神眼の転生者

ノベルバユーザー290685

第1話「突然の死、そして転生へ」

 突然ではあるが、俺は死んでしまった。
 それは、とある冬の帰り道に起こった。
 なんのことはない、ごく普通の事故だ。事故に巻き込まれるのを普通とは思いたくないが。
 ぶっちゃけ自業自得だろうとは思ってる、スマホ弄りながらだったしな。どう考えても俺が悪い。


 例え、轢き殺したのは車の運転手だとしても、車のスピードが法定速度を少しオーバーしてたとしても、流石に歩きスマホをしながら悠々と車道に踏み出した俺が悪いのはそりゃ当たり前ってもんだ。いや、恨みなんてナイデスヨ?


 そんなわけで、俺こと黒河誠くろかわまことの約18年に渡る人生は早くも幕を下ろすことになった。悲しいね。


 あらぬ方向に折れ曲がり血を流している自分の死体を宙から眺めながら、俺はそんな事を思い意識を無くした。








「……あれ?」


 目を開けると、見慣れた風景が目に飛び込んできた。通っている学校の教室だ。しっかりと窓際後ろの自分の席に座っている。
 俺は確か死んだと思ったんだが……?


「夢、なんてことは無いよなぁ、これ」


 窓を眺めてみても外はいつもの校庭ではなく、真っ白な霧に包まれていて何も見えない。
 少しでも遠くを見渡せないかと手を目の上に付けてみたが1メートル先も見えないままだった。


「というか……透けてるな、俺」


 上げていた腕を下ろした時に、向こう側が透けて見えた。とてもゴーストな感じだ。やっぱり死んじゃったんだなこれ。
 でも、なんで学校みたいな所にいるんだ?


「どういう事か誰か教えてくれねぇの?って言っても誰もいな……」
「いますよ、ここに」
「ううぉおぉぉ?!」


 め、めめ、滅茶苦茶ビックリした、死ぬかと思った、心臓が激しく鼓動を……ってもう死んでるし心臓も動いてねぇか。
 いや、笑えないわ。


「お前、誰だよ」


 突然目の前に現れた長身の男に声をかける。
 セミショートの赤い髪をオールバックにセットした、鋭い目つきの男前がそこにはいた。
 無駄にスーツ似合ってるしかっこいいなコイツ。


「おっと、これは失礼。私は……まあ、いわゆる神的なアレです」
「あっ、そうなんですか、なるほど~」


「じゃねぇよ!?何で神様がそんな厳ついんだよ!暴力団員みたいなんだよ!そもそも神って俺なんかに構えるほど暇なの?ねぇ暇なの?まず見た目の事だけでもいいから少しでも神を信じてる全人類に謝って!」
「まぁ、落ち着けよな、うん」


 ………………はい、仰る通りですね。取り乱しました。


「すみません、ちょっと、気が動転してました」
「うん、仕方ないとは思うからいいよ。それで君を呼んだのには理由があるんだけどさ、いいかな?」


 まあ死んで神的存在と邂逅するとなったら大体は一択でしょうね、俺そういうの好きだし。


「いわゆる異世界転生ってことですかね?」
「うん、話が早くて助かる。もう何年も前に呼んだ人達はしばらく混乱してたけど、今の時代ならそういう創作も、それに接する人も増えてきたからかな?」
「まあ、そういうことでしょうね」


 未だに一般には広く普及してはいないけど、ネットとかでは異世界転生モノの小説なんて沢山ある。大概は主人公最強のチートとかありありだけど、断然好みだ。
 いや、まあそれは置いとくして。本題はここからだろう。


「それで、あなたは俺にどんな世界でどんなことをして欲しいんですか?そういう話でしょう?」
「まあ、ある程度はそういう話かな。どんな事をして欲しい、というかこれからどうにかなるんだけどね。まあ想像通りの感じの世界と思ってくれて問題ないと思うよ」


 じゃあ、剣と魔法のって感じか。いいね、好みだ。


「それで、何がどうなった時に俺はどうすればいいんだ?」
「君、結構グイグイ来るね。他の神でも、もう少しマイルドだよ」
「ま、まあそれは置いといて、何するか聞かないと俺も転生する気にはならんぞ」
「分かったよ、慌てないで。君をこれから転生させる世界の人間界では三つの国が争っててね、この内一つの国が膠着状態を切り開こうと新しい動きを見せたんだ。それが……」
「──勇者召喚か」
「そう、その通り。だけどこの国って実は争いを始めたきっかけでもあってね、客観的に見ても1番危ないんだよね」
「あぁ……もしかしてその国が使う召喚の魔法って『奴隷』状態かそれに近い形での召喚をするやつか?」
「ご名答、なんかもう全部分かってるのかな?そういう訳だから、恐らく半年で彼らは勇者を訓練し、武力戦争を起こすだろう。それを君に止めてほしい、というわけだ」


 大体察しは付いていたが……


「アンタじゃ無理なのか?神的なアレなんだろ?」
「そう出来たら楽なんだけどね。私が世界に直接干渉したら周囲の次元も含めて丸ごと捻じ曲がっちゃうから、ダメなんだ」
「何者だよ……なら仕方が無い、と言いたいが俺はただの人間だぞ。そんな大それたこと、できるわけないだろ」


 言いながら俺は口元を歪める、相手も笑いながらそれに応える。


「もちろん、力を授けてあげますよ。そんな嬉しそうな顔されると張り切りたくなりますね」
「どんな能力なんだ?いや、スキルか?」
「焦らないでください、今説明しますよ。まずは……これです」


 《スキル『神眼』を習得しました》


 脳内に響き渡る無機質な声。同時に文字のイメージも伝わって来る、なるほど、音だけなら分からないスキルもあるだろうと思っていたが、そのまま文字も伝わって来るんだな。


「この『神眼』というのは?」
「口で説明するのは面倒なので、これもどうぞ」


 《スキル『創世の知恵ウィズダム・オブ・ジェネシス』を習得しました》
 《『創世の知恵』の効果が発動します》
 《『常時ステータス確認』『全スキル効果把握』『マップ』が解放されました》
 《天啓を『創世の知恵』が管理します》
 《───よろしくお願いします、マスター。私が貴方を導きます》


 一気に色々あり過ぎて少し驚いてるとこある、うん。とんでもスキルだな、まったく。
 だが、これで神眼の効果が分かる。


「えっと……神眼の効果は?」
 《表示します》


『神眼』:極限スキル
 説明:ありとあらゆるものを見通す事ができる。その力は使い手次第で良くも悪くもなる。


 これは……いい、とてもいい。創世の知恵と組み合わせて使えばかなり有能な能力だ。


「何だかとても悦に入った顔をしてるけど、1つは君が自由にスキルを考えていい。特別サービスだ」
「正直この二つでもトンデモナイとは思うけどな。少し待ってくれ、考える」


 神眼と創世の知恵、あと一つか……うん。これならいいかな。シンプルに、強くね。


「完全限界突破で。無理とは言わないよな?」
「なんというか、流石だね。今まで限界突破のスキルを要求されたことはあるけど完全なんて付ける人はいなかったよ。よし、これでどうか」


 《スキル『完全限界突破』を習得しました。効果を常時発動します。マスター、許可を》
(ああ、いいよ。俺の能力の向上につながるなら俺が細かい注文をする時以外はそっちで判断してくれ。ところで、創世の知恵の能力は?)
 《表示します》


『創世の知恵』:極限スキル
 説明:世界の始まりから全てを記録してきたスキル。一種の精神体でもあり世界の理を全て把握している。


 これはまた……名前から何となく予想はしてたが、凄いな……


「いや、ワクワクしてきたね。少なからず、こういうの憧れてたんだ。俺を選んでくれてありがとな神様」
 「こっちこそ、引き受けてくれて良かったよ。同意の意思が無い者を転生させたら色々と問題が起きるからね」
 「そんなものか、俺が転生したら……もう話せないか?」
 「普通は無理だけど、君に上げたそのスキルは特別だから、そのうち話せるようになるさ。まあ、緊急事態が発生したらその時は頑張って話しかけるさ。さて、そろそろ時間かな。まあ新しい世界を楽しんでくれ」


 言われなくても……


 「楽しまなきゃ、勿体無いくらいだぜ。また会おうな」


 そう言うと同時に俺の足元が光り輝き始めた。転送が始まったらしい。目の前の赤髪オールバックを眺めながら、向かう世界に思いを馳せ、ふと気がついた。


 「あんたは何ていう神様なんだ?どうせ俺が行く世界では少なからず信仰されてるんだろ?」
 「おっと、忘れる所だったね。君に私の加護を授けよう、受け取ってくれ」


 《『創造神クリムベルの加護』を獲得しました。称号『創造神の友』を獲得しました》


 ちょっ……!?


 「創造神っておまっ……?!」


 そこまで叫んだ所で俺の体は光に包まれてその場から消えた。ちくしょう、せめて文句の一つは言わせてほしかった。
 創造神がそんな格好すんなよ、ってさ。






 「本当に面白い人間だな、黒河誠くん」
 地球上のとある場所に存在する学校の教室に酷似した場所に佇むスーツ姿の男は一人そう零した。

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