英雄は愛しい女神に跪く
サーベストの改革 その1
無事に街に到着した俺達は、ダイトと明日改めて会う約束を交わし別れた。
「ん~!良い潮風!景観も綺麗だねぇ」
「そうだな」
「これからどうするの?」
「一応あのジイサンに挨拶しとくか」
「公爵様でしょ!もぉ!」
そんな他愛もない会話をしながら公爵邸を目指し歩き始めると、向こうから豪華な馬車がやって来て、俺達の前で止まった。
降りてきた執事服を着た男は、俺達の前に立つと丁重に頭を下げた。
「公爵家の使いでございます。冒険者、トーヤ様とユーリ様でしょうか?」
「あぁ」
「旦那様がお待ちです。どうぞ」
平民の冒険者にもかかわらず、しっかりと礼節をもって接する執事。やらかしたジイサンの執事にしては教育が行き届いているな。
俺達は馬車に乗り込み、公爵邸へと向かった。
暫くして、街の西側に建てられた大きな屋敷の前に馬車は止まった。もう夜だと言うのに、屋敷の前に並んだ使用人達と正面に立つ公爵のジイサン。どうやら俺達の出迎えのようだ。
「お待ちしておりましたぞ、トーヤ殿」
「俺達みたいな冒険者に大層なこったな」
「貴方のような方をただの冒険者とは言わんと思うのだが…」
「ふん」
あの事件で、十夜の恐ろしいところを目にしている公爵からすれば、十夜を『ただの冒険者』と侮りを持って接することなど不可能だ。その強烈さ故に、頭に冷水をぶっかけられたように、冷静さを取り戻す事が出来た公爵なのだから。
それほどまでに異質で異様な十夜を間違っても『ただの冒険者』などとは呼ばないし、死んでも呼べない。
「十夜!すみません公爵様」
「いや、構わない。それより、長旅で疲れておるだろうし、今夜は家に泊まっていってはくれぬか?色々と話も聞きたいしの」
「すみません、良いんですか?」
「当家の料理人が腕によりをかけた海鮮料理を用意しているのでな。ぜひ、食べてくれ」
「ありがとうございます!」
こうして俺達は、公爵邸へと招かれた。
次の日、冒険者ギルドで依頼完了の報告を済ませると、昨日ダイトと約束した場所へと向かった。
それはこの街にある公爵邸と並んで一際目立つ建物で、三大海業組合『シーズ』の総本部となっている建物だ。
中に入ると、活気が溢れていた。さすがは海沿いの街なだけある。俺達は、受け付けに座る女に声をかけた。
「すみません、ダイトさんいますか?今日会う約束してるんですけど」
「えっと、どちら様ですか?」
「冒険者の優理です。こっちは仲間の十夜です」
「ユーリ様とトーヤ様ですね。少々お待ち下さい」
丁寧に頭を下げた受付嬢は、建物の奥へと消えた。数分後、ダイトと共に戻ってきた。
「トーヤさん!ユーリさん!お待たせしました!」
「ダイトさん!昨日ぶりです」
「さっそく海運ギルドを案内しますね!」
「ありがとうございます」
組合本部を出ると、向かったのは港。大きさも違うたくさんの帆船が並んでいた。ここにある以外にも、仕事に出ている船があると思うと、かなりの数だ。
さすが、王国内の航路を全て賄うギルドなだけある。
ここまで発達していれば、他国との取り引きがあってもいいものだが、生憎、一番近い国は鎖国国家。もう何百年も鎖国をしている『日ノ輪』という国だ。
もう一つは戦争国家。大陸図では王国とは正反対に位置する『テンブリア帝国』。差別意識が高く、大陸に人間のみの覇を唱えるバカな国だ。
どちらも取り引きに持ち込めるような国ではない。これでは交易を諦めて国内だけにするのも頷ける。
「昨日、ギルドに帰ってから聞きました。サーベストの改革をしてくれる御人を公爵邸に迎え入れたと。トーヤさんたちがそうなんですね」
「お役に立てれば幸いです。よろしくお願いしますね!」
「お二人は強いだけでなく、知識もお持ちとは…すごいですね!」
ダイトの案内で、船の中まで見せて貰った。はっきり言えば、かなり遅れた技術だった。
この世界には、もちろん海や川にも魔物がいる。魔法という手段があるため、多少の対策はとられているが、まず、そこから無駄が多すぎる。
帆船には、魔物と遭遇しないために、索敵のスキルを持つ者を雇い、常に数人単位で船に乗っているらしい。そして、魔物を感知した場合、航路を変更する。そのため、帆船のスピードをあげるために風魔法を使える魔導師を必ず一人は雇い乗船させているらしい。
そんなことをずっとしたいたなんてコストが高すぎて話にならない。
「どう?十夜」
「話にならん。いつの時代の技術だ?」
「もー、十夜!もうちょっとオブラートに包んでから言ってあげて!」
「はははっ…、いいのですユーリさん。私共も分かってはいました。色々と改善はしているものの…私共ではこれが精一杯でして…。現状を維持する以外、これといった進歩もありません。トーヤ殿、本当にこのサーベストを変えられるつもりなのでしたら、どうか…知恵を貸してください!」
「当たり前だ。この俺がやるからには、徹底的に一から作り直す。しばらく、交易と航路は控えて、船を戻せ」
「えぇっ?!」
「もー!とーやー!」
とりあえずやることはまず一つ、船の改善だ。とにかくそこにつきる。
魔法や魔道具があるというのに、何故いまだに帆船なのか甚だ疑問だ。とにかく、一から作り直すには時間がかかりすぎる。なので、ここにある船を強化する。とにかくただの船を“魔導船”に作り変えることから始めることにした。
俺はダイトに造船所に案内するように言った。
ダイトは快く頷き、港から少し離れた入り江に作られた、造船所に案内した。
「ここがサーベストの船の全てを作っている造船所、造船組合です」
「おい、海運組合の組長じゃねぇか?何か用か?」
話しかけてきたのはいかにも親方と言った感じの大男。力仕事をしているためか、かなり鍛え上げられた体をした男だった。
「これはこれは、親方!お久しぶりですね」
「おう!当たりめぇよ。で?そちらさんは?」
「あぁ、お二人が、昨日連絡にあった公爵様のお客様ですよ」
「ほう?このわっぱどもが、サーベストを変えるために来たってぇ奴か?俺は造船組合の組合長、ラザウスだ」
「優理です。こっちは十夜です。よろしくお願いしますね」
挨拶も済ませたところで、俺はさっそく船をみた。
帆船としてなら最高の腕だ。魔物もいない、地球なら引く手あまただろう。まぁ、地球には鉄の船ばかりだがな。
木材はおそらく魔物の素材を使っているのだろう。そこら辺の木材とは訳が違う。鉄より強度は落ちるものの、普通の木材よりかは段違いに強度がある。
これなら魔法を後から付け足しても、反発も少ないだろう。
まずやることは決まっている。一つは船の強度を高めること。これにより、多少魔物にぶつかられたぐらいじゃ沈没しない船にする。
次に航行中の魔物の対処の改善。索敵スキルを応用した、地球で言うレーダーのようなものを作り、人に頼らない索敵を目指す。
他にもやることはあるが、大まかに改善だしなければならないのはこの2つだ。
それを説明すると、二人の組合長は困惑したように顔を見合わせた。
「まずは、ここにある全ての船の強度を高める。いい船なのに、勿体ねぇ」
「か、簡単にいいますが…一体どうやってですか?」
「おい、まさか船を一から作り直すのか?」
「そんな時間はない」
強度を高める、とは言ったものの、俺自身が魔法を付与すれば、簡単に強度が上がる。おそらく、強力な付与を行えば、魔物をものともせず、何百年と存在し続ける強固な船になるだろう。しかし、それでは意味がない。
俺がいなくてもそう言った船になるような技術が必要だ。
「付与……いや、結界か?水との摩擦を考えるとそれは……」
「トーヤ殿?」
「あー…、自分の世界に入っちゃってるんで、こうなると、しばらく戻ってこないと思います。すみません」
「いえ、我々はどうすれば?」
「十夜が言っていたように、船を集めてもらえますか?数時間もほっといたら、勝手に戻ってきますんで」
十夜の扱いをよく理解している優理。
十夜は一度集中すると回りが見えなくなるタイプだ。こうなると、しばらく戻ってこないことを良く知っていた。
十夜の思考の邪魔にならないよう、優理は二人に指示をだし、待つことにした。
「全くもぉ…、あんまりほったらかしにすると、どっかいっちゃうんだからね!」
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