り回す。体勢を崩した状態で無理に攻撃を躱そうと身を捩ったウルフだが、当然ながらそのような状態で上手く回避ができるわけもない。


「アサルトクロウッ!」


「グオォォォォォ!」


 リオンの猛攻により、あっという間にHPを削られたウルフは、断末魔の叫びを残しその命を散らした。


「ふぅ……」


 戦闘が終わり一息つくリオンに近寄り、怪我はないかと声をかける。外傷がなくても筋を痛めていたりすることもあるからだ。


「いえ、大丈夫です!これくらいで痛めたりしませんよ、私、獣人ですから」


 そんなものか、とリオンの言葉に納得しながら念の為と│『診察眼』(メディックアイ)を発動し、簡単に健康状態の確認をする。


「確かに、問題無さそうだな。不調があったら遠慮せずに言うんだぞ?」


 リオンは恐縮したようにお礼を言っていた。
 このウルフとの戦いが出発二日目の出来事だ。






 ウルフとの戦いから2日後、つまり4日目のこと。


 この日もリオンは魔物と戦っていた。
 相対するはその上背3mを越える《アイアンゴーレム》が3体、状況はやや劣勢。


「……くっ!」


 リオンの攻撃は獣化を利用した物理攻撃に特化している、だがこのゴーレムの強みは突出した物理防御力とその巨体を利用した強力な攻撃だ。
 鉄塊に命が宿った魔物であるこのゴーレムは、文字通り鉄と同等、あるいは勝るほどの硬さを持っている。普通の攻撃では有効なダメージは中々通らないものだろう。実際、俺のステータスを持ってしても魔力生成した小剣の投擲では大してダメージが通らなかったくらいだ。
 ちなみに、額にEMETHの文字はない。


「リオン、2体片付けようか?」


 1度立て直しのためにこちらに戻ってきたリオンにそう尋ねる。返答はNOだそうだ。もう少し戦ってダメそうなら一体まで減らすと告げると、気炎を上げて突撃して行った。


 10分が経ったが未だに有効な攻撃を与えられず、焦りからか攻撃が単調になって来たリオンの様子を見て、スタイルをガンナーにスイッチした。


 ガンナースタイルの外見は、髪の色が深緑に変わり、目は銀、服装はいわゆるミリタリースタイルな感じだ。基本的に、どのスタイルでも魔力で身体を覆い、鎧代わりにしているから防具は付けていない。その魔力も攻撃が当たる瞬間にその部位に即時展開するというものだ。近距離体術用にグローブと特注のシューズがあるくらいか。


 装備を二丁魔弾拳銃にし、魔石弾倉に位置する場所に魔力を注いでいく。射撃のモードは溜め撃ち、実弾用には
 無い独自のモードだ。
 機能としては文字通り魔石内の魔力を圧縮して次弾の威力を高めるというものだ。セーフティの近くに切り替えのスイッチが付いている。ちなみにハインリヒから購入した拳銃4丁だがデザインはFN社のFive-seveNに酷似していて、実弾のものは装弾数も近しいのだ。地球でゲームをしてた頃に気に入り、少し調べたものだ。懐かしい。


「リオン!退避!」


 大声で合図をし、リオンに退避命令を出す。素早く反応したリオンが三体のゴーレムから離れた瞬間に溜めていた魔弾を発射した。


 それぞれ違うゴーレムに向かって撃ち出された不可視の弾丸は、頸部と胸部に吸い込まれ──────微小な穴を開けた。


「え……?」


 俺の横まで戻ったリオンが未だに動く二体のゴーレムを確認し、そして俺を見た。だが、問題ない。


「リオン、あまり敵から目を逸らすものじゃないよ」


 そう告げられたリオンが慌ててゴーレムを見据えると同時、穴を穿たれたゴーレムは内部から弾け飛んだ。
 俺の妄想技『千変弾丸シフトバレット』で魔弾の性質を炸裂弾に変えたというわけだ。


「すごい……!」


「さ、あと一体だ、頑張れ」


「は、はい!」


 呆然としかけていたリオンに激励をし、戦闘を再開させる。
 当然、獣化しての攻撃も真正面からぶつけるだけではいい効果は得られない。それくらいは先ほどまでの戦いでリオンも気づいているはずだ。つまり、どう突破するか、が肝要なわけだ。


 そこでリオンがどう対応するかが一番のポイントなわけだ。


 リオン Lv.30 年齢:15
 種族:人虎 性別:女 状態:通常(戦闘中)
 HP:700/1,000 MP:360/500
 筋力:200 体力:200
 魔力:50 精神力:150 敏捷力:200


 現在の彼女のステータスはこうなっている、スキルは次の通りだ。


 スキル
 獣化(Lv-)
 壁走り(Lv.3/10)
 アサルトクロウ(Lv.5/10)
 噛みつき(Lv.6/10)
 ラリアット(Lv2./10)
 乱れ引っ掻き(Lv.4/10)


 とても肉体派なスキル構成だと思う、噛みつきのレベルが一番高いのは食事にも経験値が適用されているのだろう、と予想してみる。だがこれらのスキルをただ使うだけではゴーレムを撃破することは難しいだろう。
 有り体に言えば、役割が違うってやつだ。俺自身もここでリオンに余裕を持ってゴーレムを撃破してもらうつもりは無い。どれだけ長く立ち回れるかを見たいのだ。だがそれをリオンに告げてはいない。
 リオン自身には俺の旅についてこられるか、戦う力を見せて欲しいと言っただけだ。


 数分が経つがリオンにもゴーレムにも決定的なダメージはなく、状況は硬直している。違いがあるとすればゴーレムはその防御力で攻撃を受け止めているのに対して、リオンは全ての攻撃を躱しているということか。その差の分、僅かではあるがリオンの方が場を掌握していると言えないこともない。


「…………?」


 また数分、戦いを観察しているとリオンに違和感を感じた。注視してみると顔が紅潮して口元は釣り上がり、口の端からは鋭い牙が覗いている。さらに掛け声が獣声混じりになり、動きに豪快さが出てきた。


 獣化の度合いが強くなっているのだろうか、少し危なさも感じるがゴーレムの攻撃もしっかり避けているので観察を続けよう。


 さらに数分が経った。


「これは驚いたな……」


「グルルルルル……」


 俺の視界の先には鉄屑と化したゴーレムと今にもこちらに襲い掛かりそうな虎の姿があった。






 さて、どうしたものか。
 元に戻すのは容易だ、前回と同じようにすればいい。だがそれは得策ではないように思える。
 リオンには戦う力を見せて欲しいと言った、ならば自分と戦う力・・・・・・も見せてもらわないとな?


「さ、かかってこい、力を乗り越えて見せろ」


 スタイルを暗殺者にスイッチしリオンと対峙する。両の手に武器はない。ステータス差からして素手でも過剰なくらいだ。ひとまずは、疲労するまで戯れようじゃないか。


 リオン Lv.30 年齢:15
 種族:人虎 性別:女
 HP:4,250/5,000(1,000) MP:440/500
 筋力:500(200) 体力:300(200) 
 魔力:50 精神力:150 敏捷力:800(200)


 状態:虎化(制御不能)、興奮


 制御不能と来ましたか、多分こりゃ意識も無いな?
 完全に虎化するとHPとMPは回復するみたいだな。制限はあるのだろうけど。


「グルルァァァッ!」


 そんな風に状態を確認していると、それを隙と見たかリオンは地を蹴りこちらに向かってきた。人間形態の時に比べて大きく上がった敏捷力によりその速度は予想よりも早かった。右前脚が鋭く振り抜かれ、鋭利な爪が俺の首元に迫る。スキル『アサルトクロウ』の力が乗ったその一撃はこのままだと俺の首を切り裂くだろう。
 だが偉い人はこう言ったものだ。


「当たらなければどうということは無い、ってな」


 爪が首に触れるまでの刹那の間に、地を踏み抜き、間合いの内のさらに内側まで入り込む。そのまま地とリオンの間隙を縫い背後にすり抜ける。


「動きが単調、マイナス1点」


 そう告げながら尻尾を握り、軽く引っ張る。


「〜〜〜〜〜〜!!!」


 声にならない叫びをあげ、俺を追い払うように爪を背後に振り払うリオン。無理にまとわりつく事はせず余裕を持ち間合いを取る。
 なかなかに良い手触りだったな、この戦いが終わったら後でモフらせてもらおうかな。


 その後は大振りの攻撃を控え、牽制するように小振りの攻撃を繰り返すリオンの相手を続けた。やがて気が付くとこれから進む予定だった森林地帯にまで踏み込んでいた。


「大分移動しちゃったな、そろそろ疲れてくれないかな?」


「グルゥゥゥ……!」


 戦い始めの時よりかは理性的な様子が見られるがまだ俺を俺と認識出来るところまでは至っていないようだ。まだ先は長いか。


 木々の隙間が少し開けた空間に出た時、幾度目かのリオンの突進が
 来た。今までとは比べられない突進速度、少ない魔力を消費して行動にブーストをかけているのだろう。だが殺気が鋭く向かっては来ない。何らかのフェイントを起こすつもりだ。
 油断せずリオンの挙動に注意を向けていると俺の直前で左に大きく跳んだ。その動きを追い視線を向けると木を蹴りまたあらぬ方向に跳ぶリオンの姿があった。


「壁走り……!走れるなら当然蹴ることも可能だわな」


 その後3回の跳躍を見たあと、目で追うことは諦めた。如何せん跳ぶ間隔が短すぎて首が回らない。


 興奮してる割には頭が回るじゃないか野生!その行動はリオンのそれと同等だ。


「仕方ないか……『俯瞰眼ビハインドアイ』」


 頭上から自分を中心に周囲を見渡す、三次元機動にはこちらも三次元視点から対応するものだろう。
 だが俯瞰視点で見ることで改めてリオンの早さを再確認した。アイアンゴーレムを叩き壊す膂力、このスピード、ここにリオンのセンスが合わされば格上の相手でもすぐにやられることは無いだろう。


「さあ!どこからでもいいさ、仕掛けてこい!」


 告げた刹那、背後から爪を突き出しつつ高速で突進してくるリオン、横へのステップでそれを避けたと思った刹那。


「ぐ……っ?!」


 斜め後ろからのタックルを俺は食らっていた。爪の攻撃は初めからフェイント、躱されるのを分かっていたからこそ、直後の動きに喰い付けるように背後から俺を襲ったのだろう。


 ステータスの関係ない質量により地面に押し倒され背中に前足を振り下ろされる。幾度も振り下ろされる。ああ、やっぱり、こうじゃなきゃ。


 寸頸で以て地面を打ち大きく陥没させる。バランスを崩したリオンを軸に回転しマウントを取る。


「『影縫い』!」


 魔力生成した10本のナイフを両手両足、そして頭を挟むように地面に突き立てる。魔力で影を縫い止め、動きを封じる技……いいや、術だ。さらに動きを封じるべく幾本ものナイフを空中に展開した所で背中を何かに叩かれた。
 ぺしぺしと。


「?」


 首を巡らせ背後を見ると、例の尻尾がタップするように俺の背中を小突いていた。


「グルル…………ルゥ……」


 呻き声にリオンの顔を見ると、そこから殺気は消え失せていた。


「リオン……?」


 リオン Lv.30 年齢:15
 種族:人虎 性別:女
 HP:2,100/5,000(1,000) MP:110/500
 筋力:500(200) 体力:300(200) 
 魔力:50 精神力:150 敏捷力:800(200)


 状態:虎化、拘束


 制御不能の文字が消えていた。


 即座に影縫いを解く。空中のナイフも魔力に還元してリオンの回復に当てる。


「意識、あるんだな?制御できるようになったのか?」


「グ……………………はい」


 獣化を解除し俺の言葉に答えるリオン。その顔は赤い。


「顔が赤いけどまだ何か異常があるか?傷は治したけど……」


「その……」


「うん?」 


「降りて、貰えますか……?恥ずかしいです……」


 言われて自分の状態を確認する。
 女の子に馬乗りになって顔を覗き込んでいる。通報ものだ。これは事案だよろしくない。
 戦ってた時よりも素早いくらいの動きでリオンから降り、謝罪する。


「あ、そんな……私こそ迷惑を……。それよりも、私、完全に獣化しても平気になってる……?」


「あぁ、それね。今まで戦ってもらってたのってリオンがどれだけ戦えるのかと、獣化の制御をしてもらうのが目的だったからさ」


 こういうのは回数こなせば慣れるものって相場が決まってるし、完全に虎化した状態で疲労するほど強い敵と戦った経験は早々なかったんだろう。
 そういうことを説明して納得してもらった。


「じゃ、リオンが力を制御できるようになった事だし。少し休んだらまた進むよ?」


「……は、はい!」


 若干顔を赤くしてリオンはそう答えた。



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