英雄は愛しい女神に跪く

シーチキンたいし

これは…卵じゃないな


喚き散らすバカ三人を黙らせている頃、優理はワイバーンと対峙した。

卵をとられ、攻撃されたためひどく怯えと怒りで気が立っていたので、とりあえず卵をワイバーンへと返した。それをみたワイバーンは優理が危害を加えるつもりがないと理解し、大人しく優理の治療を受けてくれた。

その間に俺は、この馬鹿な冒険者達に詳しい話を吐かせた。

どうやらこの冒険者達、依頼の途中にワイバーンを発見。更に、その巣の中に卵を発見したことで、つい魔が差して、依頼主のダイトに報告もせず盗みを働いたそうだ。

魔物の卵は高値で売買される。その理由は、動物の習性にもある『刷り込み』だ。卵から孵って最初に見たものを親だと思う『刷り込み』を利用してペットや従魔として、扱うもの達に高値で売れるのだ。

この世界には、属性魔法ばかりではなく、契約魔法などといった特殊な魔法は無属性に分類されて存在する。そのなかに使役魔法というものがある。魔物にだけ効く魔法で、友好関係を築いた魔物を従魔に出来ると言った効果だが、この『友好関係を築いた』がネックだった。

そもそも、ほとんどの魔物に知性はなく、そう簡単に友好関係を築くことが出来ない。そして知性ある魔物でも、必ずしも友好関係を築けるとは限らない。そのことから、使役魔法は大きな欠点があるとされてきた。

しかし、刷り込み慣らした魔物になら、簡単に魔法をかけることが出来ると言う研究が成功し世間に発表されてからは、それが当たり前のようになった。

故に卵泥棒や、密猟者が後を立たないのだ。

まさか仕事中に卵に目が眩んで、泥棒をするとは。本当にはた迷惑な冒険者だ。

「で、遺言はあるか?」

「もぉ、直ぐ殺しちゃたらダメだよ!こう言うのは街の衛兵さんに任せないと」

「もうすぐサーベストです。私の馬車に縛って連れていきましょう」

「クソッ!」

縄で縛り直して魔法の拘束をとくと、三人の冒険者バカは、最後の抵抗と言わんばかりに睨み付けてくるが、たいしたことはない。

「グルルルッ」

「だーいじょうぶだよ!卵も無事だからね!」

優理に助けられ、無事卵を取り返したワイバーンは、感謝を伝えるかのように優理の顔にすり寄り、卵を抱えて何処かへ飛び去っていった。巣へ帰るのだろう。

「ちょ!ワイバーンさん?!卵!一個忘れてるよー!おーい!あぁ…行っちゃった…」

優理が慌てて声をかけるが、ワイバーンは振り替えることなく飛び去っていった。

たしか卵は三個あったが、ワイバーンが持っていったのはそのうちの二個だけで、ポツリと卵が一つ取り残されている。 

「おいおい、どうすんだこれ」 

「ワイバーンさん行っちゃったねぇ…」

「いや……ちょっと待て」

「十夜?」

俺は卵をじっとみた。それはもう、睨み付ける勢いで。

「これは……卵じゃないな」

「え?!でも、卵の型してるし…ワイバーンさんの巣にあったんだよね?」

俺は意識してスキルの完全看破を発動させた。そして俺の眼に写った情報は驚くべきものだった。

種族    :ミミックスライム(特殊個体)
個体名:(設定無し)
  HP :150
  MP:15804/2580000

固有スキル:完全擬態
あらゆるものに擬態できる。その対象の見た目、重さ、質感、肌触り、匂い、魔力にいたるまで、すべて本物と何ら変わらないクオリティでの擬態。レベルが高ければ、鑑定系スキルや索敵系スキルから逃れることも可能。ただし鑑定・索敵系スキルレベルが高いものにじっくり調べられると容易に気付かれる。

アクティブスキル:補食
                                    再生
                                    


と、出た。

MPの量が桁違いに多いが、HPはこの世界の5才くらいの子供の平均ステータスと同じくらいのでかなり弱い。

そして、持っているスキルもスライムの基本スキルの他に、俺達と同じ固有スキルを保有したいる。固有スキルだけあってその性能は破格だ。だが相性が悪かった。俺も優理も、鑑定・索敵系の上位スキルを持っているからだ。

「優理、よく感知しろ。コイツは魔物だ」

「え……?あ、ホントだ」

「おい、バレてるぞ。擬態をとけ」

卵に向かって脅すようにいうと、徐々にその姿が変わっていった。

ミミックスライム。かなりの特殊個体だ。おそらく、攻撃力も防御力も何もない、ただ身を守るために姿を偽ることに特化した個体なのだろう。

「キュゥ……」

プルプルと震えるその水まんじゅうのようなスライムは、怯えているようだ。

「そんなに凄んだら、可哀想だよ。……それにしてちょっと可愛いね」

プルプルしてて、と言いながらスライムをつつく優理。

「欲しいのか?」

「え?連れてくの?」

「そいつは固有スキル持ちの特殊個体だ。役に立つだろ」

「へぇ!スゴいんだね」

「おい、お前。俺達と来るなら殺さないでやる。どうする?」

「キュゥ?……キュ!」

言葉も理解できているようで、頷くように大きく震えた。

俺は創造で、使役魔法テイムのスキルを。これは、スキルの応用だ。そもそも、俺のユニークスキル『創造』は、イメージ次第で魔力を消費して質 を作り出すものだ。

スキルは物質ではない。なら、何故作ることが出来るのか。それは、俺が作っているのはスキルを構成する『魔素』を作っているからだ。

魔素とは、空気中に含まれている魔力の源のようなものだ。地球の知識で例えるなら、空気中には窒素が78%、酸素が21%、残りにその他の気体が含まれている。理科の授業でならう基本的なことだ。

この世界も地球とはだいぶ割合が違うものの、おおまかな所は一緒で、そのなかに魔素が含まれている。

人間や魔物など、この世界の生命体はこの魔素をからだに取り込んで、魔力へと変換する。これがステータスでいうMPだ。魔素も酸素や二酸化炭素などといった元素に分類されるなら、それを解析し作り出すまで。簡単なことだ。

その応用のおかげで、出来たのがスキルを作り出すことだ。まぁ、それなりに魔力を消費するので、かなりのMP値が必要だ。今の俺はミミックスライムの4倍はある。問題はない。

「行くぞ……、使役魔法テイム!」

「キュキュゥ!」

無事にテイムすると、嬉しそうにプルプルと震えた。

「名前どうしようか?」

「テキトーでいいだろ」

「だめだよ!名前がない可哀想じゃない。それに呼ぶとき困るし」

「じゃあ、『華藍カラン』。見た目藍色のスライムだしな。色にちなんで、お前はカランだ」

「キュゥ~!」

「喜んでるみたい!私、優理よ。よろしくねカラン!君をテイムしたのが十夜だよ」

「キュキュ!」

「頭良い子だね!」

優理は、初めてのペットに大喜び。この喜んだ顔を見られるのなら、やって無駄じゃなかったと思える。

「おや?スライムですか?」

「卵に紛れて擬態していたらしい。コイツは俺が使役魔法テイムで従魔にした。安心してくれ」

「テイム!成功したのですか?スゴいですね!」

出発の準備をしていたダイトが話しかけてきた。どうやら準備はおわったらしい。ダイトはテイムしたカランを感心したように観察し、称賛した。使役魔法テイムの難しさは常識のように一般にも浸透しているからな。

「さっそく出発しましょう!今ならギリギリ街の門がしまるまでにはサーベストに着きそうです」

「わかった」














「トーヤさん!着きましたよ!」

数時間後、馬車はようやくサーベストに到着した。門の前には、街に入るための簡単な検問を受けるための列が出来ていた。

「そのまま貴族用の門に行け」

「え?えっと……しかし、私は貴族用の通行許可書はもってませんし…」

「大丈夫だから行け」

「……はい、わかりました」

貴族用の門の前につくと、衛兵が出てきた。

「おい!ここは貴族用の通行門だぞ!いくらダイトさんでも無理だよ。一般はあっちだ」

「ほれ」

俺はマジックポーチから手紙を出し、近寄ってきた衛兵に投げ渡した。

「こ、これは?!こ公爵様の紋?!」

「呼ばれてきたんだ。こいつでここを通れると聞いたが?」

「少々お待ち下さい!!!」

衛兵は手紙を確認するために走っていった。そして、すぐに急いで戻ってくると、「どうぞお通りください!」と敬礼して見送った。

ついでに卵泥棒の冒険者バカを簡単に説明して衛兵に押し付けておいた。

唖然としていたダイトは、我を取り戻し馬車を発進させた。公爵家の紋の入った手紙をもつ俺をみて、怪訝そうに訪ねた。

「あなたは一体……」

「ふん、どうでも良いことだろ?こんな紙切れに左右されるほどお前の常識は脆いのか?」

「そう、ですね」

公爵家の紋の入った手紙を紙切れと言い切る十夜に、ダイトは苦笑いをこぼし、言われたことにそれもそうかと納得し、それ以上追求することはなかった。


こうして俺達はようやくサーベストへと到着したのだった。



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