英雄は愛しい女神に跪く

シーチキンたいし

サーベストへ向けて



建国祭も無事に終わり、俺と優理はサーベストに向けて出発することとなった。

「やぁ、トーヤ君」

「……暇なのか?」

「十夜!伯爵様に失礼でしょ!」

見送りに来たのは、ロギアスとその仲間達と、クーベルト伯爵とその息子テオ、それに何故か王子のレオンハルトもいた。

「いいよ、ユーリさん。トーヤ君にはお世話になったし、私はまだ王都での仕事が残っているからね」

「俺は、父上…陛下が来れないから名代で見送りに来たのだ」

「で?お前は?」

「俺の扱いが雑!いいだろ?!同じ冒険者のよしみでさ!」

まだまだ大勢の貴族の抜けた穴は大きく、官僚達はせっせと王城で勤務中。王もまた、忙しいので城に缶詰め状態。なのでその名代として、王太子であるレオンハルトが見送りに来たらしい。

ロギアスも、王都の警備の依頼も終わったので、仲間と共に本拠地にしているカザリアに帰るらしい。

「トーヤさん、またクーベルト領に遊びに来てくださいね。僕は落ち着いたら領に戻る予定ですから」

「……気が向いたらな」

「王都にも来てくれ、陛下も喜ぶ」

「あのおっさんが?」

「こら!国王様をおっさんって言っちゃダメでしょ!」

「はははっ、構わない。今はオレしかいないしな!」

「トーヤは怖いもの知らずだな…。次に会うときは、また仕事しようぜ。今度は冒険者らしいやつをな」

「……それも気が向いたときやってやる」

「おう!」

俺がそっけない態度でも、気にした様子のないロギアス。あれだな、こいつはクラスのお調子者のようなポジションになるタイプの奴だ。

「ふん、まぁどうせ遠くないうちに会うだろ。お前らにはまだまだやってもらいたいことがあるからな」

「?…それは?」

勿論、ダンジョンの事である。

この大陸を見て回ったあとは、他の大陸にも渡り観光して、一周するようにダンジョンのある島につく予定だった。

ダンジョンを何とか沈静化したら、専用のダンジョンにするつもりの十夜。当然採れる素材は自分達で消費するつもりだが、こうして国の権力者と縁を結べたのだから、色々手伝わせて協力してもらった方が楽だ。そんな思惑を十夜は思考していた。

「もういく。次に会うときまで死ぬなよ」

「え?ちょっ!」

「もう!十夜!すみません、また会いましょうロギアスさん、伯爵さん、テオくん、王子様」

十夜を追うように優理も歩き出した。

しばらくして、二人の姿は王都の門からは見えなくなっていた。

「行ってしまったな」

「そうですね、でも…また会えるような気がします」

「そうだな、それまでに俺達は俺達の出来ることをする。まずは王国の復興だ。十夜殿がまた現れるまでには、この混乱も終息させる」

「ですね、我々クーベルト家も協力を惜しみません」

「ありがとう、では我々は王城に戻る!ロギアス殿も此度は感謝する」

「いいってことよ!国王様の頼みだしな、またいつでも依頼をしてくれ」

「あぁ、カザリアに戻られるのだろう?ロギアス殿も息災で」

「おう!」

こうして、ロギアスもまた仲間と共にカザリアへと旅立っていった。
























歩き出した俺達は、サーベストに向けて、王都から北上していた。王都からサーベストまで、馬車旅で一ヶ月といった距離だ。

だが、それは馬車ならの話である。

「十夜!早いね!これ!」

「興奮して落ちるなよ」

「落ちないよ!」

俺達の乗っているのは、絨毯である。そう、所謂『魔法の絨毯』だ。それ自体に意思があるわけではなく、これはれっきとした魔道具である。

優理はお伽噺のア◯ジンに出てくる魔法の絨毯のようで、珍しさからテンションが上がっている。

ちなみに車やバイクにしなかったのは、単にこの世界の景観に合ってないし、見た目からこの世界の人間には理解不能な物なので、怪しまれるのを避けてやめた。

優理には軌道衛星作っておいて、その差はなんだと言われたが、何となくスルーした。

作るなら見慣れたものより、優理が喜びそうな物の方がいいに決まっている。絶対。

「この調子なら、早くて一週間…くらいでつくか」

「そーだね、サーベスト…この世界で初めての海が見れるね!」

「世界地図で見ただろ?」

「もぉ!情緒がないなぁ!十夜と二人で生を一緒にみたいの!地球あっちでは出来なかったじゃん…砂浜デート」

「そんなことなら、これからいくらでも出来る」

「うん!」

そんなことを話ながら道中を進んだ。

それほど急いでもいないから、時々休憩をはさみ、街道から少し離れた場所で野営をしたり、街道沿いにあるいくつかの町にもよったりして、サーベストに向かう。

「優理、今日のところはここで野営だな」

「はーい!じゃぁ、晩御飯の準備するね!」

そう言って、優理は俺が作って渡したマジックバックから、『簡易キッチン』を取り出した。

これは、料理を作るのが好きな優理のために俺が丹精込めて作った優理専用の野営用『簡易キッチン』である。その性能は勿論、俺が妥協せずに作り上げたものだ。高いに決まっている。

右の戸棚からは皿、茶碗、グラス、箸、フォークにスプーン、あらゆる食器が出てくる。そして、左の戸棚からはフライパンや鍋といった、豊富な調理器具が出てくるようになっている。他の細々とした引き出しからは、菜箸や、おたま、計量カップ、包丁とまな板など、必要なもなのはなんでも揃う『簡易キッチン』だ。『簡易』の意味とはなんぞや。

まぁ、そんな感じの『簡易キッチン』で、預けておいた食材で料理を作り始めた。

優理が料理をしている間、野営場所の確保と、テントの設置が俺の仕事だ。まずは、これもまた俺が作った『簡易テント』をアイテムボックスから出す。中は時空魔法の付与によって領域が拡張されているため、見た目と中身が一致しない。

なかは独り暮らしのワンルームくらいの大きさになっている。気温も常にちょうどいい温度に保たれ、中には風呂も完備。間接照明とクイーンサイズのそこそこでかいベッドが部屋の真ん中に置かれているだけのシンプルなもの。勿論、ベッドも終焉の深森ゼロ・フォレストで狩ったSランクの魔物の素材を使った超高級品だ。

防犯面も完璧で、所有者の許可なしには入れず、そもそもテント自体が超硬度を誇る魔物の骨を骨組みに、革を外装の布部分に使用しているため、並の攻撃ならびくともしない。一種のシェルターのようなものだ。

……これまた簡易とは?ま、使えればいいだろ。

設置後は、辺りの見回りをする。

この辺りの魔物は、終焉の深森ゼロ・フォレストに比べて、かなり弱い。もはや作業のように魔物を片付ける。

弱いとは言っても、俺達にすればの話だ。この世界の力を持たない人間にはやはり、厳しいらしい。倒したならそれなりに報酬も出るので、アイテムボックスのなかに収納しておく。

「十夜、準備できたよ。食べよ?」

「あぁ」

優理の手作りの料理。今日の献立は、昼間の魔物の肉で野菜のたくさん入ったスープと優理特製のパンだ。

この世界の主食はパンだ。俺達は米のほうが馴染みがあるので、街に着いたときに米を探してみた。あるにはあるが、家畜の餌さとして使われていた。なんとか食えないかやってみたが、不味い。そもそも地球あっちの日本の米は、日本人の口に会うように研究され、品種改良されたもの。この世界の何も手をつけていない米など食えたものじゃない。

ダンジョンの島が手に入ったら、のんびり研究するのもアリだな。

街についたとき、初めてのこの世界の食べ物を口にした。そこそこうまいが…兎に角主食のパンが壊滅的だった。酵母の入っていないカチカチの石のような硬いパン。とてもじゃないが食べられなかった。

そこで優理が手間をかけて酵母を作り手作りで柔らかいパンを作ってくれた。優理の手料理は最高だ。

「うん、うまかった。ごちそーさん」

「ふふふ、ありがとう!お粗末様でした」

「優理の手作り料理は最高だな。いい嫁になる」

「む!一体誰のよ!」

「俺だが?」

「もぉ!」

優理は顔を赤くして照れてポコポコと俺を叩くが、全然痛くない。

食後はしばらく雑談して、一服しながら明日の予定を決める。スマホで送られてくる衛生地図で確認すると、サーベストまで馬車で1日、俺達なら半日もかからない。

「いよいよだね!」

「魚介を色々買い込むか。優理、また色々作ってくれ」

「わかった!……あ」

「ん?どうした?……あぁ、客か」

優理の方が探知が長けている、さすがだ。どうやら、馬車の一団がこちらに向かってきていた。

俺達は街道を無視して、飛んでいた。だから何処かで追い越したんだろうが、どうも様子がおかしい。

見えてきた馬車は、所々ボロボロ。とても長旅に耐えられるような物には見えない。だが、傷は最近出来たものだ。恐らく街道の何処かで、魔物か野党にでも襲われたか。

馬車は俺達の前に止まると、中から数人降りてきた。少し汚れているが、高そうな服を着た男と、武器を装備した奴が3人。

この馬車の持ち主と、護衛だろう。

「こんな夜更けにすみません!我々も近くで野営をしてもよいでしょうか?見ての通り、道中魔物に襲われて……消耗していまして…。都合がいいのは重々承知なのですが何卒お願いします!」

「優理」

「うん、大丈夫だよ十夜」

「構わない。好きにしろ」

「ありがとうございます!」


俺がそう答えると、馬車の一団は近くで野営の準備を始めた。

先ほど優理に確認したのは、別に隣で野営しようとしている許可ではない。この一団がどうかだ。まぁ、俺達に話しかけてきた時点で、分かってはいた。

わざわざ俺達に許可などとらなくても好きに野営はできるし、それに格好を見れば冒険者だとわかる。護衛を頼もうとすることだって出来る。しかし、そんなそぶりは一度もなかった。人がいいのか、お人好しなのか。 

しかし、護衛の冒険者どもは納得してはなかったようだがな。

そんなことを考えていたら、その冒険者達が優理に話しかけてきた。

「すまない、君も冒険者だろうか?」

「え?はい。そうですけど?」

「僕は王都で冒険者をしているパーティーだ。今回サーベストまでの護衛をしているのだが…先ほど魔物の戦闘で食料を失ってしまってね。よければ、分けてもらえると助かるのだけど」

「……?」

この男はバカか?

流石の優理も首をかしげている。冒険者の仕事を他人に口外するなどもっての他だ。そもそも、こいつらは俺達が冒険者かどうか、ギルドカードも確認せずに優理の言葉だけで信用している。その時点でバカ確定。

確かに見た目は冒険者だが、それを見て判断するなんてあり得ない。なんのためにギルドカードがあると思ってるんだ?

そして、こいつら自信もギルドカードを出してないし、そもそも自己紹介すらない赤の他人に大事な食料や備品を無料タダで渡せと言っている。ホントに大バカだ。

「……大事な食料を、対価も無しに譲れってことですか?」

「あぁ、すまない。僕はこう見えても王都で指折りの冒険者でね。今は持ち合わせがないが、食料を譲れってくれたら王都で色々ギルドでも口利きできるよ」

……怒りを通り越して呆れた。

そんなものが対価になっていると思ったらとんだ検討違いもいいとこだ。

「すみませんが…名前も知らない、身分も証明しない……そんな人にお譲りできる食料はありません」

にこやかに笑って言っているが、凍えそうなほど顔が笑ってない。

「ちょっとアンタ!ウィルに失礼じゃない!食料を少し分けるくらいいいでしょ!」

「そうよ!」

残りの二人が、申し出を断った優理に詰め寄る。こいつらは全然わかってない。

「なんなんですか?私、別に間違ったことなんて言ってませんよね?というか、十夜を無視して私に話しかける辺り、あわよくばって思ったんじゃないですか?甘く見られたのかな」

「す、すまない!気分を害したかな?」

「害したもなにも、始めからそうですよ?私と十夜の時間を邪魔しといて。食料が欲しければ譲りますよ。無料タダで。なので、近づかないでくれます?」

そう言うと優理は荷物から見えるだけの食料を女に握らせて、俺のもとに戻ってきた。

「ごめんね、待たせて。もう寝ようか?」

「……あぁ」

優理の腰を抱き、テントに入ることにした。横目でみたらウィルとか言う男の冒険者が、こちらを忌々しそうに見ていた。


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